とことん「本質追求」コラム第475話 高単価設定は、中小企業経営の基本戦略

 

『藤冨先生、新規事業の値付けについてご相談したいのですが、どう思いますか? 原価から考えると、どうしてもこれが限界でして…』

 

 

先日、スポットコンサルティングをお申し込み頂いた方からのご相談が、とても心に響いたのでご了承を元に、皆様とも「中小企業のあるべき経営」について共有したいと思います。

 

同社は、元々「金属加工業」だったのですが、今回のコロナショックを契機にBtoC市場に参入されたい…とのこと。

 

専門の加工技術は異なるものの、注文からお届けまで3年以上も待つ大ヒット商品「錦見鋳造」の魔法のフライパンの様なヒット商品を作りたく、かれこれ3年ほど前から悶々と考えていたそうですが、今回のコロナをキッカケに意を決した様です。

 

昨年5月くらいから、社内で「自社の技術を使って何ができるか!」を徹底的に議論し合い、ようやく試作品が完成。

 

この肝入り新商品の「上市」を如何に成功させるか。

そのマーケティング戦略の一環として、価格設定についての第三者評価を聞きたい…とのご連絡でした。

 

伺えば、業界唯一無二の精密加工技術をベースに作り上げた商品。

手間暇掛けた一切の妥協がない商品にも関わらず、自己満足の世界に浸らずどこか謙虚さも感じる顧客目線にたった商品。

ここまで仕上がっていれば、あとは的確に市場に魅力を伝えることができれば、着実に売れ続けることは間違いありません。

 

今回のご相談は「価格決定」が主でしたが、「値決めは経営である」と京セラ創業者の稲盛和夫氏が言う通り、非常に重要なテーマ。

上述社長は曰く

「手間暇かかるし、(素材が高い)ので原価も高い。どうしても〈高単価〉に設定せざるを得ない。でも正直、このご時世でこの値付けは不安だから思い切って安くしようか、それともちゃんと利益が取れる様な高単価設定にすべきか…」と考えあぐねいていたので、迷わずにこう進言しました。

 

「社長が今思い描いている高単価設定で間違いありません。そもそも安売りなんて考えなくても良いです。」と、伝え、その理由を伝えました。

 

本コラムでも何度かお伝えしている通り、特例を除き中小企業における価格戦略は「高単価設定」が基本です。

 

その理由は、5つあります。

 

  1. 事業育成に集中できる
  2. 熱烈なファンを育成できる
  3. 優秀な人材が確保できる
  4. 優れた情報が入りやすくなる
  5. 次なるイノベーションを起こせる

 

上記の5つが、高単価設定をする上での経営メリットになります。

順番に解説していきましょう。

 

 

  1. 事業育成に集中できる

そもそも低価格にするためには、生産量を引き上げる必要があります。

累積生産量が2倍になることにより、単位あたりの原価が20~30%削減できる、と言われていますが、これは製造業だけでなく、サービス業にも当てはまります。

「広告投資対1拠点当たりの効果」や「一人当たりの教育費の低減」「消耗品等の購買力増加による仕入値の低減」などなど、事業運営コストが相対的に下がるために、高収益化しやすくなります。

つまり、低価格設定は「投下資本をたっぷり掛けられる企業」が採用する戦略になります。

資金が乏しい企業が採用すれば、利益が出ずに右往左往することは火を見るより明らかです。

本業に集中するには、潤沢なキャッシュフローがあることが前提。

消去法で考えても、高単価設定を採用することは、必然であることがわかります。

 

  1. 烈なファンを育成できる

誰が言ったのか知りませんが、「儲ける」には、信者を作れ!と言いますが、これは本当。

天下のソニーは「ロイヤリティループ」と言うマーケティング戦略で「信者」を育成していることで有名です。

マス広告(TV CMなど)で認知度を上げ、商品購入の期待値を上げていく。

そして、購買行動につながった顧客に「カスタマー登録」を促し、継続的にフォロー。

体験した価値を実感、浸透させて、購入した事は正しかった!と認識せる事で、信者を作り出す。

このループを持続的に回していくマーケティング活動を徹底させています。

「リピーター育成」「紹介商談」を促す仕組みは、事業育成には欠かせませんから、その費用捻出のために高単価設定を採用することがベストである事は間違いありませんね。

 

  1. 優秀な人材が確保できる

低価格戦略の雄ではありますが、日本マクドナルドの故 藤田 田氏は、まだ日本に数店舗しかないスタートアップ時代に、日本で一番高給取りの会社にする!と豪語したと書籍で明かしていました。

アメリカのレイクロックが育て上げた(※1)優れた高収益フォーマットに、さらに優秀な社員による「ロイヤリティループ」が徹底されれば、高収益事業が育っていくことに確信を持っていたのでしょう。

今は、外食企業のランキング3位に転落してしまいましたが、藤田田社長時代は、長年1位をキープしていました。

優秀な人材の定義は、企業文化ごとに異なりますが、自ら考え、自ら行動する逸材を育成するには、素地が大切な事は言うまでもありません。

その人材を定義する余裕、素地のある人材を発掘する仕掛け、育成する仕組みなどの「間接経費」を捻出するためには、高い利益率が下地にあることは言うまでもありません。

高い利益率の源泉は、高い粗利益率。高単価設定が、高い粗利益率を生み出しやすいのは、上述(1)の通りです。

 

※1 最初にマクドナルドの仕組みを開発したのはマクドナルド兄弟で、レイクロックは悪く言うと兄弟のノウハウを横取りしたに過ぎませんが。

 

 

  1. 優れた情報が入りやすくなる

低価格戦略の弊害は、仕入れ先の利益を蝕んだり、他の取引先の値段も徹底的に叩き上げて、利益を捻出しようとする企業行動に出がちな事です。

虐げられた仕入れ先や取引先は、どのような気持ちになるでしょうか?

当然ですが、好意的に見てくれるはずがありません。

逆に、適正に儲けさせてくれる取引先だったら、どうでしょう。

当然ながら、良好な関係を保とうと商売に役立つ情報を教えてくれるようになります。

適正な粗利益を稼げていれば、仕入れ先や取引先に無理強いする事はなくなります。

その基盤が、どれほどまでに経営に貢献するか。

成功している企業の大半は、体感している事だと思います。

 

 

  1. 次なるイノベーションを起こせる

粗利益が稼げ、優秀な人材によって、営業利益を伸ばすことができれば、さらなる顧客満足を追求するための商品改良や周辺商品の開発原資が生まれます。

経営の神様と呼ばれたドラッカー は「利益は未来費用である」と定義しましたが、長いレースで経営を捉えた場合、この言葉の深さを感じざるを得ません。

 言い換えれば、利益は顧客創造の原資であると言えます。

イノベーションを経て、次なる事業を生み出し、育て上げる上で、「高単価設定」は基本中の基本です。

 

2015年に4月にも、競合商品の30倍以上も高い価格設定で成功している中小企業の事例を挙げながら高単価設定の重要性を書き綴っています。

→ 第151話 利益のあがる価格決定方式(https://www.j-ioc.com/wp2024/column/2103/

 

ぜひ、併せてお読みください。