とことん「本質追求」コラム第369話 二宮尊徳に学ぶ成長発展の下地づくり

 

 

 

『次に大きな不況が来たら、日本は立ち直れるのですかね』

 

先週のコンサルティング現場では、前回のコラムが題材となり、次なる経営の打ち手をディスカッションする場となりました。

 

会話が広がった起点のキーワードは『底力』です。

 

同社の社長がコラムを読んで『結局、自分が正しいことをやっているという認識があると底力が出るのでしょうね』との見識を発したところ、幹部社員の皆さんが、大きく頷きました。

 

ところが、皆さんあまり明るい顔をしていません。

 

状況を察して、藤冨が「若手の皆さんも、自分たちが正しいことをしている!と認識して営業していますかね?」と聞くと、営業部長が肩を落としながら言いました。

 

「お客様には満足してもらっているので、そう思える環境にはいるのですが… どうも自信無さげなんですよ」と、それこそ個々の営業マンの「底力」が出ていない状況とのこと。

 

 

お話を伺うとどうやら理由は「若手特有の意識」が起因しているようです。

 

確かに、自分たちが正しいことをやっている!と自信が持てる状況であっても、物の良し悪しは「相対性」を持って決まります。

 

自分たちは良いことをしている!と思っても、様々な顧客がいますから、全ての顧客が100%満足するわけではありません。

 

ある人(法人)は、渋い評価を下す人もいるでしょうし、競合の方を評価する人も出てくるでしょう。

 

そういった現実を目の当たりにすると、どうも多くの若手社員は、そのまま現実を丸呑みしてしまい「自信」が削ぎ落とされてしまうようなのです。

 

 

社長さんの不安はここにありました。

同社の若手社員さんだけを見ているわけではなく、全体論として懸念を抱いていらっしゃったのです。

 

ここは、私も強く共感をしています。

 

1991年 日本のバブルが崩壊した際は、GDPのおよそ2倍の借金(債務総額)がありました。

この歪んだバランスシートに耐えられなくなり、バブルが崩壊したわけです。

 

あれから、28年。

なんと今の世界の債務総額は、GDP比で3.2倍まで膨らんでいるようです。

 

中でも、中国は2.6倍。我が国もなんと2.3倍に債務が膨らんでいるという統計が発表されています。

さらに、アメリカもGDP比では1.1倍程度ですが、額にすると2300兆円前後と膨大な債務を抱えています。

 

世界の主要各国が膨大な借金を抱える中、何かしらの信用収縮が起きれば、かつての日本のように借金によって膨れ上がった「負の遺産」を解消するのに膨大な時間がかかると思われます。

 

不安を煽るつもりはありません。

 

政治家が、国民の表面上の人気取りを即刻やめ、真摯に現状を受け止め、取るべき対策を取れば、問題は回避できる可能性はあるはずです。

 

しかし、日本のみならず、アメリカのトランプさんも、中国の習近平さんも近視眼的な我田引水を続ければ、高い確率で世界的な大不況に突入することを否定できない状況にあると藤冨は認識しています。

 

 

予測できる危機があるならば、その状況を想定しておくことは大切です。

それに備えて準備することができるためです。

 

冒頭の社長さん、幹部の皆さんとも、そんな会話をしながら「準備」について話し合っていました。

 

ただ、どんなに優れたプランがあっても、それを実行するのは「人」です。

 

28年前のバブル崩壊の際は、日本人はそれこそ「24時間戦えますか?」という社会的空気感があったからこそ、なんとか立ち上がることが出来ました。

 

しかし、今の社会的空気感では、「そこまで苦労してやることないじゃないか?」と努力を軽んじる傾向が強くなっています。

 

危機を乗り終えるのは「努力」以外にありません。

 

今から、努力をすることの大切さを、少なくても「企業の中」だけでも醸成しておくことが大事なのではないでしょうか。

 

そのためには、「甘えの構造」を組織から排除することが大事です。

社会的な風潮とは逆行しているので、簡単なことではないですし、企業のトップが本気で断行しない限りは、実現できません。

 

それでも、断行しさえすれば、最終的に「よかった」と評価してくれるのは、社員の方です。

 

 

二宮尊徳が、小田原藩の藩主から年貢が1/5にまで落ち込んだ村の再建を頼まれた時のことです。

 

最初は不相応な役割を担うことはできないと辞退を繰り返していましたが、一度様子だけ見に行ってみようと、その村に出向き、数ヶ月間村民と一緒に暮らしながら再建の可能性を探っていたそうです。

 

数代にわたって放置されていたため、村民は貧困に陥っていました。

貧しさゆえに道徳心が失われ、博徒、盗みが横行。

村民の心が荒むのが映し出されるように、田畑も荒れ果てていたそうです。

 

尊徳は、藩主への報告書でこう書き記したそうです。

 

「(村を再建するための)補助金の支給や年貢の免除は苦しんでいる人々を救うのに何の役にも立ちません。それどころか、救済の鍵の一つは金銭支援を一切やめることにあります」

と、甘えの構造を断ち切り、勤勉こそが危機から脱する唯一無二の道であると伝え、藩主の正式な依頼の元に、再建を断行していったそうです。

 

前回のコラムでも書きましたが、今の社会的な風潮は労働者の権利が高々と主張されていますが、歴史を振り返ると、とても強い懸念を抱かざるを得ません。

 

「ブラック企業」とか「パワハラ」など、ひどい企業の実態は改善していかなくてはなりません。

 

しかし、そうした言葉が一人歩きする危険性も同時に受け止める必要があります。

 

危機が起きた時に、一番苦しむのは自分たちなのですから。

 

今、行うべきことは「道徳心の回帰」「仕事への向き合い方改革(勤勉さの回復)」です。

 

世界的な大不況が来ようが来まいが、その下地づくりは企業の成長発展には無駄にはなりません。

 

御社では、予測される危機を乗り切るための下地づくりに意識を向け、実行計画にまで落とし込んでいますでしょうか?