20年前と比較して、中学・高校の生徒数が37%程度減少しているにも係わらず、売上高160%増を達成している制服メーカーの(株)トンボ。
市場が縮小すれば、当然のごとく売上高の減少も避けては通れないのが、常識的な見方。
しかし、現実を直視し、真摯に自らの事業のあり方を深耕していけば、縮小市場の中での救世主となり、顧客から選ばれる企業となるものです。
自らの事業のあり方…を顧客の目線から観察すると、トンボは決して「制服」を売っていません。
顧客…つまりは中学校や高校は「制服というシンボルを通じて、ブランド戦略のあり方」をトンボから購入しているのです。
中学、高校の経営という観点から見ると、生徒数は4割近く減少しているのに、競争環境…つまり中学・高校の数はたった4%しか減少していません。
学校経営は、極めて厳しい経営環境だと伺えます。
そのような中、定員割れが続き、経営危機に陥っていた学校を、トンボは「制服の力」で脱却させているのです。
とある校長先生曰く「本来なら教育の内容を高めていくべきかも知れないが、学校も経営と言う側面で見れば短期間に改革できれば、それに越したことはない。その決め手の一つが制服の刷新だった」と、コメントしています。
制服の変更に合わせて、着こなし術やカラーコーディネイトや茶道などを学ぶ専門家を招き、情操教育に力を入れたところ、学生服を着崩す生徒がいなくなり、周囲の評判も上昇!
有名大学への合格者をも輩出するようになり、定員割れを起こすことがなくなったというのです。
トンボは、制服を通じて「生徒の集客」に貢献したのです。
これは決して偶然ではなく、計算し尽くされた営業戦略が成功のカギを握っています。
通常であれば営業活動が一段落する4月からトンボの営業担当者は全国の学校を飛び回り、制服が変わった学校や変更した制服の特徴を徹底的に調べ上げるそうです。
学校の歴史、校風、校歌、建学の精神、地域の自然風景や名所、近隣他校の制服なども徹底的に調べ上げ、提案すべき方向性を固めているのです。
私自身が、セミナーでよくお話している「4項目情報収集法」を組織的に徹底させているのが分かります。
4項目情報収集法とは、提案する顧客や市場(ここでいう学校経営)の
「あるべき姿(理想の姿)」
「現状」
「課題」(あるべき姿と現状のギャップ)
「購入阻害要員」
を浮き彫りにして、「購入の必然性」を作り出していくものです。
論理的に「購入の必然性」を浮き彫りにして、提案の方向性や、商談の運び方を決めていくことで、商談確度は飛躍的に向上していきます。
購買行動は「感情」が決め手となる…という見識者が多いですが、「論理」という土台なくして「感情」は動きません。
とくに法人営業では、理詰めでモノを考える「論理性」が加え、事業コンセプトを明快に打ち出すと、業績がは2倍、3倍へと成長するケースは決して珍しくはないのです。
営業マン各自の活動を自主的に任せるだけでは業績が飛躍しなくなった今、組織的に営業ノウハウを蓄積・活用する活動が求められるようになってきました。
「我が社は、○○(商品)を通じて、何を提供するのか」
「そのためには、どのような下地(情報)が、必要なのか」
「下地を作るための活動は、いつ、誰が、どのように行うべきなのか」
徹底した「思考活動」が、縮小市場のなかでも一人勝ちするための戦略ベースとなるのです。
※本記事は、2013年8月19日の日経MJの一面を飾った記事を参考に執筆しています。
統計数字に関しては「文部科学省」の文部科学統計要覧から引用、計算しています。