とことん「本質追求」コラム第56話 営業マンのコミュニケション能力は上達しない?!

「お言葉ですが…いくら教育してもダメな営業はダメなんじゃないですか?」

毎月2回のペースで訪問している支援先企業のトップセールスマンのAさんが、朝礼が終わったすぐあとに、こう話しかけてきました。

前回訪問日に、社長から”30分程度現場の様子を見てほしい”と言われたので、トップセールスマンが新人営業マンに教育している現場を入り込みました。

電話営業をしている新人営業のやり取りを見て、Aさんは…
「いきなり説明してもダメ、まずは雑談から入って!」
「どうしてそうボキャブラリーが無いんだ。もっと話を膨らませて!」
と、1件の電話が終わる度にアドバイスをしていました。 

あぁ、これじゃ人は育たないだろう…と思いながら、社長にちょっと痛い質問をしました。 
「社長、いままで新人教育で上手く育ってきた経緯はありますか?」と。

すると 
「いや、売れる人はすぐ売れるし、売れない人はいつまで経っても売れないですよ」と、まったくもって想定通りの答えがかえってきたのです。

Aさんに直接アドバイスをさせてもらうことに了解を得て、別室で「新人さんは話をするだけでも大変なので、定形のセールストークを作ってロープレしたほうがいいですよ」と助言しました。

コミュニケーションは、言葉の使い方など表面的なものは修正できますが、”やりとり”に関しては、他人が修正することは極めて困難。いえ不可能と言っても過言ではありません。

幼児は、親に見放されることがないように試行錯誤しながら養育者(親など)に適応していきます。
それを土台に幼少期に築いた親子関係、さらには大人になるまでに兄弟や親戚、先生や友人、先輩・後輩といった人間関係の中で築いた「生きる処世術」は、そうそう簡単に治らないのです。 

この生きる処世術は、専門用語で「人生脚本」といいます。 
人生脚本とは、人生の早期に「どのようなコミュニケーションや行動をすれば、社会と適応できるか」を決定してしまったプログラムです。

だから、本人が自分の性格に嫌気をさして「このままでは生きていけない、変わろう!」と決意しない限り、変わらないものなのです。 

それを治せ!というのですから 
Aさんが行なっている新人教育は、ある種「拷問」に近いものがあったのです。

もちろん百戦錬磨のAさんも「はいそうですか!」と素直には聞きません。 
今までのやり方を否定されたと思い込んで、アタマに来ています。

「あの程度の会話ができなければ、営業なんて出来ませんよ。根本から叩きなおさないと!」と鼻息が荒くなってきました。

「確かにそうですね。でもそれはAさんだから出来るコミュニケーション方法なんです。だからトップになっているんですよ」と、Aさんの自己重要感をちゃんと抑えておきながら…

「何パターンかあるウチの1個だけ、スムーズにアポが取れるやり方だけを教えて上げてください。Aさんのように10件かけて3件取れる人にはなれないけど、10件かけて1件取れる人にはなりますから」
そう伝えると、その場では納得してくれました。 

ところが、先週末、まだ腹の虫が収まらなかったのか、朝礼が終わってから噛み付いてきたわけです。

負けず嫌いは、トップセールスにとっての重要な資質なので、「さすがだなー」と思って反論を聞いていました。 

2~3分でしょうか。 
ひと通り自己主張が終わったあと、 
「まぁ、でも教育出来る人間は私しかいませんからね。ちょっとやってみますよ」と、前回の私の意見に同調してくれたのです。

その数日後… 
先週の土曜日の夕方にAさんが直接私の携帯に電話をしてきました。 

また反論か??? 

と思って受話器を取ると
「新人さんが1本取りましたよ!ダメな子だと思っていましたが、素直ですからね。やっぱり素直な人は伸びますよ!」
と、笑いながら話をしてくれたのです。 

「素直なのは、Aさんですよ…」と心で思いながら、受話器を置きました。

「人の能力で売る!」という姿勢から「型で売る!」という姿勢に持って行かないと、営業部員全体の底上げは、なかなか実現出来ません。

「型」とは、商談の運び方や商談上起き得る会話のパターンです。 
これを全部出すのは不可能です。しかし、最初は1~2パターンでいいのです。

新人さんに早期に結果を出してもらい、自信をつけさせ、型を幾通りか覚えていけば自然と”仕事での”コミュニケーション能力は高まっていきます。

コミュニケーション能力を上達させようと思ってもムリです。 
仕事を覚えた結果、自然とコミュニケーション能力が上達するように仕向けなければ…。