とことん「本質追求」コラム第53話 付加価値とは「知恵」である。

「社員旅行って、何のためにいくんですかね?」

先日、セミナー終了後に「旅行業」を営む社長と営業マンの方が一緒に個別面談にいらっしゃいました。
現状の業績における心配は全くないとの事でしたが社長としては今一歩「成長」を感じられず、どうやったらもっと生産性の高い営業活動ができるのか… そんな課題を胸に抱かれていました。 

セミナーでは「波及力の強い営業を進めていくためには市場を絞る事がポイント」というテーマにピンとアンテナがたったとの事で、そこを中心に掘り下げることに…。
旅行業ですから、新幹線の切符の手配から、社員旅行、地元団体の慰安旅行、さらには地域の子ども会旅行まで、様々な案件があるそうです。
ここをどう絞っていくか…非常に悩ましい課題です。 
と言うのも、切符の手配などの”誰にでも出来ること”は、その企業でなくても構わないのですから、どんどん業務から切り離してしまうのが、一般論としての意思決定です。
しかし、その土地では16万人という非常に限られた地域。 
しかも大企業の城下町であり、人口の1/3は、大企業の勤め人。
そんな条件下で、旅行業を営むことを考えると、一人ひとりの顧客を大事にして、例え生産性の低い業務でも「つながり」として残しておいて、その「つながり」の中から、ときどき「棚ボタ」が貰えればいいか…的な発想がよぎるのも、無理の無い事だからです。 
正直、ココは、売上構成比とか、顧客台帳とかを精査して「数字と顧客のひも付き」を見ないと断定は出来ません。
しかし、直感は騒いでいます。 「つながり」からのパック旅行のリード(売上のきっかけ)は、大した数字ではないだろう…と。

社長自身も「ホンネを言えば、切符の手配なんて駅に行って欲しいよ」と思っています。 
煩雑な業務が積み重なれば、本来やるべき重要な仕事が見えなくなってしまうからです。
そんなことよりも、もっと生産性の高い営業を…。 

そのためには、どこに絞って活動すべきか… 果たして、そんなテーマはあるのか… 軽くブレストしていると、たまたま同席していた同社のクライアントさんが口を開きました。 
「以前、御社にお願いした社員旅行でリッツカールトンに行ったとき、単に高いホテルに泊まった…というだけで、あれが何だったのか正直理解できなかったんですよ」とズバリ本音トークが。
まさに顧客の声には、珠玉のヒントが隠されています。 
社員旅行の手配を依頼した社長は「リッツのような優れたサービスに触れて我が社の社員の意識もあげていきたい…」という思惑があったとの事でした。
しかし、実際の社員は「高いホテルに連れていってもらった」という感想。 
これでは、社長が大金をはたいて社員旅行に連れていった”想い”が半減してしまいます。

社員旅行なら「●●社に任せよう!」という強みを身につけるには、社長の意向を組んで「社員が成長するための仕掛けを企画の中にふんだんに取り組む」こと…つまり付加価値をつけて行くことを考えなければなりません。 

そんな話をしていると、営業の方が「じゃぁ子ども会旅行とかは、ジュースをサービスするとかですかね!」と無邪気な発言が。 

この勘違いはマズイ…と、すぐさま言いました。 
「ジュースをプレゼントするのは、サービスと言います。それは付加価値ではありません。付加価値とは知恵からしか生まれません」 と言うと、社長はすぐさまメモを取り始めました。 「付加価値は知恵か…」と。 

付加価値とは、今ある価値に、別な価値を付け加えて足し算することではありません。 ゼロから価値を捉え直し「あなたが求めていた価値とはコレですよね?」と、顧客の声にならない欲求をカタチにすることなのです。

子供会の旅行に連れていこうとお金を払う親が、本当に求めていることは何だろうか…。 

  • 自立を促すキッカケづくり?
  • 普段忙しくて十分に構ってあげることが出来ない子供への謝罪? 

口にしない本当の欲求を察し、その欲求を満たす「カタチ」を作り、同じ欲求を持つ市場に鋭く営業をしていく…。 
市場からの反応をツブさに観察し、その「カタチ」を磨き続け、さらに欲求を満たす付加価値を生み出していく。

言うは易し行うは難しで、この思考回路を組織に定着させるのは、極めて大変。 人間は、答えが中々でない問には耐えられず、すぐに安直な答えを出してしまう習性がありますし、組織であれば、なおさら「妥協の産物」という恐ろしい魔物が存在しています。 

それを如何に払拭していくか…。
主力商品のリードに繋がらない生産性の低い仕事の排除。 
人間や組織の習性との戦い。 

生産性の高い営業活動をするためには、まずはこの「環境整備」から始めなくてはならないのです。