とことん「本質追求」コラム第25話 【成功の代償】マイクロソフトは、なぜグーグルに負けたのか?

歴史から学ぶ定石をベースに自社および競合企業を分析することはとても重要だと思います。 

しかし、ただ学んだだけ、ただ分析しただけ・・・では、何の役にも立ちません。

やはり、具体的な戦略・戦術に落とし込み、実行プランを遂行できなくては、プロの仕事人としては意味がないと思うのです。

マーケティングの世界では、「アメリカの鉄道会社がなぜ衰退したのか」という有名な話があります。 

これは事業の定義を如何に定めるか・・・
その答えによって企業の競争力が変わるという教訓を残しました。 

鉄道会社が衰退したのは「我社は鉄道会社である」と定義したためで、かたや航空会社は「人とモノの輸送をより迅速に実現する会社」と位置づけました。

消費者からしてみれば、A地点からB地点に行くのに、鉄道で行きたいとなんて思ってはいません。 

より早く、より安全に移動したいだけです。

当社は何を提供している会社か・・・マイクロソフトが、まさかこんな初歩的な歴史からの学びを活かしきれていなかったのか・・・と思うと、すこしショックを受けてしまいます。 

やはり、どんなに優良企業でも、優秀なオブザーバーがいて、トップがその意見をしっかりと聞き入れなければ、過去の成功体験に依存するしかなくなってしまうのでしょう。 

しかも、その成功体験が大きければ大きいほど、視野狭窄になってしまう・・・

いくつかの事例を紐解くと、それが克明に見えてきます。

 

今からおおよそ8年前。

マイクロソフトのブラウザー「インターネットエクスプローラー(以下、IEと呼びます)」 は、シェア8割強をキープしていました。

しかし、2012年5月にアイルランドのアクセス解析サービス会社「StatCounter」が発表した統計によると・・・

IRは50%以上もシェアを奪われ、グーグル社の「クロム(Chrome)」に首位の座を取られてしまいました。

 

とある「BtoC」のサイトのアクセス解析結果を見ても「5年前から40%近くもシェア」を奪われており、弊社のような「BtoB」ではアイルランドの会社とほぼ同様のシェアの状態が見らました。

 

あと、数年・・・いえ数ヶ月もすれば、間違いなくクロム圧勝の日が来ることは間違いなさそうです。

 

マイクロソフトの敗因には、様々な原因分析があるのでしょうが、私の視点で眺めると、理由はただ一つ。

 

マイクロソフトの視野狭窄に根本的な敗退原因が横たわっています。

 

マイクロソフトは、オフィス(ワードやエクセル)でシェアを斡旋した時と同じ目線でブラウザーを作りこんでいました。

 

つまり、「パソコン単体」と「表示の最適化」という『モノ(言語も同様)』を視点に見ていたのです。

 

事業の定義からすると「私たちは顧客のブラウジング環境をより最適化する事業を運営すること」といった感じでしょうか。

 

しかし、グーグルは視点をもっと大きく捉えていました。

 

クロムはログインさえしてしまえば、「お気に入り」も「ワードやエクセルのような文書作成ソフトや表計算ソフト」も「それで作ったファイル」までも、会社のパソコンでみようと、自宅のパソコンでみようと、ネットカフェでみようと・・・・

パソコンに依存せず、いつでもどこでもネットさえつながれば、同じ環境を使うことが出来ます。

 

つまり、「パソコン」なんて見ておらず「人の動き」を見ているのです。

 

グーグルのブラウザー事業の定義は「私たちは顧客が必要な時に必要なモノをいつでも快適に利用できる環境を整備する事業を運営すること」と言ったところでしょうか。

 

このグーグルの定義を見たとき、マイクロソフトの事業の定義は、「当たり前でしょう・・・」と幼稚に映ってしまいます。
(事業の定義は藤冨が勝手に推測して書いています)

マイクロソフトは過去の成功体験が邪魔をして、自らの事業の定義を狭く絞ってしまいました。

 

「モノ」で見始めると、遅からずその会社は衰退します。

「ヒト」で見ない限り、事業の発展はないのです。

 

歴史から学ぶとき、どのような「あるべき姿」を実現しようとし、どんな「状況」から「課題」を克服してきたのか・・・

 

そういった視点で見ると、現代でも再現性のある思考回路が出来上がってくると思います。

 

とは言っても、自分だけの視点では、どんな人でも視野狭窄になりがちです。

 

やはり、優秀なブレーンと如何に付き合いを深めていくか・・・ それが何よりの視野拡大の最善策なのでしょう。