「藤冨先生、1年前より準備をしていた商品が当たりました! 創業以来の大ヒットも夢ではありません」
3年前ほど前にプロジェクトをご一緒し、定期的にフォローをさせて頂いている社長から嬉しい報告がありました。
本コラムもご愛読いただき「藤冨先生の予想って、的中しますよね」と評価いただき、その予測の延長線上で事業戦略を考えておられたようです。
そして、その事業がものの見事に的中し、売れ行き好調。
5月に具体的な構想を伺った時は「これはイケそう。お金の匂いがプンプンします」と感想をお伝えし、すぐに開発に着手。
10月にはリリースできる予定なので、早速先行予約を受け付けたところ…
想像以上にたくさんの予約注文が入ってきたそうです。
事業構想から、商品企画、開発、予約販売の仕組みづくり…
一連の過程を見届けてきましたが、ふと「ヒット商品」が生まれた原点がはっきりと見えてきたのです。
私にとっては、晴天の霹靂(へきれき)です。
これまでヒット商品を企画し、営業につなげていくノウハウを蓄積してきました。
それは必ず抑えるべきポイントだと自負しています。
しかし、肝心のアイディアが生まれ、商品企画→事業構想にまで進めていく過程は「センス」だと思っていたのです。
センスであるがゆえに、教えようがありません。
もちろん、センスの磨き方は教えられます。
しかし、センスは一朝一夕には身につきません。
何年も、何十年もかかります。
このセンスに頼るのは、どうしても解せないでいたのですが…
ようやくセンスに頼らない他のアプローチを見つけることが出来ました。
上述の社長がヒット商品を生み出す過程を伴走させてもらい、その観察結果が、そのアプローチ法になります。
このアプローチを仕組み化できれば、極めて高い確率で「自社の明るい未来を切り開く事業構想を生み出し続けることができる」と確信しています。
もったいぶらずに、答えを申し上げましょう。
一言で言えば「社長のコミュニケーション方法」を変えることです。
・社内コミュニケーション
・外部ブレーンとのコミュニケーション
・市場とのコミュニケーション
全てにおいて意識を向けるのは、「自説」を投げかけるのではなく、「現実」を投げかけることです。
どうゆうことか?
具体的な例を持ってお話しします。
例えば、ヘアブラシの開発を手がけたとしましょう。
社長が陣頭指揮を取り「マイナスイオンが発生するブラシを作るぞ」と役員や社員にアイディアを投げかけたとしましょう。
社長の人柄にもよりますが、基本は「えっ?」と疑問を持っても「いいじゃないですか」と浅い思考での返事しか返ってこないでしょう。
「うちの社員は物事を考えない」という社長の愚痴を時々聞きますが、上記のような状況を思い浮かべれば、ある意味仕方のないこと。
考えないのではなく「考える土壌がない」と言わざるを得ません。
逆に、社長がオープンマインドで何でも言いやすい社風の会社では、「えーマイナスイオンのブラシですか、そんなの世の中にたくさんありますよ」と異論を呈された場合はどうでしょう。
「知っているよ。ただな、私が考えるマイナスイオンの発生原理とはな…」とウンチクが続くようなら、もう社員は聞く耳を持ちません。
無駄な開発費、無駄なマーケティング投資、無駄な営業活動が展開されるのが目に見えるケースです。
社長が、具体的な事業アイディアを出すコミュニケーション方法による弊害は意外にも大きかったのです。
冒頭の社長は、全くアプローチが異なっていました。
私が呼ばれた社内会議でも、社長は「アイディアではなく、世の中の現実と問題点」しか議題にあげないのです。
仮にヘアブラシを例題にすれば「女性の多くはパサつきやボリュームのなさに悩むらしい」「パサつきの対策として、シャンプー、トリートメントなど自己解決商品から、美容室まで幅広い受け皿があるが、そもそも髪の毛のダメージは摩擦が原因なのでは?」と、事実を投げかけてくるのです。
すると、「パサつきに悩む女性のリアリティを知りたい」「もし摩擦が原因なら、うちの技術がつかえるのでは?」と社員が考え出してきます。
外部ブレーンに対する投げかけも一緒です。
「具体的な社長のアイディア」よりも「世の中の現実と問題点」や「当社が持てる技術やノウハウ」などの【現実】を投げかけた方が、成功確度の高い事業アイディアの元ネタが生まれやすいのです。
「具体的なアイディア」を社長が投げかけた場合、社員にせよ外部ブレーンにせよ、反応は2通りしかありません。
「YES」か「NO」いずれかです。
人間は「刺激−反応」のコミュニケーションパターンが決まっているがゆえに、致し方ありません。
しかし社長が「現実」を投げかけて、「この現実に対して我が社ができる事はないか?」と問えば、反応は様々です。
刺激に対しての反応は「思考」しかないからです。
奇想天外な発想もあれば、誰もが考えるチープな発想もあるでしょう。
それで良いのです。
多様な発想の中から元々社長が頭の片隅にイメージしていたアイディアをスパークさせて、ブラッシュアップしたところに「成功確度の高いアイディア」であるケースが多いので、多種多様なアイディアを拾い集める「場」が必要なのですから。
パッとしない洋品店を買収し、全米最大のチェーン店に育て上げた社長も「アイディア」ではなく、役員、社員に「現実」をぶつけていったそうです。
社長自ら毎週末は様々な地域のショッピングモールに出掛け、ファッション店はもとより、本屋、家庭用品など様々な店で1日を過ごし、買い物客を観察していました。
そして、法務担当、経理担当など役割に限らず役員全員に「週末買い物客観察」をするように命じたのです。
【現実をどう見るか?】という価値観の共有には欠かせないコミュニケーション基盤をベースにして、同社を成長基盤に乗せていったのでしょう。
実際、同社は、1960年代の若者文化を予想し、繁盛店を作り上げるなか、数年後に誰もが「アメリカの若返り」について論じ始めた頃には、ブームが終わることを知っていて、業態転換。
1980年には「共働き層」の出現を予想し、それに対応した業態開発を行い最大規模チェーン店へと育てていったそうです。
ヒット商品や自社の未来の方向性を定める際「現実の共有」からスタートし、具体的なアイディアは、喉まで出かかっても言わないことが大事…
これが日常習慣として徹底できれば、その企業には明るい未来が待っているでしょう。
御社では、社内、外部ブレーンも含めて「現実」のキャッチボールを行なっていますか?