前回のコラムでは、GMやクライスラーと言ったアメリカの代表的な大企業が、値引きなどの表面的な対処だけに終始して、経営破綻させてしまった事例を取り上げながら「構造的に問題に着手」する必要性についてお話しました。
が、、、一体構造的問題ってどうやって浮き彫りにすれば良いのか?
今日は、その導き方の一例を取り上げてみたいと思います。
私自身、コンサルタントとして最も大事にしているのは「競争の本質を見極めて、クライアントさんが圧勝出来る”市場”を作り出すこと」に焦点を当てることです。
これが出来ないと、営業のターゲッティングも曖昧になり、下手な鉄砲数打ちゃ・・・の世界になります。
これは、経営者、営業現場、顧客にとっても、得策ではありません。
では、その競争の本質をどうやって見抜いていくか?
いろんなアプローチがありますが、ベストなステップは、まず現状を単純化してバコっと概略を抑えることです。
実は私、営業マンでありながら、システムの上流設計に携わっていた事があります。
プログラムを書く前に、「今の業務の流れはこうなっているから、システムはこう動かそう!」と言った事を考え、書面にまとめていく仕事です。
あるとき、大手IT会社のベテラン開発者から、こんな事を聞かされました。
「藤冨さん、システムって言うのは複雑に見えるけど基本的な動きは”新規作成””修正””削除”。この3つしかないんです。 つまり人間の動きはこの3つしかないという事。行き詰ったら、この3つの動作で考えると間違いがないですよ」と教わりました。
とてもシンプルな助言ですが、原理原則をついた最高のアドバイスでした。
と言うのも、この話を聞いてから、設計段階の”矛盾”が無くなり、大手IT会社の開発者も舌を巻くほどの仕様書を完成させる事が出来たのです。
原理原則を一つ抑えるだけで、複雑怪奇な世界を単純化して「モノゴトを成功に導く」ことが出来るという事実をこの経験から学びました。
これが、市場の構造を見抜くときにも使えたのだから、面白いものです。
【新規作成】は、いまの市場とは、全く別物市場が生まれること。
【修正】は、いま提供している商品の効用はそのままにリニューアルすること。
【削除】は、機能・効用の追求を停止し現状維持をすることに繋がります。
削除は、商品に求める事がなくなり、新たな情報をシャットダウンするので、コスト競争に発展します。
新規作成は、今までの延長線上でのベクトルでは差別化できないため、周辺のニーズとドッキングさせて、新たに魅力的な「価値」を生み出す競争に繋がります。
例えば、「歯医者さん」が「治療」という市場から、ホワイトニングや矯正などの「美」の市場に参入して、新しい魅力をONする場合などがそうでしょう。
極度な成熟市場になると、このような異業種が混在した「魅力条件開発競争」が繰り広げられます。
また修正は、今までの市場で満たされていない「効用」を新たな切り口で充足しようとする競争です。
例えば、雪道を走るときに昔はチェーンしか有りませんでした。
しかし、チェーンでは、「グリップ性」や「装着の簡便性」などの効用を充分に満たすことができてない。
そこで、その効用を充足に満たすための技術が開発されていきます。
こうして出来上がったのが、スタッドレスタイヤ。
いわゆるお客さんが求める効用の「充分条件」を掘り下げた結果生まれた商品という事になります。
この開発合戦が「充分条件深耕競争」となります。
つまり、競争の構造を大まかに分類すると
- コスト競争
- 充分条件深耕競争
- 魅力条件開発競争
になります。
コスト競争は、単なる消耗戦にしか陥らないので、体力に限界のある中小企業にはオススメできません。
仮に「市場が求めるモノがなくなって、コスト競争の市場」であっても、本質的に顧客が何も求めないなんて事は有り得ないのですから「魅力条件開発競争」を仕掛けるべきです。
また充分条件深耕競争の状態で「魅力条件開発競争」を仕掛けても、得られる効果は限定的です。
なので、如何に違う切り口の「充分条件」を提示できるか・・・この差別化の成功が、顧客から選ばれる存在になる!という現実につながっていきます。
競争構造を見極め・・・これが今の戦略を決める起点になるのです。