「先日のコラムに刺激を受けて、うちも新規事業の構想を打ちたてようと思います。今、こんなことを考えているのですが…路線的に間違っていないでしょうか?」
先週末に、「第408話 30年に一度の大チャンス到来?!」を読んだクライアント企業の社長さんから電話がありました。
伺うに、事業の構想的には、時代の後押しもあり、同社が積み重ねてきた経験、知識、技術も活かせるので「イケるのでは?」とファーストインスピレーションを感じました。
より成功の可能性に確信を持つ為に、私はある質問をしました。
その新規事業ですが…「ターゲットは誰ですか?」と。
すると、企業もあるし、医療法人もいけるし、学校法人もいけるかも知れません…と様々なターゲット像を思い浮かべながらの答えが返ってきました。
まだ事業構想をこれから本格的に企てていく段階なので、それはそれで構いません。
しかし、本格的に新規事業を企てようと思ったら、まずは「ターゲット」を明確にイメージできなければ、成功確度を推し量ることはできません。
新規事業を企てる際、大きく分けて2つのアプローチがあります。
1つが、技術、製造ノウハウなど、プロダクトからのアプローチ。
2つ目が、顧客基盤、取引先チャネルなどの市場からのアプローチです。
どちらのアプローチでも構いません。
ただ、売れる!という匂いがしてくる商品やサービスには、共通点があります。
それは、「誰にとって、どんな問題が解決されるのか」「誰にとって、どんな満足が得られるのか?」が明確になっていることです。
例えば「魔法のフライパン」を開発した三重県の錦見鋳造(株)は、プロダクトからのアプローチでした。
これまで培ってきた技術を活かせる鉄鋳物の製品で、かつ多くの人に使ってもらえるものを自社製品にしようと発想したそうです。
しかし、ここで思考がストップして「ものづくり」に走ってしまうと失敗のリスクが高まります。
藤冨コラムの読者さんなら、既にお気付きの通り。
お客様は商品を購入しているのではなく、コンセプトを購入しているからです。
つまり「自分にとってのメリット」を享受するため、商品を媒介として購入しているからです。
魔法のフライパンの企画プロセスは分かりませんが、同商品の特徴からどのようにコンセプトをブラッシュアップしていくか、逆算方式で見てみましょう。
鋳物の特徴として鉄に「炭素」を配合して、溶かした鉄を型に流し込み成形するそうです。
この「炭」が遠赤外線効果で、表面だけでなく内部まで熱が伝わりやすくしてくれます。
さらに、鉄と炭の隙間に油が入り込み、使い込むと焦げ付きにくくなる。
焦げ付きにくいテフロン製が競合になるけど、テフロンはコーティングしているだけなので、寿命が1年。
しかし、鉄鋳物で作れば、半永久的にもつ!
美味しい料理が、簡単にでき、かつ半永久的に使えるからリーズナブル!
このメリットだけをみても、ターゲットは自ずと料理好きな主婦または家族思いの主婦に定まってくるのが分かります。
この「魔法のフライパン」は、一流料理人に試しで使ってもらったところ、モノレベルでの評価が高く、運よくメディアにも取り上げられた為に、いきなり2000個も売れる大ヒット!
ところが、3ヶ月するとパタッと注文が止まってしまったそうです。
原因は、重さでした。
料理人には気にならない重さでも、主婦にとっては扱いづらいシロモノ。
新しいもの好きのイノベーター(挑戦者)やアーリーアダプター(冒険者)に面白がられても、実用性に欠けると普及までは行かずに撃沈してしまうのは、普及学からみても極々自然のことなのです。
そこで、同社は軽量化を追求。
6年もの歳月をかけて、軽量化した魔法のフライパンで勝負をかけて大成功。
昨年の段階で22万個を売る大ヒット商品になったそうです。
この事例を振り返ると「誰にとって」「どんなメリットがあるのか」さらに「どんな場面で使われるのか」を徹底して追求することの大切さが改めて浮き彫りになると思います。
ターゲットを見つめて、彼らからの満足を得る為には、何をすれば良いのか?を徹底して追求することで、「彼ら彼女らからの最高の商品像(コンセプト)」が鮮明にイメージできるようになるのです。
逆に「あのターゲットにもイケる」「このターゲットにもイケる」と貪欲になりすぎると、彼らにとっての「最高の商品像(コンセプト)」がボヤけてきてしまいます。
マーケティング・営業の企画段階におけるホームページ制作も、フライヤー(チラシ)も、提案書も、営業マンのセールストークも、すべてボヤけてしまいます。
「なかなか売れないなー」と後から反省しても、後の祭り。
すべて作り直す必要に迫られ、無駄な投資と時間を浪費し兼ねません。
新規事業を構想する際、成功確率を上げていく為には「コンセプトをどれだけブラッシュアップできるか?」に時間とコストをかけることが大事です。
出戻りコストが、膨大になる可能性があるためです。
もちろん、机上の空論では絵に描いた餅になる可能性はあります。
しかし、故 野村克也氏の名言の通り「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」です。
負けの要素は徹底的に排除することが勝負事(商売)の基本です。
御社では、新規事業の企画構想に全身全霊でぶつかっていますでしょうか?