先週まで、地方での講演が重なっていましたが、その都度会場でみなさんに訪ねていた事があります。
それは・・・「御社は何屋さんですか?」という”問”です。
いきなり「何屋さん?」と聞かれて、『そんな事改めて考えて見たことも無いよ』という人が殆どなのですが、これを機会に是非考えてみて欲しいテーマなのです。
売上が右肩あがり企業なら「そんな事わざわざ考える必要もないよ!」と思われるかも知れません。
でも、頑張って、頑張って、何とか売上を維持している企業。
または、市場自体が縮小してジリ貧状態の企業は、未来を切り開くためには避けては通れないテーマです。
いえ、本来なら右肩あがりで利益が十二分に出ている企業こそ、将来必ずやってくる「成熟期」のために、対策を打っておいて欲しいのです。
これは「マーケティングの世界」では有名なお話で、私もよく講演やセミナーでお話しています。
アメリカの鉄道会社が何故衰退したのか?
その理由は、自分の事業分野を「鉄道」と定めてしまったため、バスや飛行機など競合が現れても、顧客目線で正しいポジショニングが取れなかったためです。
日本の人口は1億2600万人で、アメリカの人口は3億1000万人なので、2.4倍しか差が無いのに、アメリカの国土は日本の25倍もあります。
人口密度に計算し直すと、なんと1/10以下となるので、必然的に移動距離は長くなります。
となると・・・「移動屋さん」と顧客からポジショニングされてしまうと、鉄道は飛行機に勝ち目がなかった・・・という事になります。
顧客視点から見れば、あまりにもアタリマエに聞こえてしまいますが、この事業の定義次第で、会社が成長したり、衰退したりするので、しっかりと熟考したい所です。
鉄道会社の例に戻って考えてみましょう。
対、航空会社で考える場合、物理的な事実として、両者とも「拠点間移動」を行っています。
鉄道は「駅」、航空会社は「空港」になります。
つまり、A地点からB地点への移動手段を提供しているのですが、顧客は本当にA地点からB地点に移動したいのでしょうか?
答えは、NOです。
顧客は「自宅」から「出張先の企業」などの”本来の目的地”に移動したいのであって、駅や空港などの拠点間を移動したいわけではありません。
顧客は、自分の居場所から行きたい所に「より早く」「より正確に」「より快適に」移動するための手段を提供している企業を支持するのです。
でも、どう考えても「より早く」は、ムリかも・・・と、鉄道会社が行き詰まってしまったら・・・
思い切って「競争軸」をずらす戦略でブレイクスルーの糸口を探っていきます。
例えば・・・拠点から拠点まで、両者とも時間を拘束することになるので、その時間を有効活用できるよう「時間有効活用事業」と定義することだって出来ます。
出張するときをイメージすると、飛行機って、出発時刻の30分前には入っていないと行けないですし、乗り込んでから出発までの時間も長い。
離陸後は、電子機器の使用は控えなくてはいけない時間もあり、移動の大半を仕事時間に活用できません。
ところが、新幹線の先頭座席や最後部座席にはコンセントがついていて、乗車直後から仕事モードに入れます。
鉄道会社が「忙しいビジネスマンのための”移動プライベートビジネス空間”を提供する事業」と定義すれば、仕事の密度が詰まったホワイトカラーにもっと支持されると思いませんか?
定義が決まると、次々と必要なアイディアが湧き出るものです。
“移動プライベートビジネス空間”と考えると・・・
・座席の配置は適切だろうか?
・コンセントは全席必要?
・隣人に気兼ねなく電話を掛ける工夫はできる?
などなど、顧客目線での「あるべき姿」が浮かび上がってきます。
突き詰めて考えると、顧客が自分でも気づいていない「こんなの欲しかった」という事業アイディアは、まだまだ見つかるものです。
- 水道工事の会社は、”水道トラブルの解決会社”という定義で、さらなる成長が出来るだろうか?
- 建築材料を提供している会社は”建材会社”という定義で、さらなる成長が出来るだろうか?
- システム会社は”ソリューション企業”という定義で、さらなる成長が出来るだろうか?
- 飲食店は”おいしい料理を提供する会社”という定義で、さらなる成長が出来るだろうか?
- 英会話学校は”英語を早く話せる教育ビジネス”という定義で、さらなる成長ができるだろうか。
もし、御社のビジネスが、成熟期に入っていて売上が伸び悩んでいるのなら、おそらく競合企業と対して変わらない「事業の定義」をしているハズです。
一度、自らのビジネスを真正面から捉え直すために、脳みそがスカスカになるまで考えてみる事は、とても有意義な事です。
ビジネスセンスを磨く上でも非常に効果的ですので、ぜひ一度、自社のポジショニングを真剣に見つめ直してみませんか?