「前回の訪問時にお客様からもらった宿題ですが… 次回、営業に行く際はこの資料を持って行こうと思っています」
オブザーバーとして営業会議に参加した際、商談の進め方が気になって、つい口を挟んでしまいました。
「この議事録を見る限り、その資料だけではお客様の要求に応えられていませんよ。それに言われた資料だけを持っていくだけでは商談を有利に進めることはできません。担当者が稟議書を書いて決裁を上げられるようにするのが、営業の役目です」と。
そもそも、トップセールスマンは、押し並べて「商談」を大事にするものです。
プルデンシャル生命の伝説で週平均5件、11年で3000件もの受注を獲得してきた伝説のセールスマン 故 甲州 賢 氏の著書「プロフェッショナルセールスマン(「伝説の営業」と呼ばれた男の壮絶顧客志向 小学館文庫プレジデントセレクト)を読むとそれがよくわかります。
甲州氏は、1回の商談で16種類もの提案書を持参して、商談中に相手が望む提案でないことがわかると「そんなこともあろうかと思いまして、実はもう1案プランを作って参りました」と、用意周到に準備をしたそうです。
入念な準備は「何としても受注したい!」と自らの士気を上げることにもつながりますし、何よりも、商談相手も好意を抱いてくれやすくなります。
また、大型商談や受注までに複数回の商談を重ねる商材を扱っている場合、冒頭のように「担当者が稟議書を書いて決裁を上げられやすくするサポートをすること」が営業マンの意識の中心軸になければなりません。
質問されたことを、そのまま返すだけなら、伝書鳩だって出来ます。
プロとしての営業マンであれば、商談のゴール(契約)を目指して、どうすれば受注の確度が上昇していくか? を強く意識しなければなりません。
表面上の商談…つまり「担当者とのやりとり」 だけではなく、決裁ルートや決裁者の意思決定基準まで含めた全体感をイメージしながら、受注に向けて必要な材料を丁寧に取り揃えていく必要があるのです。
これは、根性論ではありません。
顧客の心理に根ざした「営業プロセス」だと理解してください。
この営業プロセスの真意を営業統括責任者が理解できれば、現場に行かなくても「商談の進捗や確度」がイメージできるようになります。
具体的にお話しましょう。
まず、提案書を書く目的を理解する必要があります。
提案書を書く目的は、担当者が稟議を書き、それを通すためにあります。
受注に焦点が定まっているのです。
担当者は、忙しいのです。
あなたのために、働いてはくれません。
この前提をしっかりとマインドセットすることが大事です。
商談を通したいのは、我々です。
だから、担当者が稟議書を出しやすいように…もっと言えば、稟議書を書きたくなるように商談を運ぶ必要があるのです。
拙著「営業を設計する技術」にも書いていますが、商談相手を魅了する提案書とは、商談相手が自ら作った…と錯覚するくらい「担当者の意向」を反映させていきます。
私も営業マン時代、提案書の表紙に打ち合わせ日と提案書のバージョン名を記していました。
2019年12月20日 Vol.1
2020年 1月 7日 Vol.2
2020年 1月15日 Vol.3
といった具合です。
ヒアリングで拾った言葉を提案書に散りばめ、「○○さんがおっしゃったことはこういうことですよね」と確認していきながら提案書をバージョンアップさせていけば、相手は自分が作った提案書だと錯覚するほど愛着を持ってもらえるものです。
「提案書は、営業マンの分身」です。
自分がいなくても会社内で営業してもらう必要があります。
そのためには「通り一遍等の提案書」では事足りません。
商談窓口になった人を味方につけ、提案書と一緒に社内セールスをしてもらうように働きかけることで、初めて「目的達成型の提案書」になります。
つまり、受注に焦点が定まった提案書になるものなのです。
この状態まで持っていって、初めて相手の会議室の中に「自分の分身(提案書)」を参加させる事が出来るのです。
自社の営業統括者がこれを理解していれば、「これで決裁が通るのか?」を判断する材料になりませんか?
- 提案先の事情に合わせた、購入者の利益、ベネフィット(便益)、購入メリットなどが、具体的に書かれているか?
- 購入に至る際の「疑念」「疑問」は晴らされているだろうか?
- コストパフォーマンスが明示されているだろうか?
- 当社を選ぶ理由が明示されているだろうか?
- 購入に至るプロセス(契約後のプロセスを含む)は明示されているだろうか?
と、相手の立場になってゴール(受注)から逆算していけば、その提案書の不出来が一目瞭然にわかるものです。
しかも、営業マンの受注への執念が「見える化」できるので、予算達成の確度にも自信が持てるようになります。
御社の営業部内では、ゴール(受注)に向けて着実にコマを進めるような提案書を書く習慣、文化は根付いていますでしょうか?