とことん「本質追求」コラム第392話 「金の匂い」を見える化する方法

 

 

 

「大手コンサルティング会社から市場調査の分析レポートを作ってもらいました。どう思いますか?」

 

 

セカンド・オピニオン的な立場でお手伝いをし始めた企業から、早速相談が舞い込みました。

 

大手コンサルティング会社に任せて安心感を抱く役員が多い中、社長としてはどうも直感的に「何か違和感がある」との思いから、セカンド・オピニオンを探して藤冨のセミナーに参加されたとのこと。

 

社長としては、自分の直感と似ている相談相手が欲しかったようです。

 

そうおっしゃりながら、早速「市場調査レポート」を見せて頂いたのですが、10枚ほどのレポートをめくり続けた後半部分、藤冨も強い違和感を覚えました。

 

前半部分の市場調査は、さすが大手企業。

完璧なデータを取り揃えています。

 

しかし、市場調査の結果、市場をどう捉えるか?という評価レポートにおいては「これは違うでしょ…」と言わざるを得ない文書と図柄が羅列されていたのです。

 

同社の社長が「サラリーマンコンサルタントは、商売の感覚が弱い。やっぱり、独立起業している人間でないと、金の匂いがしてこない」とおっしゃる意味に合点がいきました。

 

金の匂いがしない理由が、あからさまに言語化されていたためです。

 

社長になぜ、このレポートからは金の匂いがしないのか? を説明すると…

 

「なるほど、ピンとこない理由がわかった。私から評価の方法を見直すように指示しておきます」と、さすがは直感が似通っていると、おっしゃって頂いただけあって、ほんの10分でコンサルティングが終了してしまいました。

 

社長からオープンにしてもらってもOK!とのご了解を頂いたので、「金の匂いがしない市場評価レポート」の内容をお伝えしたいと思います。

 

答えから先に言いますと、顧客目線で分析されていない。

この一言に尽きるレポートでした。

 

 

この市場調査は、同社が新商品を発売するにあたり、商品のあり方やマーケティング・プランを企てる目的で実施されたものです。

 

  • 市場規模
  • 既存商品の特徴、価格
  • 商品別推定売上(マーケットシェア)

 

など、既存の競争状態を客観視していました。

 

マーケットシェアは、推測値となっていましたが、広告露出率をざっくり眺めている感覚と相関関係を感じられたので、思わず「すごい調査力」と感心してしまいました。

 

ここまでは、素晴らしい!と感嘆しました。

 

 

しかし、この競争環境が客観視された状態から、どう評価をするか? の方が重要です。

 

 

至極当たり前のことなのですが「競争環境がある」ということは、様々な嗜好の顧客が存在し、それぞれの商品を買い支えている…という見方が出来ます。

 

 

そう考えると競争環境とは、顧客の選択肢が様々に存在している と意訳することも出来ます。

 

この競争環境を客観視して、売れる商品を作るためのアプローチを行うのが「ポジショニングマップづくり」の目的です。

 

ポジショニングマップとは、「自社商品と競合商品の関係性を比較して、自社の立ち位置を明確にするツール」です。

この時の立ち位置を決める「軸」の決め方が、ポジショニングマップづくりの成否を分ける境目となってくるわけですが…

 

 

残念ながら、今回拝見した市場調査レポートに書かれていた「評価項目」のポジショニングマップは、この軸が「売り手側の価値観」で定められていました。

 

 

例えば、冒頭ご相談を受けた会社に提出されたポジショニングを別概念の商品(住宅)に変換して作り直してみたのが、下図になります。

 

 

例題を住宅に変換してお伝えしていますが、実際本当に「Y軸」に大手、中小と明記されていました。

 

買い手は、これは中小企業が作った商品だから買おう!とか、大手の商品だから買おう!とか思いますでしょうか?

 

例題にあげた「住宅」は、一般的には、一生に一度購入するか否かの商品ですから、大手は安心…という理由で選択基準に入りやすい分野かも知れません。

しかし、それが魅力要因となり、購買の決定打となることはまずありえません。

 

その理由に、中小企業(地元工務店)の作った高価格住宅に住みたい!という人(ターゲット)は、いないからです。

(注:地元工務店の広告、営業戦略は考慮の対象外とします。あくまでもカテゴリーでの選択と捉えてください)

 

 

これを買い手目線に変換してみます。

中小企業ではなく、中小ならではの「とがったデザインの住宅(個性的)」と大手の「無難なデザイン(保守的)」を買い手の価値基準と捉え直してみます。

 

そして、高価格を「こだわり素材」に、低価格を「良質廉価」に変換すると、売り手の商品像もイメージできるし、購入者層も頭に浮かんで来ることがお分かりになると思います。

 

 

このように、あるべき商品像と、購入者層(ターゲット)が鮮明に描けてこないと、いわゆる「金の匂い」がしてこないわけです。

 

 

軸は、様々な「購買選択基準」があり、市場のトレンドや趣味嗜好の変化、前提条件や環境変化など、様々なことを考慮に入れながら、「消費者が選ぶ軸」を見極める必要があります。

 

この時のセンス次第で、金の匂いのする・しない、強弱が決定されているのです。

 

 

買い手の価値観で定めるからこそ、競争に勝てる…いえ、もっと正しく言うと「戦わずして勝つ」作戦が企てられます。

 

勝兵は先ず勝ちて而(しか)る後に戦いを求め、

敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む。

 

と「孫子の兵法」では、教え伝えています。

 

 

ポジショニングマップは、まさに先ず勝てる戦であるかを品定めし、イケると判断したら、戦…つまり製品づくり、販売への投資を行うための判断ツールになります。

 

非常に有効なツールですが、軸の捉え方を間違えると失敗の道を歩むことになります。

 

間違った地図では、目的地にはたどり着けません。

正しい地図があってこそ、効率よく目的地に到着できます。

 

御社では、新商品を作り込む際、市場環境と顧客視点から眺める「ポジショニングマップ」を作り込み、金の匂いを感じてから投資を行なっていますでしょうか?