「藤冨さんのコラムは、顧客満足を起点として書いていますが、従業員満足のほうが私は大事だと思うのです。どう思いますか?」
先日、人事労務系の専門職の知り合いと一献傾けていた時に、問い掛けられました。
私は、売上を伸ばす専門職ですから「顧客満足」が全面に出てしまいますが、決して「従業員満足」を軽視しているわけではありません。
顧客の接点は、従業員ですから、従業員満足度が重要なのは十分に理解しているつもりです。
しかし、従業員満足度を高めることが発想の起点となる場合は「それは違うでしょ」と言わざるを得ないと藤冨は考えています。
誤解を恐れずに言えば、従業員満足は「手段」であって「目的」ではありません。
人事労務系の専門職が「従業員満足」を高める施策を進めようとすると、どうしても「従業員満足が目的になりがち」になる。
すると、本来の目的からズレた施策が出来上がりやすくなる。
結果、業績が下がる起点となってしまい「何のための従業員満足だったのか?」と頭を抱えることになってしまうことは、構造的に鑑みれば至極当然のことだと思うわけです。
そう知人にも話しましたところ「それはそうだ。両輪のバランスが崩れると真っ直ぐに進まないね。一緒に仕事をやりません?」と話が盛り上がりましたが、
まさにそういうことだと思います。
両輪が大事。
そして、事業活動の出発点は、兎にも角にも「顧客が出発点」であるべきです。
顧客、市場から見放された企業が、存在できるはずがないからです。
従業員満足の基盤となるのは、ゴーイングコンサーン…つまり企業活動を継続することに異論がある人はいないはずです。
企業活動が継続できる基盤が、顧客の存在であることに異論のある人もいないはずです。
とすると、顧客満足が出発点となるのは、論理的に考えればアタリマエのことなのではないでしょうか?
従って、あるべき従業員満足の具体的な施策は、顧客満足と関係性を考えながら構築したいもの。
従業員が満足をして、結果「顧客も満足」という方程式を成り立たせるためには、顧客満足と従業員満足の因果関係を予め設計することが重要になってくるのではないでしょうか?
従業員満足の具体策としては、「金銭的な報酬」と「非金銭的な報酬」に分かれています。
日本マクドナルドの創業者である故 藤田 田 氏は創業期の頃から、外食業界で一番報酬の高い会社にする! と豪語していたそうです。
高い報酬を支払うことで、優秀な人間が集まり、事業が成功した事例は江戸時代中期の頃からでも学習されてきました。
これは、間違いのない事実です。
しかし、これを表面的に捉え、給与を高くするだけの会社は、間違いなく失敗します。
利益あっての給与です。
確実に成長できる戦略があり、その戦略が成功した際の「推定PL(損益計算書)」がイメージできた上での「給与水準」であるべきです。
利益はこの程度伸びるだろうから、労働分配率から計算しても、この程度の給与はイケるだろう…。
高収益事業の青写真あっての「高い報酬を出す企業」でなければ、破綻してしまいます。
また、アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱した「仕事における満足と不満足を引き起こす要因」も頭に入れておく必要があります。
氏は、「低い報酬は、満足度が下がる」。
しかし、「高い報酬であっても、満足度が下がらないだけで上がることはない。」
ことを突き止めました。
仕事において「満足感を実感できる要因」と「不満を引き起こす要因」は異なり、報酬は「不満を引き起こす要因」にはなっているが、「満足感を実感できる要因」にはなっていないと分析したのです。
人には大きく分けて2種類の欲求があります。
生存本能からくる「動物的な欲求」と、心理的に成長しようとする「人間的欲求」です。
ハーズバーグは、報酬を「動物的な欲求(不満を引き起こす要因につながるもの)」を満たすものとして位置づけたのでしょう。
報酬以外にも、不満を引き起こす要因として「会社の方針や管理体制」「監督者」「労働条件」「社内の人間関係」などがあげられていますが、これも同じです。
中間管理職が、自己保身に陥っているケースが世の中には散見されますが、これが全社的なモチベーション低下の原因となっていることに気づかず対処を間違えると、業績は確実にダウンしていきます。
本来、外(顧客)を向くべき目線が、全て内向きになってしまうため、顧客がないがしろになるのですから、因果応報です。
従業員満足を起点として考えると、意外にも「不満を抑えるだけの施策」で終わってしまうケースが多くなるので、本当に注意が必要です。
翻って、業績を伸ばすためには…
つまり顧客満足を通じて、会社を発展させていくのであれば、心理的な成長を目指す「人間的欲求」に着眼することが大事です。
上杉謙信が、米沢藩を立て直す際に、「財政再建は当然やらなくてはならない」しかし同時に「バブルで歪んだ村民の心の赤字も克服しなくてはならない。他人への思いやりなど人としての健全な心を取り戻すことで、本当の財政再建が成し遂げられる」と言われたそうです。
- 人々にどれだけ良い影響を与えられるか。
- どれだけの満足を提供できるか。
- 利己的と利他的のバランスを保ち、どう自己を確立させていくのか。
優れた人材の従業員満足の根底にあるのは、こうした「凡事徹底」ができる環境だと藤冨は考えます。
会社の成長が、自己の成長につながる。
そう実感したとき、顧客にも、会社にも、自分にもメリットがあると確信するものです。
御社の従業員満足の施策には「人間的な成長欲求」ができる基盤が整備されていますでしょうか?