「例の新規事業ですが、ちょっと大変な状況に陥ってしまいました。品質にクレームが入り、それが悪い評判になり売上が4割もダウンしてしまいました…」
以前、プロジェクトをご一緒した社長さんから、久しぶりの連絡が入りました。
良いニュースではありませんが、私はこれを好機と捉えました。
なぜなら、品質の見直し改革を行う最高のタイミングと感じたからです。
決して、同社の品質が悪いから改革の必要性を感じたという訳ではありません。
逆です。
とても真摯で真面目な会社のために「約束された品質」については、頑ななまでに正直です。
ただ、その真面目さが仇となっていたと感じていたのです。
そもそも「品質」とは、顧客にセールスをした際に、訴えた魅力(性能や機能など)を物理的に実感する評価尺度だと藤冨は定義しています。
一言で言えば「顧客との約束」です。
約束を破るなんて、日本人の感覚ではあり得ません。
だから、品質が良いのは当たり前だと顧客側も「当たり前」として捉えられているのでしょう。
そのため、その当たり前が裏切られた(と顧客が思った)時の顧客の怒りは半端ではありません。
だからこそ、売上4割減という大打撃を食らってしまった訳です。
この信頼の回復には少なくても半年・1年間はかかるかも知れません。
しかし、逆に言うと、V字回復のタイミング後は、これまで以上の売上増が期待できます。
正確に言うと、これまで以上の売上増を図るための「品質の見直し」を行うことができるチャンスが生まれたと私は感じています。
今回のケースを事例を変えて中核概念をお伝えしたいと思います。
例えば、健康食品の製造業が、「食品添加物、保存料オール無添加」を謳った食品を売り出したとしましょう。
ところが、メーカーが「保存料」として認識していなかった原料が、実際は「保存料」だった。
いくら「知らなかった」と言っても、これはアウト。
「無知は罪」とバッサリと切り捨てられるのが消費者心理です。
これでクレームが殺到としたとしたら、あなたならどう対処しますでしょうか。
ピンチをチャンスに変えるために、どうように対応しますでしょうか。
冒頭の同社も、概念的には同じような状況に置かれています。
クレームの根っこの多くは、「約束を破られた=自分が軽んじられた」という認識があります。
つまり自己承認欲求が毀損されたわけです。
だから、最も効果的なクレーム対応は「自己承認欲求」を満たすことになります。
つまり、メーカーとして商品の品質を持って「自己商品欲求」を満たすわけです。
これが前述しました「これまで以上の売上増を図るための“品質の見直し”を行うことができるチャンス」に繋がっていきます。
確かに、商品の品質としては、添加物、保存料さえ入っていなければ、顧客との約束は果たしたことになります。
品質としては、問題ありません。
しかし、これは顧客品質として捉えると、本質的な約束を果たしていないことになります。
ここで言う顧客品質とは、その顧客層が求めている本質的な欲求充足を意味しています。
無添加食品を求める消費者は、安心・安全な食品を食卓にあげたい…という欲求があります。
いくら添加物が入ってなくても、食材そのものが農薬まみれだったら、それは安心・安全な食品とは言えません。
どうせやるなら、徹底的に安心・安全な食品を作ってやろう!
と、製造方法に着眼した「商品品質」から脱却して、顧客の欲求から逆算した「顧客品質」を追求することです。
トータルの品質追求を行う姿勢に改めれば、「あの会社は素晴らしい!」と評価は変わっていきます。
今回、裏切られた…と肩を落としている顧客リストに対して、お詫び状と改善案を明示した新しい商品を無償提供すれば、毀損された自己承認欲求は満たされるはずです。
しかも、クレームを逆転させファンになった顧客が抱くメーカーへの印象は、何もなくファンになったお客様よりも、ロイヤリティーが高まる可能性が大きいものです。
映画のストーリーでも「悲劇からの復活」は、鉄板です。
事件が解決され、ハッピーエンドになるストーリーは記憶にも残りやすく、人にも伝えたくなるものです。
「お客様に安心・安全なものを食して頂きたく、徹底的にこだわりました」と言う姿勢が最初からあるよりも、「無知で迷惑をかけてしまったけど、そこから猛勉強・猛反省をして、絶対の自信を持って新商品を作り上げました」と言う方が、第三者からの強い関心を引くことが出来ます。
ピンチがチャンスに生まれ変わる所以です。
冒頭の同社も、これと同じような概念を持って、商品のリニューアルを行うことを約束されました。
再復活し、さらなる売上向上に繋がることは間違い無いと信じています。
御社では、商品品質ではなく顧客品質に責任を持った商品・サービス提供を行っていますでしょうか?