とことん「本質追求」コラム第370話 現場でわかった「新商品」が売れない2つの理由(1)

 

 

 

『あの新商品ですか? 残念ながら売れていません。というより、売る気がしないんですよ』

 

先週、関与させて頂いている企業に訪問した際、新商品の販売動向を聞いたときのことです。

 

冒頭の質問に対し、あまりにも直球で来た返事に嬉しく思いながらも、なぜ売る気がしないのか? 興味津津になり、詳しく聞くと…

理由を聞いて、思わず納得をしてしまいました。

 

その理由とは『新商品を開発した技術担当者が退職したため、責任を持ってセールス出来ない』というものでした。

 

売れない原因、本質はなんなのか?

やはり本音を教えてもらえないことには、的確な問題解決アプローチは、生み出されません。

 

経営陣が営業マンの仕事ぶりを見ていて、『弛んでいるから売れないんだ』と思い、営業コンサルタントを雇ったところで、お門違いの原因であれば、解決はされません。

 

思い込みの対策案を進める前に、問題の本質を突き詰める方が先決です。

 

売れない原因の本質が、開発者がいなくなり持続的なメンテナスが出来ないから営業マンは責任を持って推奨できない、とう現実は揺らがないのです。

 

生まれたばかりの子供(新商品)の母親が亡くなってしまったのですから、乳母、育て親を探すべきです。

 

そう、助言を展開したところ営業マンはホッと胸を撫で下ろしました。

 

が、その時同時に、その安堵感の空気にも違和感を覚えました。

 

問題の本質は、もう一つあるように感じたからです。

 

そこで、別な切り口から「新しいことにトライする気力」があるか?を確かめたくてこんな質問をしてみました。

 

「新規じゃなくても結構です。新規開拓のネタを拾うための活動を週1回…その半日でも、時間を割くことはできないでしょうか。そのコミットをしてしいです」

 

と言うと、別な本音が出てきました。

 

 

「私たちの営業はスピード勝負です。いかに対応を素早くするか… これが既存客から信頼され、継続受注をもらっている要となっています。 その時間を確保するのは、難しいですね」と。

 

 

なるほど…最初の「新商品の提案活動は、技術者が辞めたから売れないと言うのは、事実ではあるものの、だからといって技術者がいたとしたら売れるのか?」と突っ込むと、それはそれで別な理由が浮き彫りになっていくわけです。

 

 

「タダでさえ忙しいのに、さらに新しいことなんて出来ないよ」

これも、もう一つの新商品が売れない本質だったのです。

 

新しいことを始めるのは、とてもエネルギーのいることです。

 

新商品の売り上げを伸ばしていくのは、商品力営業力の両輪が同時に同じくらいのパワーで動かなければ、まっすぐに進んでいきません。

 

飛行機でも、車でも、初動に莫大なエネルギーを必要とし、加速し出してしまえば、さほどエネルギーは必要ないものです。

 

既存商品は、すでに走り出しているので、さほどエネルギーはりませんが、新商品は、離陸寸前…莫大なエネルギーが、両輪に要求されているわけです。

 

 

つまり、上記のケースは、両方同時にメスを入れる必要があります。

 

  • 新商品を開発した技術者の代わりになるような乳母となる技術者をつけること。

そして

  • 営業マンが新商品を売れる環境を作り出すことです。

 

 

この「売れる環境」を作るには、2つのアプローチが考えらます。

 

1つは、「時間的なゆとり」を作り出すこと。

2つ目は、「初動のエネルギーを軽減させて、新しいことに取り組む心理的障壁を低くしてあげること」の2つになります。

 

 

1の「時間的なゆとり」を生み出すには、まず無駄な時間を排除しなければなりません。

 

 

働き方改革が議論される前から、営業マンの労働時間を削減することに全社をあげて取り組んだ「味の素」は、平均労働時間2000時間を1800時間に減らすことに成功させています。

 

単に労働時間を減らすのではなく、仕事の内容にメスを入れて生産性を上げる取り組みを行ったのです。

 

全営業社員600人を対象に1年間の労働時間をどんな業務にどのくらい使っているのかを徹底して調べあげた結果、「移動」と「会議」に25%もの時間が費やされていたことが明らかになったそうです。

 

年間2000時間の25%ですから、なんと500時間が「移動」と「会議」に費やされた計算になります。

 

  • 車での営業を廃止し、移動時間は書類作成や事務仕事に割り当て…
  • サテライトオフィスを設置して、会社に戻らなくても仕事ができる環境を整え…
  • 会議は、結論を出す場と定義し、会議に取り組む姿勢を変え…

 

様々な無駄を排除する施策を矢つぎ早に取り組んだ結果、無理なく労働時間の削減に成功したそうです。

 

私もサラリーマン時代から、様々な営業マンの行動を見てきましたが、トップセールスマン以外は、ほぼ「移動時間=プライベート時間」になっているのが気になっていました。

 

また営業会議の大半は、報告会で終始しており、移動中スマホで確認すれば済む内容がほとんどです。

 

全員が集まる意味が見出せないものは、徹底して排除すれば良いのに…

 

これも、サラリーマン時代から25年以上感じていた違和感です。

 

一流のアスリートは自分自身を追い込むことができますが、普通の人はそこまで追い込むことは出来ません。

 

ならば、味の素のように「仕組み」で追い込む環境を作ることが有効なのではないでしょうか。

 

また、2の「初動のエネルギーを軽減させる」ことも、新商品を離陸させるためには、絶対に欠かすことのできない取り組みです。

 

長くなってしまったので、このテーマは次号に譲ります。

 

まずは、御社の営業部隊にも「生産性を向上させる、時間的なゆとり」を生み出してみませんか?

新しいことにチャレンジできる土壌ができれば、言い訳はできなくなりますので。