『私の営業はどうだったでしょうか?』
先日、クライアント企業の社長さんに営業同行をし、商談分析をしてきました。
唯一無二の技術力を持つ企業の社長なので、商談確度をさらに向上させて、もったいない失注を無くすための対策づくりをしたかったためです。
営業は、相手が求めていることにピントが合致し、それを実現できる利益(メリット)とコストのバランスが見合えば、契約はもらったも同然です。
ところが、同社の商品は、相手が正しい欲求を教えてくれることは、まずあり得ない業界なのが、少々面倒なところです。
なぜ、教えてくれないのかというと、企業秘密に関わる問題解決を行う『道具』を購入しようしているからです。
少々分かりにくいので、具体的なイメージが出来る例を出してみましょう。
例えば、鉄でも石でも「水」で切断できる技術を持った企業があるとしましょう。
水での切断は、摩擦熱がかからないために、切断したい材料が「熱」を嫌がるものである場合には、打って付けの技術です。
ところが、なぜ「熱」を嫌がるのか?
このことを購入先企業が開示できない場合があります。
まだ世にない新素材を発明し、世にない加工を施し、社会にイノベーションを起こそうとしているケースがあるからです。
今回、同行した商談も、まさに極秘事項に関わる匂いがプンプンしていました。
日本を代表する年商1兆円、従業員数6000人超えの企業で、研究所で試した技術を生産ラインに落とし込む計画だったのですが、その中身は聞いても教えてくれません。
こういった商談は極めて難しく、内容さえ教えてくれれば、ベストな提案ができるのに、中身がわからないだけにお互い手探りの商談になってしまうのです。
かなり特殊な商談ではあります。
しかし、見方を変えれば、Bto Bビジネスでの多くの商談に応用できる重要視点が存在します。
その重要視点とは、一言で言えば『事業パートナーとしての位置付けを獲得』することです。
平たく言えば「この人と一緒に仕事をしたい」と信頼を得ること。
この信頼感の獲得は、営業のみならず、商売の根幹をなすものであり、もっと言えば社会生活そのものに必要不可欠なものと言えます。
1万円札が1万円の価値を持つのは、国がその交換価値を保証しているからであり、また国民や国際社会が、それを信頼しているからに他なりません。
本質的には、金本位制が崩壊している現代では、国が保証している交換価値には、何の根拠もなく現実的にはイマジネーションの世界で成り立っているもの。
従って、そのイマジネーションの世界を作り出している国を、国民や国際社会が信頼しなくなったとき、経済の崩落が始まり、恐慌へと突入するわけです。
そうならないために国は、あらゆるコミュニケーション経路を使い、信頼感の土壌を醸成しています。
友好関係国との連携。
政治とマスコミの連携。
経済社会との連携。
株式市場との連携。
各種統計データの発表。
国民や国際社会に様々な情報を発信して、信頼感を獲得しています。
商売も、その構造は一緒です。
商品・サービスと貨幣の交換価値が対等であることの信頼が得られれば、売買契約は結び易くなります。
そのための『信頼の土壌』を作るために、広告活動、マーケティング活動、営業活動が存在するわけです。
そして、冒頭の商談ステージにおける『信頼の土壌』を醸成するためには、主に3つのアプローチがあることを理解した上で、自社商品にマッチした手法を採用し、受注確度を引き上げることがポイントになっていきます。
一つ目が、信用の移転効果を、働かせること。
二つ目が、当人しか知り得ない秘密をさりげなく伝えること。
三つ目が、実体験させること。
です。
一つ目の信用の移転効果は、波及営業が得意とするアプローチで、第三者の推奨や利用実態または、権威の推奨を持って、信用を獲得するものです。
商品や企業、営業マンが、初対面の新規顧客から信用を得るには、その初対面の人が認知している信用をこちらに移転させることで、信認を得ることが出来きます。
・100人のお医者さんが効果を認めたサプリ。
・宮内庁御用達のお菓子。
・世界のトヨタが採用した新技術。
新規のお客さんでも、間違いのない商品だと認知させるには、第三者の信用を拝借することで信頼を獲得することが出来ます。
これを藤冨は『信用の移転効果』と名付け、好んで新規開拓に用いていますが、その効果は間違いありません。
ニつ目の当人しか知り得ない秘密とは、冒頭の社長のように、ある問題解決手法の具体的な手順、ノウハウ、技術的背景を伝えることで、『この人(企業)は答えを知っている…』と思わせるアプローチです。
難題を解決する高度技術を持った企業に最適なアプローチです。
ただし、受注を獲得するためには絶対に押さえておかなければならないポイントがあります。
それは相手が知りたいと思った情報を惜しみなく出し切ることです。
ノウハウがバレる…と出し惜しみする企業もありますが、どうせバレたって同じことは出来ないもの。
だったら、真似させてみて、出来なかったら戻って来てください…くらいに太っ腹な態度で営業した方が、相手からは信頼されます。
営業は人間関係と一緒ですから、相手との共存を心の芯から望み、優れた交換価値を提供するよう努力すれば、良好な取引関係に発展するものです。
裏切られるリスクは低減するものです。
仮に裏切る取引先がいたとしても、全体収益から考えれば、充分にヘッジできるリスクのはずです。
ノウハウの95%は出してしまう。
これくらいの覚悟で商談に挑んでみて下さい。相手の態度がガラッと変わるはずです。
(ただし、あくまでも口頭ベースで)
最後の実体験をさせるとは、モニターやテスト導入など、トライアルの仕組みを商談プロセスの中に組み込むことです。
価値が確かに得られると実感すれば、あとは懐との相談です。
無償に限らず、有償トライアルだって構いません。
これら3つのアプローチを通底しているものは、リアリティです。
リアリティが人の心を動かし、人々の行動を駆り立てます。
御社では、相手の信頼を勝ち取るために、リアリティを意識した事業活動を行っていますでしょうか?