「提案営業を読み漁って、当社に合った本を営業マンに必読本として読ませています。
かれこれ5年続けていますが、一向に既存営業ばかり。どうやったら新規顧客に向けた提案営業ができるようになりますでしょうか?」
先日、ゴルフコンペで同じ組になった印刷業を営む社長さんから四方山(よもやま)話の延長線上で頂いた質問。
「ぜひ、先日のコラム(第350話 新規開拓を活性化する営業部門の作り方)をご覧ください」とお話しすると早速ランチの時にお読みになり、矢継ぎ早に突っ込んでこられました。
「概要はわかりました。確かに適材適所は必要です。メンバーは頭に浮かぶのですが、彼らにも本を読ませてはいるのです。具体的に提案営業をしないと我々の業態は生き残っていけません。何かヒントをもらえませんか?」
とおっしゃったので、一冊の本を紹介することにしました。
論理を超える問題解決の技術「コンテキスト思考」という、とても面白い本です。
新人営業マンには、ちょっとハードルの高い本になると思いますが、中堅クラスであれば読みこなせる可能性は大です。
ただ、本を読んでも、自分の仕事に落とし込める人は、おそらく5%もいません。
自社にその人物がいない場合は、書籍と業務を翻訳できる人間に手伝ってもらった方がベストでしょう。
それが出来るという前提で、お話を進めていきたいと思います。
私が、同書を推奨した理由は、とてもシンプルです。
当たり前のことですが、提案営業は、顧客を知らなければなりません。
しかし、顧客が置かれている現実(目に見えるもの)の裏側にある「背景」「前後関係」「文脈」まで知っている営業マンはほとんどいません。
この「背景」「前後関係」「文脈」を同書では「コンテキスト」と呼んでいます。
このコンテキストに意識を向けることで、確実に提案力は上がっていきます。
(営業マンに向けて書かれた本ではないので、そこはご留意ください)
そもそも「提案」という作業は、見込客に「理想の未来(あるべき姿)」に共感を持ってもらい、「現実」から「あるべき姿」へと進むプロセスを明示していくものです。
この時、顧客の置かれた「現実」は知っていても、その現実の裏側に潜む「背景」「前後関係」「文脈」を知らなければ、解決すべき課題のピントが外れていきます。
「現実」から「あるべき姿」へと進むプロセスに共感を得られないからです。
これでは「提案営業」が成功するはずがありません。
例えば、品質テストを実施する機器を提案するとしましょう。
まずは、品質テストの「あるべき姿」を明確にすることからスタートしていきます。
品質テストはなんのために行いますか?
当たり前のことですが、品質の担保となるデータの取得です。
でも、品質テストの機器を販売していて、品質の担保ができます!と提案したところで、見込み客は聞く耳を持ってくれるでしょうか?
当たり前すぎて、「忙しいから帰ってくれ!」と塩を撒かれるのがオチです。
では、品質の担保の裏側にある「背景」「前後関係」「文脈」を明らかにして、提案の切り口を掘り下げてみましょう。
藤冨は品質テストの専門家ではないので、一般論で展開していきます。
背景には、他社商品との競争力強化となる性能調査。
前後関係には、品質を担保する素材テスト(コストダウンにつながる)。
文脈には、リコールの未然防止やセールスアピールの特徴出しなどがあるかも知れません。
後ほど明らかになりますが、このコンテキストを明らかにすることで、提案の鋭さが増してきます。
次に、「現実」の裏側に置かれたコンテキストを明らかにしていきます。
ターゲット市場に商談がてらヒアリングをしていくと、品質テストに充てる時間を十分に確保できる状況に無い…という人たちが多くいることが分かりました。
そのため、現実は、外部の調査機関に依頼をして、定型的なテストのみで終始している状況が多く見受けられました。
外部機関に依頼するコンテキスト(前後関係)を想像すると「外注に出していると、融通が利かないのでは?」という仮説が頭をもたげます。
試行錯誤をしながらテストを繰り返すことが出来たら、もっと品質を担保できるし、コストの安い資材だって色々と試すことが出来ます。
また、そもそも論として「時間がない」という現実の裏側にあるコンテキスト(背景)にフォーカスをしてみると…
- 機器が大型のためにテスト施設に移動しなければならない。
- テスト機器のセッティングに長い時間がかかる
など、今ある競合商品の問題点が浮かび上がってきます。
顧客が、同社の上司に「テストをする時間がない」と報告すれば、「もっと効率よく仕事をしろ!」と言われるだけです。
目に見えることだけを報告すると誤解を招く典型例です。
だから、「時間がない」という表現を使わずに社内で「他のできない理由」を掲げて外注に出したり、不完全なテスト仕様に甘んじているのかも知れません。
ところが、時間がないという現実の裏側にあるコンテキスト(背景)を明らかにしてあげれば、上司に堂々と現状の問題点を報告し、あるべき姿の稟議書を書いてくれる可能性が高まるはずです。
提案営業に一番大事なのは、提案をしていく素地作りです。
その素地がなければ、提案のスタート地点にすら立つことが出来ません。
ただ、同書「コンテキスト思考」にも記載されていますが、実際にコンテキストを読み込むことはとても難しいのが、玉に瑕です。
その場その場で状況が異なり、無数の背景、前後関係、文脈が入り乱れ、客観的に掴みにくいためです。
それでも、それを掴みやすく3つのアプローチで捉える手法を展開してくれているのが同書の優れている点です。
提案力を上げるため、いえビジネス能力の全体を底上げできる名著だと思いますので、ぜひ読んでみてください。
▼コンテキスト思考▼