とことん「本質追求」コラム第350話 新規開拓を活性化する営業部門の作り方

 

 

 

「正直言ってびっくりしました。あそこまで皆体たらくとは…。あれでは売上が上がるはずもないですね…」

 

 

先代から引き継ぎ、様々な改革を断行してきた2代目経営者の依頼を受けて、営業部門の活性化方法について相談を受けていました。

 

SFA(営業支援システム)を導入し、営業活動の見える化を行い、予算と実績の差を埋めるために、どこに、どのような営業活動をすれば良いか…まで可視化されており、マネジメント体制は完璧。

 

さすが、経営学修士を取得したエリート社長だけに、仕組みづくりについては非の打ち所がありませんでした。

 

正直、何に悩んでいるのか、皆目見当がつかなかったので、正直に言いました。

「御社の体制なら完璧じゃないですか、お困り事はないでしょう」と。

 

すると

「肝心の数字が上がらないのです。特に、新規開拓は、ほぼゼロに等しい状態です。現在の市場は中長期的にシュリンク(縮小)していくのは確実です。だからこそ、営業部隊には、別分野で売上が立っていくようにハッパをかけているのです。これを見てください、その市場は、あっち(顧客)から問い合わせをしてきてくれて取引が始まっています。こっちから攻めれば確実に売上は上がりますよ」

 

さすが、その辺りの分析も完璧。

おっしゃる通りに、初めて伺った商品と市場にも関わらず、確かに金の匂いがしてきます。

 

具体的な営業活動方法を聞いても、特段は問題なし。

助言のしようがない状況でしたが、トイレに行った時に、気になったことがありました。

 

すれ違った人に全く覇気がないのです。

 

応接室に戻り、さっきすれ違った方具合が悪いんじゃないですか?

と社長に聞くと、ガラス越しに見ていた彼を指差し、「あぁあれが営業の●●です。いつもあんな感じですよ」と、何食わぬ感じでした。

 

なるほど、完璧な社長を前にして、できない自分を責めているのかも知れない…

 

そう感じた私は、一案を社長に投げかけました。

 

「今度、営業部の8名全員を集めて、ロープレ大会をやってみてもらえませんか? 私が審査員をやりますので」と。

 

ぜひ! とのことだったので、日程を合わせて各自『問い合わせ後の初回訪問』という体でロープレをしてもらい、それを観察させてもらいました。

 

すると、営業部長を除く7名は、惨憺たる内容。

営業未経験の社長でさえ、『こんな営業をしていたのか?』と驚く始末でした。

 

理由は明白。

売上の8割以上が商社経由の売上だったので、ホントの意味での商談がほぼ未経験だったのです。

 

これは、看板こそ営業部と名乗っていますが、現実は受注センターの受付担当者でしかありません。

 

 

以前、藤冨が執筆した書籍にも書きましたが、『こんにちは営業』と『いらっしゃいませ営業』とでは、求められるスキルが似て非なるものなのです。

 

受注センターの受付は、当然ながら「いらっしゃいませ営業」に分類されます。

 

この「いらっしゃいませ営業」で身についてしまった体質は、極めて高い確率で引っ込み思案病を誘発します。

 

なぜなら、「いらっしゃいませ営業」は、基本的に顧客側が「興味があるから来る」のであって、売り手側に対していきなり敵意をむき出しにすることはありません。

 

しかし、「こんにちは…」とこちらから相手の懐に飛び込む場合は、相手だって怖いですから、反射的に敵意を表すことがあるのです。

 

 

この恐怖を一度でも味わうと、多くの人は「引っ込み思案病」に冒され始めます。

 

この「引っ込み思案病」の根源は、大きく分けて2つのタイプがあります。

 

一つ目は、人生脚本に刻み込まれた「根源的な引っ込み思案」タイプ。

二つ目は、自尊心を保護するための「限定的な引っ込み思案」タイプです。

 

前者の人生脚本とは、人生というドラマの中で設定された自分のキャラクターのようなもので、無自覚、無意識的なキャラ設定と表現するとわかりやすいと思います。

 

無自覚、無意識であるがために、引っ込み思案を克服しようとしても、なかなか治るものではありません。

 

生まれたての赤ん坊の頃から延々と刻み込まれた処世術なので、自己改善を本気で取り組む人以外は、性格的な癖を修正しようがないものなのです。

 

しかし、後者は違います。

自尊心を保護するための「限定的な引っ込み思案」タイプとは、難しい表現をしているかも知れませんが、要するに、仕事への自信がないことが原因なのです。

 

下手なことを言ったらバカにされるかも知れない。

ミスをしたら、人事考課に影響するかも知れない。

 

そんな恐怖を回避するために、自己の殻に閉じこもり、加点はされないけど、減点もされない…という無難な道を生きることを選び、自尊心をかろうじて保護しようとしているのが、このタイプの特徴です。

 

これを克服するのは、シンプルです。

仕事で自尊心が満たされるように、仕事への自信をつけることで克服するのです。

 

これは、訓練で克服できます。

 

したがって、同社に助言したのは、まず8名の営業マンをタイプ分けすること。

そして、これまでの仕事を続ける人と、新規開拓専門の営業に分けることで、新規開拓部隊は、新規の活動をしなければ何も仕事がないという環境を作り出し、訓練と実践を積み重ねて成果につなげていくプロセスを提示しました。

 

もちろん、波及営業を使って…です。

 

適材適所は、営業部隊の活性化には欠かすことが出来ません。

 

御社では、営業マンの個性を見極めて適材適所を断行していますでしょうか。