「なかなか新規事業が立ち上がらないのです。ちょっとプロジェクトメンバーを指導してもらえませんか?」
藤冨のところに依頼が舞い込むご相談は、新しい事業開発か、思い通りに伸びない新規事業の突破口づくりが9割以上を占めています。
中には6ヶ月の間、悶々と過ごすプロジェクトもあれば、2ヶ月目には結果が出始めるプロジェクトもあります。
冒頭ご相談のあった会社は、面白いほど結果が出始めているのですが、蓋を開けてみたら当たり前のことすら出来ていなかったのです。
2018年3月。
弊社が主催する「社運を賭けた商品の横展開を成功させる【波及営業戦略】のたて方セミナー」に社長がお見えになりました。
そこで、信用の移転効果となるインパクトユーザーの重要性に強く共感されたそうです。
新規事業が立ち上がらないのは、顧客が信用をしてくれないから。
ならば、あの企業が採用したのなら間違いない!という取引先を作ることが大事!
そう、自社の営業マンにハッパをかけたそうです。
ところが、半年経っても実績はゼロ。
大の大人が2名も張り付いているのに、どうなっているんだ!?
と、堪忍袋の緒が切れて、コンサルティングのご依頼をもらったのです。
セミナーで伺った時は、社長から聞いた時は非常に面白い商品だな…と思っていたので、成果が出ないのが不思議でした。
でもプロジェクト初日、開始5分でその理由がわかりました。
同社では、インパクトユーザーを作るために「モニター制度」を企画されていました。
一定期間商品を使用してもらい、その声を拾ってセールスツールに織り込む計画だったそうです。
「タダだから、使ってくれるだろう」
その甘い営業態度が、相手にも伝わってしまったようです。
紹介案件を掘り起こそうと周囲の人に協力を仰いでも、DMで案内しても反応はゼロ。
担当営業の方も、置かれた状況を冷静に分析できず、ただただ焦るばかりの様子でした。
全容を理解しようと、まずは紹介案件を掘り起こすときにどのように依頼をしたのか?
また、どのようなDMでモニター募集をしたのか?
見せてもらうよう依頼しました。
確かに、それなりに纏まった提案書がありました。
“モニターになってくれそうなところを紹介してほしい”と丁重に書かれたメールも見せてもらいました。
DMで送った商品のチラシもありました。
でも、残念ながら、何を言っているのか全くわかりませんでした。
そう言うと「ちゃんと書いてありますよ!」と、反論されてしまったのですが、
「わからない」というのは、私の感想や意見ではなく、顧客視点で見たときに「わからない」と言っただけです。
反論されても困ってしまいます。
普通に考えてもらえればわかるはずです。
チラシや提案書を見込客に見せながら説明したときに、「うーん、よくわからないな」と言ったお客様に「なんで分からないのですか?」と責めたてることはしませんよね?
でも、往往にしてあるのです。こう言ったケースが。
超多忙で有名なソフトバンクの孫正義社長は、3行で何が書いてあるのか分からない資料は、絶対に読まないそうです。
商談相手も同じです。
5秒で理解できないものは、絶対に最後までは読んでくれないのです。
商談相手は、メーカーとは無関係な人たちです。
なぜ見ず知らずの会社に、私達の大事な時間を使って協力しなくてはいけないのか?
考えてみれば、甚だ迷惑な話です。
そういった現実や人間心理を謙虚に受け止めれば、5秒で理解してもらう工夫をすることは、協力を仰ぐ人に対する「礼儀」でもあるはずです。
こう捉えると「ちゃんと読めばわかりますよ…」という態度が如何にぞんざいか、良くわかると思います。
また、拙著「営業を設計する技術」にも書いていますが、目の前の人だけで決裁できないものの場合の配慮も必要です。
社内に持ち帰り、関係部署の根回しが必要だったり、直属の上司や社長に決裁をとったりする場合、こちらの伝えたいことは紙面化されていなければ、社内で正しく稟議(りんぎ)が回りません。
商談は会議室で決まっているのです。
その会議室に営業マンと化した「セールスツール」が入り込んでいる場合と入り込んでいない場合、どちらが決裁される可能性が高いでしょうか。
火を見るよりも明らかなはずです。
こうした理解のもと、冒頭の営業チームにも対策を打ってもらいました。
提案書やチラシを要約した「企画書」を作成してもらったのです。
モニターになってもらいたい背景、目的、主旨、実施すること、モニターになるメリットを簡潔にまとめてもらい、提案書を読まなくてもスグに理解できるA4用紙1枚ペラの企画書をこれまで接触した人に渡し始めたところ…
なんと、無反応だった企画にスグに反応してくれる人たちが、現れたのです。
同社のスタッフさんも大喜び。
狐につままれたような顔をしていましたが、ロジック的には単純明快。
理解できないものは、行動できない というシンプルな現象だっただけです。
ご担当されていた営業の方も、初めての商品で知識も浅く不安だったのもあるでしょう。
世にない商品が、本当に売れるのだろうか…という疑心暗鬼もあったでしょう。
だから、正しく伝えることの大切さまで気が配れていなかったのかも知れません。
でも、同じ商品、同じ企画、同じ提案書、同じチラシであっても、たった1枚の企画書が現状を打破してしまったのは現実です。
伝わらない言葉、伝わらない文書は、馬の耳に念仏です。
思い通りに企画が動かない。
思い通りに新商品が売れない。
この原因は、(商談)相手が理解されていないだけなのかも知れません。
御社の新規事業でも点検してみませんか?
そのセールスツールで相手は理解できるだろうか、と。