「何故、背景を語ると売れるのでしょうか。いまいち良く理解できませんでした」
先日のコラムを読んだ方からご質問がきました。
お答えする内容を公開することをご承諾いただいたので、皆様にもシェアしたいと思います。
何故、背景を語ると売れるのか。
3つの根拠(心理現象)から説明できます。
1つ目は、感動すると好意を抱きやすくなるため。
2つ目は、一貫性のある作り手(売り手)を、人は評価しやすいため。
3つ目は、理由がわかると人の承諾率が向上するためです。
噛み砕いて説明しましょう。
1つ目の、感動すると、好意を抱きやすくなるのは、「吊り橋理論」と良く似た心理現象が起きるためです。
吊り橋理論とは、恐怖や不安を一緒に体験した人に恋愛感情を持ちやすくなるという心理現象を言います。
グラグラ揺れる吊り橋の上にいると、心臓がドキドキして、心拍数が上がりますが、これが恋愛したときのドキドキ感と似ているので、錯覚を起こしやすくなるというものです。
本当に吊り橋の上にいると恋愛感情を抱きやすくなるのか?
私が、結婚前までに行った数々の実証実験の中では、吊り橋の上はさておき、理論的な検証においては、ある程度の因果関係までは感じ取ることができていました。海に行ったり、遊園地に行ったりして、心拍数を上げることを意識的に行うと、確かに好意を抱きやすくなります。
この本来あいまいな因果関係を、特定の原因に帰属させることを心理学では「帰属過程」と言います。
「背景を語り、人を感動させることで、商品・ブランド・企業に好意を抱いてもらう」
まさに、帰属過程の現象そのものです。
2つ目の、一貫性のある作り手(売り手)を、人は評価しやすいのは、ベストセラーとなった「奇跡のりんご」を思い出すとよくわかると思います。
奇跡のリンゴは2011年に出版されたベストセラーで、読んだ方も多いと思います。
妻が農薬の散布で身体を壊し、絶対に不可能とされた「無農薬栽培」にチャレンジするところからストーリーが展開。
10年間も失敗を重ねた結果、借金が膨らみ、妻や子供達の食べるものもままならない生活に追い込まれた木村氏はとうとう自殺を決意。
山に入り、首を吊ろうとした瞬間に、山の中で害虫に蝕まれていない「くるみの木」を発見。
これを応用できないか? と再起を決意。
結果的に無農薬栽培のりんごを生産することに成功したという物語です。
妻への想い。
農薬への憎悪。
不退転の決意を持って、失敗にもめげない持続的な努力。
こうした一貫性のある作り手を私たちは自然と評価してしまいます。
一貫性のある人は、信じられるからです。
こうした感動物語までいかなくても、何故、私はそれを作ったのか? また世の中に広めよう(売ろう)としているのか? 顧客利益から逆算して、一貫性のあるストーリーで語れることは、とても大事です。
この説明がしっかり、はっきり、理路整然と一貫性を持って答えられるようになると、その商品は着実に売れていくはずです。
逆に売れていない商品の再生プロジェクトに入ると、この説明ができなかったり、論理が脆弱だったりします。
最後、3つ目の「理由がわかると人の承諾率が向上する」というのは、ある実証実験がなされています。
エレン・ランガーという心理学者が行った「コピー機に並んでいる人たちの先頭に行って、先にコピーを取らせてほしい」という承諾実験です。
その際、言い方を変えて、承諾率の変化を調べたのですが、要件だけでなく「理由」を説明すると、承諾率が上がるという結果を得ることができたそうです。
先にコピーを取らせて貰えませんか?とお願いした場合、OKをもらった確率が60%。
しかし、「急いでいるので、先にコピーを取らせて貰えませんか?」という理由を添えると94%へ承諾率が向上したそうです。
要件、要求だけでなく、理由を添えると承諾率が上がる。
これは間違いありません。
身近な例を思い出すと納得できると思います。
「中央区のエリア担当になった田中です。今度ご挨拶に伺ってもいいですか?」とか「近くに寄ったので、お邪魔して良いですか?」という営業トークを聞いたことはありませんか?
かなり伝統的で一般的な営業トークですが、多くの営業マンがこのトークを採用するのは、承諾される確率が上がることを経験則的に知っているからです。
先日のブランデッドムービーは効果的!というコラムは、「流行」に乗ることをオススメしたわけではありません。
ブランデッドムービーという手段が、売れる要素を組み込みやすいことを感じたからオススメしたわけです。
ただ、この手法の副作用は、「正直な商売をしないと逆効果になる」ということです。
正直に商品を作り、正直に販売しようという方だけにオススメします。
御社でも、背景を語って、ファンを募ってみませんか?