「藤冨さんは、波及営業と独自の名前をつけているのに、波及営業にとらわれませんよね?」
先日、クライアント企業の社長さんから、言われた一言。
結果的に、同社も「波及営業」を拡大解釈したカタチに収束した「営業戦略」となりましたが、これはあくまでも結果でしかありません。
波及営業はあくまでも手段であり、目的ではありません。
目的は、最小限の力で最大限の力を生み出す営業モデルの確立です。
結果、売上が付いてくるように設計をするだけのことです。
波及営業を紹介した拙著「営業を設計する技術」では、インパクトユーザーを神輿に担いで拡販していくと、営業手順を解説しました。
しかし、企業特有・業界の事情によっては、インパクトユーザーの名前が出せない会社もあります。
秘密保持契約に触れるため、具体的な事例を社外資料として使えないケースもあります。
これまで、様々な企業とプロジェクトをご一緒する中で、よくこのようなケースにぶち当たってきました。
そうした経験を踏むうちに、波及効果の源泉は、顧客から見た信用が、分かりやすく効果的に伝われば良いと拡大解釈されていきました。
- 商品の価値を担保してくれる権威からの推薦
- 購入者の名前は明かせないが、実績がないと書けない詳細まで落とし込んだ事例集
- クラウドファンディングなどの支持者層の厚み
- 公的機関のお墨付きをもらったエビデンス
などなど、『それは凄い!』と見込客が唸るネタを作り出すことで、インパクトユーザーのネームバリューと同じ効果を生み出すことが出来ます。
結局は『信用の移転効果』の源泉を作り出せば、営業効率を上げることが出来るわけです。
信用の移転効果は、マーケティングステージにおける「問い合わせ増」(=見込客集客)にも効果的です。
営業ステージにおける「商談の受注確度」の押し上げにも有効です。
購入者の認知的不協和を引き起こし、「ロイヤリティーの強化」や「紹介商談の引き金役」にもなります。
認知的不協和とは、購入した車のカタログを読み込み、自らの購入意思決定を正当化する行為が代表的な例としてよく取り上げられます。
この購入意思決定の正当化をより強化する材料として、信用の移転効果は有効に使えるわけです。
そう捉えていくと、信用の移転効果を作り出すことは、営業部門の武器を作るといった矮小化された活動ではなくなります。
もっと広義の事業活動です。
「信用の移転効果」を身にまとうことは、企業競争力の強化にも繋がると言っても過言ではないのでしょうか。
優秀な経営者は、ここに鋭く着眼し、信用の移転効果の源泉づくりに積極的に投資をしています。
決して、丸腰で戦いには挑みません。
私の祖父は、偶然にも技術系のコンサルタント業を生業としていました。
祖父が亡くなったあと、祖母から聞いたので、本当に偶然です。
その祖父の著書『実践工具教室』を読み起こすと、非常に感銘を受けることが書いてありました。
ピラミッドの落成式に皇帝が最高の功労者に賞を与えると発表した際、高位高官などをはじめ関係者は皆、我こそはと密かに自負して待っていた。
当日となり、盛大な式の賞の授与台に呼び出されたのは、誰であったか。
それは誰にも予想されなかった人、鏨(たがね)を造った人であった。(P119)
祖父は、戦後ドイツに渡りマイスターの資格を取り、ホンダなど日本を代表する製造業に切削加工技術を指導していました。
その過程で、見事な製造技術の進歩を辿ると、その原点に道具が存在することに着眼したようです。
私が、営業に「道具」が必要だと考える根源は、祖父のDNAを引き継いでいるのかも知れません。
先々週のコラム「第286話 商談は、営業マン不在の社内会議で決まる」で書いた通り、私は意識的に「紙」に営業の軌跡を残すようにしてきました。
これは祖父の書籍を読み解く前の20代の頃からの習慣です。
目的は2つあります。
- 商談の「受注確度」を上げること。
そしてもう1つは
- 「振り返り」が出来ることです。
紙に落とすことが苦手な営業マンも散見されますが、一兵隊であれば、それでも構いません。
しかし、組織と共に成長していこう!と考える営業マンであれば、筆不精ではアウトです。
振り返り…つまり「計画(営業企画)」を立て、「実行」した結果を、「評価」していくことで「武器」が磨かれ、組織としての営業力強化に繋がっていくプロセスが欠落してしまうからです。
御社の営業マンは、口先だけの営業に止まらず、しっかりと軌跡(ドキュメント)を残す営業活動を心がけていますでしょうか?