とことん「本質追求」コラム第285話 業績ダウンは分業が原因か?

 

 

 

『最近、良質廉価の優れた商品が開発出来なくなっているんです。全て分業が原因ですね』

 

先日、新聞社の方との会話で、日本のものづくり現場に重大な懸念事項が浮き彫りになってきている現実を伺いました。

 

CADで設計者が構想を練り、実際に組み立てるのは現場。

 

以前は、設計者が、構想を練りながら試作を作り、安くてベストな材料を選定しながらものづくりをしていたので、優れた商品が多かったとのこと。

 

しかし、今は『それは設計の仕事』『そっちは製造の仕事』と役割だけでなく、責任まで分断されてしまったので、メーカーとして一つの商品に対する責任が内部的にぼやけてしまったようです。

 

このお話を伺ったとき、売上を上げる!というミッションに対し、責任の所在がぼやけてしまった営業の現場と重なってしまいました。

 

これまで営業の役割は、見込客の発掘から商談、クロージングまで一気通貫して行われてきました。

 

会社としての取り組みや、マーケティングや広報部隊からの後方支援として、テレビ、雑誌などの広告はあったものの、見込客と直接接点を持つリードとしての機能は、強くはありませんでした。

 

しかし、インターネットの社会的定着により多くの業界で、営業部門の「見込客発掘」の役割を困難にさせてしまいました。

 

結果、多くの会社の「営業部門」では、見込客がいないことを会社やマーケティング部門の責任にし、第三会議室(夜の居酒屋)で愚痴を垂れているのが、あちこちで散見されるようになりました。

 

会社やマーケティング部門は、見込客発掘という膨大な時間のかかる仕事が減ったにもかかわらず忙しい…と防衛戦を張る営業部門にあきれ返り、対応にこまねく状態が続く。

 

業界をまたいで、多かれ少なかれ同じような状況に置かれた組織が多くなっているのが現実だと感じています。

 

このような問題の解決に、1つ有効なアプローチがあります。

 

営業とマーケティングの垣根を取り払うリーダーの育成」です。

 

このリーダーには、最低限3つの能力を持つ者を選任することが大事。

 

1つ目が、消費者の購買心理の掌握力。

2つ目が、集客モデルの学習能力。

3つ目が、メンバー間の知識移転能力になります。

 

1つ目の消費者の購買心理の掌握力は、購入決定時の意思決定から逆算して、商談、見込客集客の理想的な心理プロセスを作り出す「仮説構築力」を含んだ能力になります。

 

商談時にどのような心理状態を作り出せば、契約までの転換率が高まるのか?

その他に、必要な要素(カタログ? 提案書?)は、何か?

潜在客が自社商品に「興味関心を抱き、購買に至るまでの心理的な遷移(せんい)の仮説を立て、現実と比較をし、仮説をブラッシュアップし続ける能力をも含みます。

 

2つ目の集客モデルの学習能力は、有効商談を生み出すための「集客方法」の新規開発、ブラッシュアップを行う能力です。

 

これには、どれだけ「引き出し」を持っているか? が最も大事。

そのためにも、常に他業界で成功している事例や、歴史からの学びなど、日々「学習」する習慣が身についている人材がベストです。

電車の中で、スマホゲームやSNSに冒頭するタイプではなく、ビジネス書やビジネス雑誌を貪っているタイプの方が、ベストです。

ビジネスそのものが好きでないと、引き出しが増えないからです。

 

ただ、頭でっかちの単なる情報魔はいただけません。

他業界の成功事例を概念で捉えることができ、自社のビジネスモデルや集客モデルに応用できる能力を持ち合わせていることも必要不可欠です。

 

 

最後の3つ目、メンバー間の知識移転能力も必須です。

 

働きやすい空間を作り出すために「仲間」を作りたいという欲求が働くのは、当然ですが、その仲間意識を作り出すのに「言語」はとても有効なツールになります。

 

私は、サラリーマン時代にIT業界で営業をしていましたが、システム部門の人たちは「専門用語」が通じる相手との会話を好む傾向が顕著に見て取れました。

意識的に、専門用語を使うことで、仲間に入れ、専門用語が分からない人間は、排除される傾向さえありました。

 

これは社内でも同じです。

 

製造には製造の専門用語。

マーケティングにはマーケティングの専門用語。

営業には営業の専門用語があります。

 

この専門用語は、意識せざるとも「仲間意識」を醸成していきます。

 

この仲間意識が過度に働き始めると「組織の壁」が出来上がってしまいます。

いわゆるセクショナリズムというものです。

 

そこまで壁がないにせよ、腹の底では「彼らは分かっていない!」という心理的な隔たりがあることが多く見受けられます。

 

良いものを作るときに、設計者と製造現場が隔たりをなくすことが何よりも大事ですが、これは営業も一緒。

集客担当と商談担当が分業された組織では、売上を上げるために、両者がガッチリと同期を取ることが大事です。

 

 

そのためには、各部門のパイプ役となる人間が、互いの組織の言語を操れる翻訳者としての役割を果たすことが大事。

もちろん、言語だけでなく、互いの業務内容を理解する力も求められます。

 

 

売上が上がる瞬間の起点は…

 

注文書にハンを押す瞬間。

財布からお金を出す瞬間。

 

つまりお客様が購入の意思決定をする瞬間の集積が「売上高」として損益計算書の一番上に表現されています。

 

この購入意思決定の瞬間から、すべてを逆算できることが、リーダーの責務を担える絶対条件となります。

 

御社では、各部門の同期がバッチリと取れていますでしょうか?