「波及営業って、取引実績を披露することで顧客の関心を引くことですよね?
それって、普段からやっていることなんですけど、セミナーでは何か特別なことを教えてくれるのですか?」
先日、セミナーの案内を見た方から、問い合わせの電話がありました。
冒頭の通り、波及営業って、言ってみればアタリマエの活動なのでは?というものですが、おっしゃる通り「よく見かける営業手法」にも見えます。
「対象市場を絞り」「その市場の中の影響力のある顧客を獲得し」「その実績を武器に拡販させる」
たったのそれだけですから、営業の手法としても実にシンプルです。
それだけなのに、なぜ「波及営業」と大それた名前までつけて、セミナーやコンサルティングをしているのか?
それは、各戦略・戦術の精度を高め、「結果」に繋げていくためには、経験に基づく「知恵」や「ノウハウ」が必要になるからです。
全てをコラムで伝えるには、紙面が足りませんが、骨格となる重要ポイントだけでも見てみましょう。
波及営業は、企業が提案をしていく「新しい価値」を市場に受け入れてもらうために、「イノベーション普及学」を下敷きにして、藤冨が経験してきた「マーケティング」や「営業活動」を重ね合わせて戦略・戦術を組み立てています。
このイノベーション普及学では、新しい価値が市民権を得ていくために必要な5つの要因というものが提示されています。
①.比較優位性
競合商品よりも優れていると認識されたものが普及する。
②.単純性(複雑性)
単純で理解しやすい商品、打ち出し方をしていること。
③.両立性
これまでの習慣を変えたり、捨てることなく、新しい価値を受け取れること。
④.試用可能性
お金を払う前に、お試しや実体験ができること。
⑤.可視性
他の顧客が採用していることが見えること。
この5つです。
言ってみれば、これも当たり前。
でも、自社の営業・マーケティング活動が、この5つの要因を脊髄まで浸透させて、わかりやすく市場(潜在客や見込客)に伝えられているか?というと、大抵の場合はヌケヌケだったりするわけです。
言ってしまえば、だから売れない・広がらないのです。
例えば、①の比較優位性。
今、自社商品と競合している商品を全てテーブルにあげて、顧客目線で「購入理由」を比較・評価していますでしょうか?
価格、機能などを列挙して、顧客目線で、何が売れる要素で、何が競合に負ける要素になっているのか? 比較・評価をしていますでしょうか?
ここだけ見ても、完璧に資料化(見える化)している企業は少数派です。
②の単純性も同じ。
シンプルに伝えると言うのは、ある意味「技術」です。
簡単に見えて、とても難しい。
例えば、カミソリの歯が5枚あるから、綺麗に剃れる!とメーカーはわかっても、買い手からみれば「なんとなくわかるけど…」とぼんやりとしたメリットしか伝わっていなかったりします。
なんとなくわかる…では、買い手は購買行動に移してくれません。
単純性というのは、事実だけを伝えるのではなく、どれだけ噛み砕けるか。噛み砕いたメッセージをどこまでシンプルに伝えられるか?が、これが成功のポイントになるわけです。
③の両立性もしっかりと意識しなければなりません。
買い手にとって、これまでの習慣を変えるのは「買わない理由」の大きなポイントになります。
例えば、ガン、糖尿、などの不治の病と言われているものは、「数ヶ月の絶食」で治癒されることが、かなり証明されてきています。
しかし、治る可能性があるのに、多くの人は「そんなの絶対に無理」と目を背けます。常識や習慣が邪魔をしているわけです。
ところが、両立性を意識した治療法(商品やサービスでも同じ)で、満腹を維持したまま、ストレスフリーの断食方法が開発されれば、多くの人はトライする可能性があります。
顧客視点に立って、習慣を変えることなく、新しいトライができるように伝えられているか? ここもしっかりと噛み砕いておくことが大事です。
④の試用可能性も視野に入れることが大事です。
以前、ゴルフのスイングチェックを行うエプソンの「M—Tracer」と言う商品を購入しようと思った時、「練習に取り入れて効果的か?」と確信が持てなかった時に、レンタルのサービスが目に止まりました。
10日間で2000円。 レッスンを受けたと思えばタダのようなお金なので、取りあえず申し込んでみました。
すると、一定の期日以内に購入すれば2000円割り引いてもらえるクーポン券が同梱されていました。
無料のお試しができない場合でも、こうした工夫を緻密に組み込んでいる商品は、やはり売れています!
⑤可視性は、波及営業の「顧客の実績を謳う」ことに紐づいています。
しかし、ただ実績や事例を紹介するだけでは、期待する効果が得られないでしょう。
なぜか? 一言で言えば顧客心理を理解せずに、チラシを作ったり、ホームページに掲載しているからです。
事例を読んだ時に、「私(当社)の問題点と一緒だ」「この商品なら私の問題も解決されるかも?!」といった期待を獲得できるストーリーになっていることが大前提なのに、ここが煮詰まっていなかったりする文書があまりにも多すぎます。
これでは、残念ながら絵に描いた餅と一緒です。
触りだけなのに、戦略・戦術を組み立てていく上では、これだけの成否を分けるポイントがあるわけです。
よく「表面だけ真似をして、結果が出ない」と嘆いている人がいます。
これは「営業が成功する構造」と「その構造の中の部品(ノウハウや知恵)」を解明する努力をせず、突き詰めて物事に取り組んでいないためです。
御社では、セールスプロセスを組み立てる時に、上辺だけでの理解で進めてはいませんでしょうか?