「未来の見通しを甘く見て、事業が行き詰まってしまう…。確かにそうですね。先週のコラムで取り上げていた「旅行業界の破綻」はその典型例ですものね…」
先週、とある企業の創業社長と一献傾けながら話をした「酒の肴」。
将来の見通しを甘くみる「楽観主義バイアス」が働いていたこともありますが、例の旅行業界の場合は、それだけでありません。
+αの元凶として、過去の成功体験を踏襲すれば、また明るい未来が築けるはず!…という間違った幻想を抱いてしまったことにあります。
広告をガンガン打てば、また集客できる!
破綻寸前に「現金一括入金キャンペーン」を実施するなど、苦肉の策がミエミエですが、これできっとキャッシュが入る!という誤った幻想を抱いてしまったのでしょう。
被害者の方には申し訳ないですが、ちょっとビジネスをかじっていれば、こんな触れ込みはおかしなこと、と気がつくはずです。
前受け金(決算期をまたいだ旅行)と売上(決算期前にお客さんが行った旅行)の差は「今期決算」に及ぼす影響は大きいです。
しかし、財務上、現金も売掛金も変わりません。どちらも貸借対照表上では「流動資産」に合算されてしまいます。
ここから透けて見えるのは、現金入金を売上として架空計上するか、または資金繰りに回すかのどちらかのケースです。
いずれにしても危ないニオイがするのは、分かるはず。
厳しい見方をすれば、無知は罪。ダマされた方も責任があると言えるでしょう。
(もちろん、この手の広告以外で予約してしまった方は完全被害者かも知れませんが…)
話は逸れてしまいましたが、「過去の成功体験」に寄りかかることが、なぜ企業の衰退を招くのか?
この本質を突き詰めて考えておくのは、ムダではなさそうです。
裏側から見れば、ポジティブな面が見えて、本質的成長を促す「要素」が浮き彫りになる可能性があるからです。
この旅行会社の教訓から少し掘り下げてみたいと思います。
そもそも破綻した旅行会社のビジネスモデルは、景気後退期の「憂さ晴らし需要(?)」に対応した海外を中心とした格安パッケージ旅行です。
このパッケージという概念にメスを入れてみます。
今は、消費者がネットで航空券を買い、ホテルを予約できる時代です。
自動翻訳もネットと連動している時代ですから、すこし手間をかければ自分の好みにあったプランニングが簡単に出来てしまいます。
数年前、妻が両親をアメリカのセドナに連れていきたい…と言い出したことがありました。パッケージツアーで予約すると200万円近くになりました。
ところが、フェニックスからレンタカーを借りて自力で行けば、格安で行ける。
4つ星ホテルに泊まっても旅費の合計50万円強で楽しむことが出来た経験をしたことがあります。
パッケージ旅行は、余計なお世話のサービスが付いているから、オーバースペックになりがち…。
結局、パッケージの本質は無知な消費者に情報という付加価値を乗っけているに過ぎないという見方も出来るわけです。
現に、日本マクドナルド創業者の藤田田氏も書籍でこう書いています。
「日本人は計算ができない。ポテトいくら。ハンバーガーいくら。ドリンクいくら…とやると、計算できないから頼まない。人間心理として合計金額がわからないものは、意思決定を躊躇する。だからマクドナルドではセット料金を全面に打ち出している」と。
「分からないものは、意思決定できない」
これが購買行動の本質。
だから、分かりやすくする「セット」や「パッケージ」が売れるわけです。
ところが、時代の変化で、セットやパッケージにしなくても分かりやすくなれば、セットやパッケージの存在意義が薄まります。
海外旅行であれば、分かりにくいものは、「言語」であり「現地情報」です。
ところが、これもガイドブックやネットの充実、翻訳機の精度向上、はたまたクレジット会社などが付帯サービスとして提供している「現地で困ったときの電話翻訳代行」などでカバー出来るようになりました。
分からないものが分かるようになる。
すると、消費行動というのは自然と勢いづくもの。
現時点で、この波の影響で冒頭の旅行会社が潰れたわけではありませんが、「過去の成功体験」というのは、時代の流れで陳腐化されたり、存在意義が薄くなるというのは、間違いのない「現実」です。
「過去の成功体験」が時代の構造変化に侵されていなければ、過去の成功体験を踏襲することは、決して間違っていないと藤冨は考えます。
しかし、時代の変化によって通用しなくなっているとしたら…
その時は、頭を一度ゼロベースに戻して、現実を客観視できる状態にし、あらゆる角度から新しい成長プロセスを描いてみる必要があるのではないでしょうか。
時には、丸裸になって一から成功体験を積み上げる覚悟をもつ必要があるのかも知れません。
貴社の成功体験・事業環境は、時代の構造変化に侵されていませんか?