「当社で営業研修をしてもらえないでしょうか?」
半年以上まえのことですが、コラムの読者さんで営業幹部と名乗る方から、メールで「研修講師」の依頼が入りました。
一度もお会いしたことがないのと、依頼された内容に大きな矛盾を感じたので、残念ながら丁重にお断りをさせて頂きました。
そもそも、藤冨自身は「営業研修は否定派」です。
長年お付き合いしている関与先企業さんには、内情をある程度理解しているため、お受けすることはあります。
ただ、それも教えることを目的としてお受けしている訳ではありません。
現場で何が置きているのか? を社員のみなさんの課題認識や普段の行動から
推測し、的確な組織的フィードバックを行うための「素材集めの目的」としてお受けしているのです。
なぜ、営業研修で教えることをやらないのか?
これは、本コラムでも何度もお話していることですが、営業という仕事は相手あっての仕事なので、「コミュニケーション能力」が「成果」と強い因果関係をもっているためです。
コミュニケーション能力というのは、根本的に突き詰めると、性格に規定されます。
一夜漬けでコミュニケーション・テクニックを習得できたとしても、性格と習慣の影響により、経年劣化を起こし元通りとなってしまうことが大半です。
もちろん、自分自身が「変わりたい」と強く思っているケースは、その思いが性格や習慣に強い矯正力を働かせるので、変化・成長することはできます。
しかし、講師であろうと上司であろうと、外部の人のチカラで性格が規定している「コミュニケーション能力」に変化・成長をさせることは極めてムリのある話です。
モチベーションもしかりです。
経営学で学ぶ「動機づけ理論」のなかにも、報酬や昇進などの外部報酬は、経年劣化を起こすので、効果は限定的。
持続性のある動機づけは「仕事そのもの(達成欲求)」や「仲間との達成感醸成(親和欲求)」とされています。
営業研修をこの観点から分析してみましょう。
営業は、技術、製造、経理と違って、「売れる・売れない」というシビアな評価基準が立ちはだかっています。
仕事そのもので「達成感」を得るためには、当然ながら売れなければなりません。
期待とおりに成果を出してくれない「営業マンの中クラス以下」の人達の底上げが研修のテーマになることが大半なのですが、彼らには営業に必要不可欠なメンタルとコミュニケーション能力が足りないことが、ほとんどです。
前述の通り、このメンタルやコミュニケーション能力の変化・成長は、外部刺激では効果限定的です。
従って、「仕事そのもの」…つまり達成欲求を刺激するには、営業マンに勝ち戦をさせることが大事なのです。
でも、どうやって勝ち戦をさせるのか?
営業で成果をあげるには、2つのアプローチしかありません。
一つ目は、営業マンに強い購買欲求をもった商談を与えること。
二つ目は、商談において購買欲求を高める材料を提供すること。
本質的には、この2つが成果に直結しています。
従って、強い欲求をもった見込客を集める仕掛けを組織的に行い、購買欲求を高める材料を、営業マンに武器として提供することで、勝ち戦の体験数を増やしていくことが有効です。
身体能力が足りなければ、武器(道具)を使えば良いのです。
研修のように、身体能力を増強させようとするのは、そもそもお題目違いです。
戦国時代に「なぜお前は、馬よりも早く敵地に行けないのか?」と足軽に叱っているようなものです。
馬よりも早く目的地に到達させるには、馬よりも早く移動出来る手段を考えなくてはなりません。
いえ、もう一歩踏み込む必要があります。
目的地に早く行く目的は、情報収集の迅速性を高めることです。
この目的に焦点を絞れば、「伝書鳩(でんしょばと)」を使えば良いのです。
目的にそった「道具」を的確に揃えることで、成果を着実に手中に収めることができるだけではなく、兵力の無駄遣いによる士気低下をも避けることができます。
成果と士気(モチベーション)は、対で考えることが「大将」としての務めです。
親和欲求を醸成する「チーム制」なども「営業で成果を上げ続ける仕組みをつくる上では有効ですが、それでも「売れた!」という体験数を増やすには武器(道具)が必要です。
売れる勢いがついてくれば、個人であれ、チームであれ、自己効力感が自然と芽生えます。
自己効力感とは、「自分の仕事が組織に成果をもたらし、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信」のことで、これが自信に繋がっていきます。
自信をもった営業マンが売れないはずがありあせん。
売れるから、自信がさらに自信が芽生え、もっとやろう!と頑張るのです。
自信をつけるために頑張って、頑張って…地べたを這いつくばって営業で結果を出す人は、稀な存在だという現実をしっかりと見つめる必要があります。
御社は、営業マンに「丸腰」で戦わせ、叱咤激励をしていませんか?
成果をあがるために効果的な「武器」を営業マンに与えて、勝ち戦をさせていますか?
武器を営業前線に的確に配備して、組織的な援護射撃体制をつくっていますか?
超競争時代において、売上を上げ続けるためには、最も大切なアプローチです。