「第三者話法って呼ぶのですね。私は自然とやっていました」
クライアント企業さんのトップセールマンの一人が、私の話を聞いてポツリとつぶやきました。
第三者話法とは、他のお客様の実例を話すことで、強い購買意欲と高い信頼感を引き出す会話法です。
売れている営業マンは、無意識的に「売れるような会話法」を使っているもので、冒頭のトップセールスの方も自然に第三者話法をつかっていたとのこと。
他のお客様が「なぜ当社を選んだのか?」
この受注に直結する“理由づけ”を明快に伝えることで、年間億単位の受注を獲得しているそうです。
この優秀な営業マンのスキルを他の営業マンにも横展開させることができれば…社長の意図はここにありました。
しかし、優秀な営業マンは「なぜ自分が好成績をあげて、他の人は成績が低いのか」正確に理解できているケースは稀であります。
原因が不明瞭であれば、対処も間違えます。
優秀な人は、そうでない人を見ると「サボっているのでは?」を感じてしまいます。
コツコツと自然に努力をしていて、特別なことはやっていない…そう思っているからです。
たかしに、売れていない人のなかには、サボリ癖がある人もいます。
また、言い訳ばかりいうタイプも、結果をだせない典型的タイプです。原因を自分の思考や行動に向けるのではなく、他の理由に責任転換するので、努力するポイントをはき違えるからです。
でも、組織の中には、そのようなダメダメタイプは、少数派のハズです。
大半の営業マンは「どのような努力をすれば結果に結びつくのかわからない人達」なのです。
そのような人には、正しい理屈を伝えることが大切になります。
長島茂雄監督のように、「球がこうスッと来るだろ。そこをグッと構えて腰をガッとする。あとはバァーといってガーンと打つんだ」では、伝わりません。
売れるコツが理解できるように、伝える必要があります。
そんなのアタリマエだろ…
と思われるかも知れませんが、これは容易なことではありません。
あるスキルを習得した上級者というのは、様々な壁にぶち当たりながら試行錯誤をして結果に結びつく行動をしています。
これを整理整頓して、ロジックに組み立てるのはカンタンなことではないからです。
私も出版など、文書を書くことによって、売れるコツを言語化するようになりましたが、最初はまったく言語化できませんでした。
編集者から「どうやって初対面の人の懐に飛び込むのですか?」と聞かれても、「色んな会話を切り出してみて、相手がピクッときたら、そこをググッと掘り下げるだけですよ」と、まさに長嶋監督のような回答をしたものです。
たまたま本を読むことが好きだったので、意外とはやく言語化することができましたが、それでも頭からケムリが出る程考えて、ようやく言葉がでてくるものなのです。
これは、お客様の購買理由も同じです。
第三者話法につかう「なぜ当社を選択したのか?」という真の理由は意外にも見えないものなのです。
購買判断は、整理された合理性のもとでは、意思決定されていません。
どの価値が自分にとって利益となり、その利益を享受できる手段は、どのような商品があり、コストパフォーマンスを比較すると…
などと、すべての代替案をピックアップ・整理して購買行動など起こしていません。
ある程度の条件が揃ったところで、意思決定してしまいます。
なので、第三者話法を横展開する…とカンタンに言っても、その実現は容易ではありません。
容易ではないのですが、心理学的なアプローチから見ると、強い営業組織をつくるための数少ない方法論の一つであることは間違いないので、なんとか横展開できる方法を考えたいものです。
売上をあげるためには、「見込客の集客率向上」と「受注率の向上」がカギを握ります。
受注率の向上は、営業マンの属人的要素によってきまります。
受注率の向上は、「相手の心を開示しているスキル」「整理された質問能力」「効果的なプレゼンスキル」さらに「テストクロージング技法やクロージングテクニック」など、広範にわたる能力が影響しています。
以前コラムでも書いた通りですが、心を開示させたり、鋭い質問をしたり、効果的なテストクロージングやクロージングをすることは、営業マンのメンタリティに依存しています。
残念ながら、OJTであろうと外部研修であろうと、この習得は外部刺激ではほぼ不可能です。
しかし、説明法(第三者話法)に関しては心理的圧迫が少ない為に、平準化が可能です。これを意図して使わない手はありません。
波及営業法では、属性が近似している市場に絞り込んで、その市場の中で「あの会社(人)が買ったのならスゴい商品だろう…という思われるような影響力のつよい顧客をまず獲得し、そのネームバリューで拡販していく」というロジックで進めていきます。
その拡販段階で使うツールとして有効なのが「顧客が当社を選択した理由が書かれた“事例集”」です。
その事例集をもとに、トークで補強する訓練をすれば、効果的な第三者話法が比較的簡単にできるようになります。
強い営業部隊をつくるには、営業マンの数を増強するか、一人一人の営業力を高めるかのどちらかです。
数を増強するには固定費がかかります。
商品のライフサイクルが著しく短くなるなか、固定費がロックされるのは賢明な経営判断ではありません。
営業マンの質を高めるのは容易ではありません。
しかし、武器を用意して戦闘力を高めるのは、容易です。
織田信長は、日本で初めて「銃」を有効活用した武将と言われています。
銃という強力な武器に頼り切らず、その特性を理解した上で、三段撃ちという利用法を考え、それを訓練し、実戦に使いました。
営業ツールも一緒です。
武器だけ持っていても、宝の持ち腐れになります。
その武器の特性を理解して、どう使ったら効果的に受注活動に結びつけられ得るのか…前線で活躍する営業マンすべてが理解をし、実践で利用できるように訓練しなくてはなりません。
御社では、顧客が「なぜ当社を選んだのか?」の真の理由をつかみ、言語化し、それを全営業マンが実践に活かしきれているでしょうか?