「ウチの社員は、何も考えていません。 この商品を他の市場に横展開させようと“営業を設計する技術”を読ませまたのですが……まったくプランが出てこないのです」
先日、コンサルティングが始まったばかりの社長さんと、サシ飲みしている時、ふと社長さんがこぼした一言です。
社員が考えてくれないから、外部の人に入ってもらおう…と、依頼をされたそうですが、これは同社に限ったことではなく、大多数の経営者が同じ悩み(?)を抱えているテーマもあります。
「なぜ社員からは“これだ!”というアイディアが生まないのか?」
以前は、漠然と「個人、個人の資質の問題なのでは?」と感じていましたが、ここ数ヶ月、人工知能を勉強するうちに明快な理由(仮説)が浮かび上がってきました。
そもそも、社長と社員とでは思考回路が違います。
能力の差ではありません。
現状を捉える「視点」の問題です。
経営者は、「競合」や「顧客」「取引先」など自社の業績に影響を与える利害関係者や社会情勢などの外部環境を感じ取りながら、自社のおかれた立場を広い視点で掌握しています。
また、社員の働きや自社の財務状態などを鑑みながら、自社の未来を感じ取りながら「こうあるべきだ!」という理想像を描いています。
明確な理想像の場合もあるし、なんとなく「こうしなければ…」という漠然とした理想像もあります。
しかし、残念ながら社員には、そこまでの情報量はありません。
と言うのも、社員に求められていることは「“今”の成果」をあげることです。
今の成果をあげるための情報と、自社の未来をけん引するための情報とでは、質も量(情報収集する幅)もまったく異なります。
情報の質と量が異なれば「現状認識」や「問題意識」にズレが生じるのは、ある意味当然のことです。
しかし、「人工知能は人間を超えるのかー人工知能を知ることは、人間を知ることだー」(松尾 豊氏著、KADOKAWA)を読んでいて、それだけではないことが分かりました。
表面的な「情報」の問題だけでなく、置かれた状況や思考パターンにも大きく影響しているのだと…。
これは、あくまでも藤冨がビジネス視点で同書を読んだときの「整理、分類、体系化」であり、私見が入り込んでいるので、同書の主旨とは異なる事を予めご了承の頂いた上で聞いてください。
例えば、今回のテーマのように「ある既存商品を他市場に横展開して売上を伸ばすプラン」を創案する必要性があったとします。
この時に必要な思考回路は…
1.既存商品の特徴を抽出すること
2.ある特徴を抽象化すること
3.抽象化した特徴を無関係な世界に投げ込むこと
4.他要素との組み合わせや他分野での成功モデルの抽出
5.自社テーマへの具現化
大きく分けるとこの5つのステップで進められていることが「人工知能」の研究成果を読んでいて、わかったことです。
まず、1の「既存商品の特徴を抽出すること」。
これは「強み」を発見するプロセスです。
一見カンタンに見えることなのですが、実はコレが物凄く奥深いテーマだそうです。人工知能の実現も、このテーマに行き着き、壁を突破するまで50年余りの歳月を要したようです。
例えば、人間にはとても優れた能力が身についていて、特徴を引き出し、判断をする能力があります。
「目は2つ、鼻と口は1つ…」と人間の顔の基本構成は全く同じなのに、あの人は鈴木さん、あの人は山田さん、あの人はトムクルーズ…と、微妙な特徴を抽出して、判断をしています。
人工知能では、これが大きな壁となっていたそうです。
と言うのも、この特徴を抽出して判断する過程では、膨大な量のノイズが必要だったということに、中々気づけなかったとのこと。
つまり、大量に人間の顔をインプットしているから、鈴木さんや山田さんの特徴をつかみ出せるという「脳の機能」を着目できていなかったようなのです。
これは「強み」を発見するプロセスでも同じことが言えます。
既存商品の特徴だけを見ていても、「強み」は発見できず、膨大な量の商品やサービス(ノイズ)をインプットした状態からみないと「特徴」を引き出せない…そう捉え直しても間違いはないでしょう。
これを現場でイメージしてみます。
今の成果をあげなくてはいけない社員が、自社商品とは無関係な情報を収集していたら上長は、どのような指摘をするでしょうか?
「よし! 強みを発見するためにノイズまみれになっているのだな♪」と評価するでしょうか?
あり得ません。
余計なことをせずにさっさと仕事しろ!と言われるのがオチです。
この上長の判断は、決して間違ってはいません。
しかし、「ある既存商品を他市場に横展開して売上を伸ばすプラン」を創案する…という目的に向けた第一ステップには、膨大なノイズが必要なのも事実です。
そう考えると、ノイズをもった人間を一時的に投入する方は、手っ取り早いことが分かります。
冒頭の社長さんも、これを直感して依頼してくれたのだと思います。
少し話しが逸れてしまいましたが、こうして「強み」を発見することができたら、次は「強み」を抽象化するプロセスが必要です。
この抽象化が出来るか否かが、横展開の成否を分けると言っても過言ではありません。
人工知能の研究以外でも、人間の創造力は「抽象化思考」の強弱によって決まることが分かっています。
今回は、かなりリッチなテーマのため、この段階で、普段のコラムの原稿量となってしまいました。
2ステップ目以降の「特徴の抽象化」→「抽象化した特徴を無関係な世界に投げ込む」→「他要素との組み合わせや他分野での成功モデルの抽出」→「自社テーマへの具現化」は次回に譲りたいと思います。
乞うご期待ください。