「行き当たりばったりの営業をしてきましたが、結局何が良くて何が悪かったのか分かりません。やはり営業戦略を立てる事は大事ですね」
先週、京都で行われた経営者の集う会で講演をさせて頂いたあと、懇親会で頂いた感想でした。
すると、横から「でも計画を立てたって、その通りにはいかないことの方が多いですよね。それでも立てる必要性って何でしょうか?」と他の経営者が水を差しました。
確かに、計画通りにそのまま成功を収めることは、少ないかも知れません。
それでも「狙うべき市場」や「セールス・アプローチ」の「ズレ」に途中で気づき、軌道修正したところで成功を収めることが多いのも事実。
計画は、100%そのまま再現させることが目的なのではなく、結果的に目指すゴールにたどり着く事が目的なのです。
計画通りに行かないことで「机上の空論は役に立たない…」とサジを投げる必要もなければ、「二進も三進も行かない(にっちもさっちもゆかない)」と諦める必要もありません。
そもそもの正しい戦略手順に従っていれば、大きく方向性を間違うことはありませんから、その道筋の中に必ず答えがあると信じて追求することで、「突破口」が開けてくるものです。
一例をあげると、私が導入を支援している「波及営業」戦略では「自社にとって有利な戦いが出来る市場」を徹底して見極めることから「戦略手順」がスタートします。
自社にとって有利な戦いができる条件とは、「自社の強みが発揮されること」「その市場に知覚できる欲求があること」「時代の後押しがあること」の3つの条件が整った市場。
もし、当初の思惑通りに売上が伸びない場合、上記の3つの条件を振り返ると、煮詰めきっていないテーマが浮き彫りになります。
- 自社の強みだと認識していたが、強烈な競合商品があったり…。
- 「顧客が期待する欲求充足」と「提案するコスト」のバランスが崩れていたり…。
- 「時代」が求めるテーマと逆行した提案商品だったり…。
と、3つの条件が満たされていないことが浮き彫りになるのです。
そこから
- 攻め込む市場を変えて強みを見つけたり…。
- 提案コストを安いと認識していれる別なターゲット層を攻めたり…
- 時代に即した「切り口」に変えて商品提案をしたり…。
と微調整を加えて仕切り直すことで「突破口」は開けていきます。
営業戦略をしっかりと企てた上での窮地なら、どこで「読み間違えた」のか、どこで「ズレ」が生じたのか、どこで「変化」が起きているのかを振り返ることが出来き「軌道修正」できます。
ドラッカー氏も、「予期せぬ失敗」から「機会」が生まれることがある…と言っている通りです。
この予期せぬ失敗とは、何も仮説を立てないことから派生する失敗ではありません。
仮説を立てたがゆえに、明らかになった「修正事項」なのです。
しかし、行き当たりばったりの営業活動では、何が悪くて上手くいっていないのか…検証しようがありません。
ムダな試行錯誤を繰り返し、非生産的な活動で疲弊していくのは、火を見るより明らかです。
皆様も「ヘンゼルとグレーテル」という童話を読んだことがあるかと思います。
思い出してもらうために、大雑把なあらすじをご紹介しましょう。
貧しい家庭で暮らしているヘンゼルとグレーテルという兄妹は、「もう子供達に食べさせるパンはない…」と、お母さんの意向で森に捨てられてしまいます。
しかし、前夜にその予定を聞いた兄のヘンゼルは、予め小石を用意して、帰りに道の目印に置いていきました。
森の奥深くに置き去りにされた兄妹は、月に照らされた小石を目印にして、夜中じゅう歩き続け、明け方に家に到着します。
お父さんは喜びましたが、お母さんは悲しむばかり。
お母さんは、二度目の計画を企てます。
もっと森の奥深くに置き去りにしようと…。
二度目の時、前夜に石を拾えなかったヘンデルは、今度はパン屑を落としながら歩きます。
しかし、小鳥に食べられ、残念ながら目印を失ってしまいました。
途方に暮れた兄妹は、お菓子の家の魔女に家にたどり着いて…
というストーリーで、最後はハッピーエンドを迎えましたが、極めて危ない橋を渡る物語です。
この物語から得られる教訓は、行き当たりばったりの行動ではなく、計画をしっかりと立てることの重要性だと私は感じていました。
兄のヘンゼルは、もし3回目があったとしても、必ず「小石」を用意するでしょう。
いや、もっと月明かりが反射しやすく、常に携帯できるように「おはじき」や「ガラス玉のネックレス」をするかも知れません。
または、月明かりがなくても、道標が見つかるよう知恵を絞るかも知れません。
正しい手順(戦略)を知っていれば、より良い工夫ができ、さらに成功確度を高めることが出来ます。
ところが、これが最初から行き当たりばったりの行動だったら…
最初の成功パターンを分析できないために、次も行き当たりばったりの行動になり、次なる成功を再現できずに、失敗する確率が高まることでしょう。
冒頭にしみじみとおっしゃていた社長さんの言う通り、行き当たりばったりでは、何が良くて何が悪かったのか、分析できません。
分析なくして、精度の高い「営業の打ち手」…いえ「経営の打ち手」は生まれません。
今後ますます読みにくい社会になるなか、しっかりと我が社の行く末の「仮説」と商品・営業戦略の「仮説」を企てていく必要があります。
御社の営業部隊には、明確な戦略が存在していますか?