「自社ブランド商品に選択と集中をさせようと思っています。どう思いますか?」
来月行われる「経営者の会」に講演依頼をしてくださった社長さんと、週末に講演内容の打ち合せをしてきました。
挨拶を終え、一通りの打ち合せが済んだあと、「ところで社長さんの事業はどのようなことをしてらっしゃるのですか?」と聞くと、何とも面白いビジネスを手掛けていました。
デザイン性に優れた自転車のサドルカバーを製造・販売するメーカーさんです。
カタログと実物を拝見すると、可愛らしいのなんの。
ちょうど、息子に自転車(練習用ですが…)を購入していたので、そのデザイン性に惚れ惚れしたのですが、優れているのはそれだけではありませんでした。
機能性もバッチリです。
雨上がりの後などは、タオルで拭かないとサドルがぐちゃぐちゃになり、ズボンやスカートが濡れてしまいますが…この撥水加工したサドルカーバー(チャリCAP)なら、手でサッと拭くだけでも、かなり水が弾けそうです。もちろんハンカチなら一瞬です。
さらに、目立つデザインなので、自転車置き場でスグに自分の自転車も見つかる。
ありそうでなかった商品。
こういう商品は、根強い販売力を持っています。
▼この商品(チャリCAP)です▼
http://aile-jpn.com/
興味津々でお話を聞くうちに、さらに吸い込まれていきました。
と言うのも、冒頭のお話の通り、この事業1本に絞るべきか否か…ちょうど思案中だったのです。
10年前に起業した際は、文具や雑貨を扱う卸売業からスタートしたそうです。
ところが経営者独特の「感」が働き、このままでは発展しないのでは?と感じた社長は、自社ブランドで何か商品を売らなければ…と思い立ち、4年前に「チャリCAP」を考案し、販売を開始。
当初は苦戦していたものの、執念とも言える営業力で、今では50万枚を突破するヒット商品に育てあげたのです。
その間、当然ながら「売れる!」と分かった二匹目のどじょう達が市場に参入し始め、最盛期は10社ほどの競合がひしめく市場だったようです。
しかし、有名キャラクターとのタイアップ商品などを打ち出し、本気度を市場に知らしめると、単なる金儲け主義で市場参入した競合は次々と撤退。
今では、2社しか残らない「独壇場」を築き上げてしまいました。
ここまでくるには、血のにじむような努力があったことは容易に想像ができます。
そんな精魂を混めた自社ブランド商品である「チャリCAP」の良さをもっと市場に伝えていきたい…。
この「チャリCAP」を使って、自社を次なる成長ステージに押し上げたい…。
その思いが「事業を選択と集中すべきでは?」という課題をつくりあげていました。
自社ブランドの売上は、6割。
卸売業は4割。
卸売業の売上を捨てて、事業を1本化するのは当然ながらリスクが伴います。
私も話を伺っている冒頭では「4割の売上を捨てるのはリスクが高いのでは?」と感じていました。
しかし、社長がこれまで努力してきた事や、なぜそう思い立ったのか?を伺うと、今度は「100%成功するのでは?」という思いに変化していきました。
事業の成否は、つまるところ「社長の本気度」です。
社長の本気度という「土台」がない事業は、「杭がしっかりと打ち込まれていないマンション」のようなものです。
ちょっとした逆境でスグに傾いてしまいます。
4割の売上を捨てれば、当然ながらキャッシュフローもキツくなります。
自ら逆境に追い込むには、相当の本気度がないと突破できません。
でも、そんな心配は全くご無用の様子。
粗利計算までは公開できませんが、一般論で言っても卸売業の粗利益率より自社ブランドの利益率の方が、倍以上は稼げます。
仮に2倍だったとします。
売上が6億で、粗利が3億…粗利率50%の自社ブランド。
売上が4億で、粗利が1億…粗利率25%の卸売事業。
合計10億の企業というケースの場合。
売上は40%減でも、粗利では25%減というカタチになります。
つまり、売上は40%減でも、実質は25%減と同じこと。
リスク想定も粗利から考えると半減しています。
さらに事業の成長性や将来性まで、話は発展すると、成功の確度が明らかに高い事が透けてみえてきました。
同社の営業の方は、営業先で「卸売業」と「自社ブランド商品」の売り込みを日々しているそうです。
ところが、1回の商談で、2つの商品を売り込むのは、想像以上に難しいものです。
藤冨も営業経験が長いので、スグにイメージできましたが、たしかにコレはチャンスロスをしている可能性が大です。
と言うのも、人間は易きに流れる性質を持っています。
2つの商材があり、どちらかが売りやすかったり、失敗しても自分の責任にならなければ、そちらに流れてしまいがちです。
本当は売れる商品なのに、営業マンの心理的負担があるがゆえに売れない…というチャンスロスがあるというわけです。
具体的に見てみましょう。
卸売業の商品は、どこにでもある商品のため、「価格」や「納期」など、工夫の余地が限られたところで勝負をします。
言えば、商談がめちゃくちゃシンプルなわけです。
シンプルが故に、商談がしくじっても、「価格で負けた」「納期で負けた」とメーカーのせいに出来ます。
逆に自社商品の場合はどうでしょう?
世の中にない商品を提案するのですから「チャリCAPが本当に売れるのか?」をリテーラー(小売業)に納得してもらう必要があります。
そのための工夫の余地は、考えるだけでもてんこ盛りです。
時間がいくらあっても足りないくらいの仕事量になることはカンタンに想像できます。
- どのようなエリアで売れるのか?
- 最適な売り場(チャネル)はどこか?
- 売れ行きがあがる店頭ディスプレイは?
- どのようなPOPなら販売状況が変わるのか?
- 新規開拓に必要な「売れている」という実績を客観視させるツールは入手で
きるか?
などなど、商品が動いていくために必要なことを企画し、実行し、さらなる最適解を得ていくことで、チャリCAPの売り行きは大きく伸びていきます。
つまり努力次第で、いくらでも売上が飛躍する商品なのです。
普通の営業マンなら、どちらの事業に商談の比重が傾くでしょうか?
- 売れない理由を「他人」のせいに出来る事業。
- 売れない理由が「自分」に覆い被さる事業。
答えは明らかなハズです。
そして、事業も社員も成長するのは、どちらの事業でしょうか?
これも答えは明らかなハズです。
私も似たような経験をしたことがありますが、他人のせいにできる仕事がなくなったら、社員は奮起せざるを得ません。
もし、ここで営業マンが「ヨシ、本気だして行こう!」と思ってくれたら…
自社ブランド商品のさらなる売上増は、確実に実現するでしょう。
だって、やることは幾らでもあるのですから。
そう思った瞬間に、4割を占める既存事業を捨てても、この社長なら成功できる! そう確信するに至りました。
社運をかけた事業の成功度は、商品力や市場性、時代性など様々な要素によって影響されますが…
絶対に不可欠な要素は、「本気度」です。
御社では、「本気度」に焦点をあわせて、事業の意思決定を行っていますか?