「既存事業だけでは、明るい未来が描けません。何か新規事業を考えないと…」
会社を守り、成長させていくために、新しい事業を考えないといけない業界は数多く存在しています。
もちろん、既存の事業において、競合との差別化、顧客の欲求の深掘り、新市場への販売など、成長への打ち手はいくらでもあります。
しかし、どう考えてもブレイクスルーの糸口が見つからず、まったく新しいポジションを確立していかないと、立ち行かない業界があるのも事実です。
「プロジェクトチームを組んで、新規事業を創案するか…」
新しい企画を皆で考え、協議でアイディアを揉みまくり、事業の方針を決定していく…。
私が関与させて頂いている会社も、多くはこの形態をとっていますが、運営方法と決定条件については、細心の注意が必要だと常に感じています。
と言うのも、この「皆で考える」というのは、非常に曲者だからです。
業務の効率化や生産性向上を目的とした改善活動であれば、皆で考えた方が良いアウトプットが出ます。
事実には、様々な捉え方があり、改善手法も様々なアプローチがあるために、多くの発言やアイディアが必要だからです。
しかし、ゼロからイチを創造する「事業創造」は別です。事業設計を皆で考える…という発想をした時点で失敗要素を抱え込むことになるからです。
ちょっと話がそれますが、設計のあるべき姿について、以前こんな経験をしました。
私は、サラリーマン時代から営業職だったのですが、ひょんな事から「システムの上流設計(要件定義)」をする羽目になったのです。
プログラム経験のない人間が、設計なんてあり得ないことですが、当時は仕方ない状況下だったので、遠隔地にいるエンジニアからアドバイスをもらいながら仕事を進めていったものの…
高度な仕事を手探り状態で進めていくために、ノイローゼになるほど行き詰まった時期がありました。
そこで、一人で悩んではラチがあかないと、ヘルプを要請したのです。
「ちょっと、この業務フローだけ、ディスカッションして決めませんか?」と。
すると、エンジニアはこう言い放ちました。
「上流設計というのは、一人の頭脳で考え、決めていくものですよ」と。
私自身は、システム設計のプロではないので、その考え方が正しいものかどうかは分かりません。
しかし、新規事業の創造に限っては、その考え方の方が正解だと、今では確信を抱くように様になりました。
自分自身が事業を立ち上げた経験を振り返ったり、現在様々なクライアントさんと、事業創造を行うなかで、「仲良しこよし」のチームで考えたアイディアほど、立ち上がらないことに気がついたのです。
ただ、この時に独善的にならないような注意は必要です。
それは、それで対策を含めて後述しますが、まず何故「みんなで新しい事業を考えるのはイケナイのか…」私見ではありますが、整理してみたいと思います。
まず、チームを組むと「臆病アイディア」が途端に多占していくためです。
人間が最も恐怖を感じるのは、「見えない」ことであり、ゼロからイチをつくり出して行く事業は、まさにこの典型です。
見えないことを出来るだけ見えるようにしていくプロセスは、保守的発想になりがちです。
ましてや、組織内で「発言責任」を取らされる可能性があると感じた個人から、野心的で攻撃性の高いアイディアが出るはずがありません。
野心的で攻撃性の高いアイディアというのは、平たくいうと「尖った商品」ということです。
針は、細ければ細い程、弱い力で突き刺さるのと一緒で、尖った商品も弱い力でも市場に突き刺していくことが出来ます。
しかし、皆で考えると、この尖った商品が生まれません。
理由は上述の通り、皆が保守的になるからです。
耳にタコができるほど聞かされている言葉に「リスクなきところに、リターンなし」というものがあります。
保守的でリスクを回避するようなアイディアの出易いミーティングなんて、百害あって一理なし。時間のムダ使いにしかなりません。
また、もう一点、深く思考する…という「場」が奪われがちになります。
皆で考えているから…という意識が少しでもあると、深く深く考えようという意識が削がれてしまいます。
思考の浅いアイディアの多くは、なぜか商品の魅力もありません。
恐らくですが、深い思考がないために、問題の本質を捉えきれず、商品が解決しているテーマが軽薄になっているからでしょう。
みんなで新規事業のアイディア出しをしよう!
まず、この発想から改めないことには、次なる事業の柱が育つような企画は打ち出していくことは出来ないのです。
だからと言って、山に籠って一人でブツブツと考えるのではありません。
冒頭にも申し上げたとおり、私自身がお手伝いするときもプロジェクトチームを組むケースが大半です。
この目的は、2つあります。
1つ目は、方針決定後に、即座に行動に移したいためです。
企画からチームメンバーに参画頂く事で、「どのような目的で、この事業を行うのか…」が理解でき、自らの役割を自らが考えて実行に移すことが出来ます。
スピード感のある新規事業というのは、成功確率も高いもの。
そのためにも、動く主体となるメンバーには、企画段階から参画してもらうのは意義のあることなのです。
2つ目は、あらゆる情報を皆から集め、その事実を多面的な見方をすることで、問題の本質を浮き彫りにしていくためです。
面白いもので、新規事業のアイディアを出してください!と言うと、保守的で甘い発想しか生まれないのですが…
事実(現象)を教えてください!というと、途端に皆分析官のごとく「重箱の隅」を突き出すような発言をしてくれるようになります。
さらに、問題を抽出してください! というと、途端に皆「辛口発言」になり、場がヒートアップしていきます。
新規事業の創案で重要なことは、「現実と問題点の掌握」と「(買い手にとっての)あるべき姿が受容性」です。
このうち「現実と問題点の掌握」は、できるだけ多くのサンプルが合った方が精度アップするので、チームでリストアップした方が無難です。
また、買い手にとってのあるべき姿は、提案した際にそれが受け入れられるかどうか…の買い手判断になり、それが新規開拓の成否を握るので、「そのあるべき姿は、本当に求めてられているだろうか…」という意見も、現場に近い人から収集し議論や調査をしていくことも必要です。
このチームメンバーから集めた「事実情報」や「現場感覚」を元に、1名または多くても3人以内の野心家メンバーで眈々と新規事業の方針を決定していくのです。
一口に「新規事業のプロジェクトチーム」と言っても、やり方次第では無意味どころから逆効果になることも多々あるので、本当に注意が必要です。
御社では、何も考えずに社員を集めて「新規事業の方針アイディアを出し合うミーティングをやろう」などと声掛けをしていませんか?