とことん「本質追求」コラム第170話 儲かる市場の選び方

 

「いま2つの新規事業案があるのですが……どちらが儲ると思いますか?」

 

2案の事業アイディアのうち、どちらを選択すべきか…
先日、既存事業の将来性を憂う社長さんかご相談にいらっしゃいました。

 

既存事業でも見方、切り方によっては、チャンスを見いだせるハズなのに、なぜ?と思って伺ってみると、創業者である父とそりが合わず、私の代になったら全く新しいことをやりたい!と思っていたとのこと。

 

おおよそ、私の経験上では、このような動機で始めた新規事業は、大成功するか大失敗するかのいずれか…。

創業者であれ、二代目社長であれ、仕事がずば抜けて出来る人を観察すると、自分の限界を超える成果をもって、コンプレックスを打破するタイプが多いのも事実。

反対に、本来の経営目標である「顧客の創造」に焦点が絞られず、事業のコンセプトが曖昧なまま撃沈するケースもあります。

 

どちらのタイプか…。ここは冷静に見極めた上で、既存事業にもう一度光を当ててみるか、新規事業に乗り出すかを判断しなくてはならないと思います。

 

しかし、一朝一夕では見極められるテーマではないので、「新規事業の2案のうち、どちらが利益貢献してくれそうか、まずは雑談ベースでお話しませんか?」。

ということになりました。

 

新規事業を評価するに当たっては、まずは市場性を見極めることが大切です。
・自社が有利に戦える市場か否か。

・  マーケットサイズ(シンクタンクから情報収集又はフェルミ推定で推測)

・  市場アプローチの難易度(営業リストの入手可否など)

・  営業先に与える影響力(提供価値の貢献度)

・  顧客単価の推定

・  競合からのスイッチング難易度(買い替えしやすいか否か)

・対象市場のひずみ(商品が入り込む余地が生まれる法改正など)

 

など、当社としての「新規事業の魅力度」「事業化の難易度」「競合との優位性」を推定評価していきます。

 

ここは、営業活動の視点から推定していくと、イメージがとてもクリアになっていきます。
ご相談にこられた社長さんと、雑談がてらこれらの評価軸を念頭にヒアリングしていくと、霧が晴れたように迷いが吹き飛んでいかれました。

 

迷いに迷っていた1案では、営業現場をイメージすると「単価」がとれないことに気がついてしまったのです。

法人営業の場合には、個人営業の嗜好品とは違い、基本的に何かしらの問題解決が、セールスポイントになります。

 

単価が取れる・取れないは、この問題解決によって「損益計算書」や「貸借対照表」に与えるインパクトによって決まります。

 

であれば、お客様側にとって最も利益貢献を期待できる方が、その対価として「高単価商品」を堂々と提案することが出来るので、その事業を選定した方が経営メリットを得ることができます。

 

京セラの創業者であり、経営破綻に陥ったJALの再建に指揮をとった稲盛和夫氏は、「値決めは経営」である!という断言するとおり、価格決定は、企業経営にとって最重要課題でもあります。

 

氏の著書である「稲盛和夫の実学」では、こう説いています。

「値決めは単に売るため、注文を取るためという営業だけの問題ではなく、経営の死命を決する問題である。売り手にも買い手にも満足を与える値でなければならず、最終的には経営者が判断すべき、大変重要な仕事である」と。

 

この主張の中で、営業視点でモノゴトを発想する藤冨がもっとも注視しているのは、“売り手にも買い手にも満足を与える…”という行(くだり)です。

 

営業マンがお客様の背中を最後に押せるのは「必ず満足させられる」という裏付けがあってのことです。

 

そして、経営者は営業マンに「この商品は、お客様のこんな課題を解決し、満足をしてもらえるんだ。だからこの価格なんだ」と伝えなくてはなりません。

 

この事実を厳粛に受け止めると、事業選定において最も大切な評価軸が見えてきます。

 

マーケットサイズでしょうか?
それとも、市場アプローチの難易度でしょうか?

 

いえ、どちらも違います。

「対象市場の気持ちを汲み取れるか否か…」という点です。

 

もっと言うと、お客様になるであろう会社や人達を好きになれるかどうかです。

 

私の親友に200人近く営業マンがいる会社で入社していてから辞めるまでの7年間(84ヶ月間)で、2位になったことは1ヶ月だけ。残りの83ヶ月は全てトップという成績を残した人物がいます。

 

彼は、全て新規の飛び込み営業。

飛込み営業で商店や企業に入る際、呪文のように「ここの店主を好きになる…」と唱えるそうです。

 

相手を好きになれば、必然的に興味が湧いてきて、商談先の課題や欲求が見えてきます。

そこから、自分が販売している商品が相手に与える効用を噛み合わせていくのです。

 

これは、セールスの王道です。

 

私は日々のコンサルティング活動の中で常々感じてきていることがあります。

 

それは、営業現場と連動しない事業計画は、絵に描いた餅に終わる可能性になりやすい…だからこそ、事業計画に魂を入れるために、営業視点から事業計画を見つめ、具体的な活動に落とし込む「営業計画」を立てるべき…と強く感じているのです。

 

また、そもそも論としても、中小企業の社長が、自社の顧客に興味を持てないまま、長く深く付き合うことは苦痛を伴うハズです。

次第に意欲が削がれ、お客様の心理を見失い、事業は下降曲線を描いていきます。

 

そうならないためにも、興味の持てる市場の住人と付き合うことが大切です。

 

中小企業が、新規事業で儲るか、儲らないかは、経営視点での市場評価も大切ですが、社長自らが参入市場の住人に興味をもち、彼らに貢献したい…という意志も重要なのです。

 

日本マクドナルドを立ち上げた藤田田氏は、「私はきつねうどんが好きだ。しかしハンバーガーを売る。ハンバーガーは嫌いだが、嫌いだからこそ研究する」と言っていました。

好きな市場ではなく、嫌いな市場を狙え…と。

私の考えとは真逆です。

 

しかし、そう解釈するのは表面的解釈にすぎません。

 

 

藤田田さんは、日本人を金髪にするためにハンバーガーを売っていました。

半分冗談ですが、真意は「国際社会で堂々と渡り合える日本人を作る」ことを意識されていたのだと思います。

 

なので、お客様になりえる人に興味をもつ…というよりは、お客様を啓蒙しようとしていたのでしょう。

戦後すぐの東大生時代にGHQの翻訳で稼いでいたというから、きっとそのような思想が生まれたのだと思います。

 

話が少しそれましたが、いずれにせよ新規事業は、その市場の住人に興味を持てるか持てないかが、儲る事業に育つか、途中で挫折してしまうかの分かれ道になります。

 

御社では新規事業の計画はありますか?

もし計画があったとしたら、その対象市場の住人に興味を抱き続けることはできますか?