「波及営業は、法人営業にしか使えないのでしょうか?」
先日、とある講演会で「衣料品」を製造・販売している経営者から「波及営業を個人営業に置き換えるとしたら…どのように応用すべきでしょうか?」というご質問がありました。
波及営業の考え方自体は、もちろん個人営業にも使えますが、現在、藤冨が直接ご相談にのるのは法人営業に限っています。
理由は単純です。
法人営業は、ロジカルにプロセスを詰めていけば、売れるロジックが見えてくるものの、個人営業は多種多様な欲求が存在するため一筋縄ではいかないためです。
商品やサービスは、買い手が期待する「利益や満足」を達成する手段でしかありません。
その買い手の利益や満足に紐づいている「欲望」を個人ベースに考えると、多種多用の欲が存在していることがわかります。
しかも顕在化している欲望だけではなく、実際の消費行動には「無意識」が強く働いています。
自身の消費行動を振り返ればわかりますが、欲望を正しく認識し、合理的な思考プロセスを踏んで、自分にとって最適な商品を選択しているでしょうか?
多くは「何となく買っていた…」という曖昧模糊とした説明しかできないのではないでしょうか。
以前、新商品開発専門のコンサルタント会社でカバン持ちをさせて頂いていたころ、大手飲料メーカーの商品開発部長が「消費者は自分が買った商品の理由は説明できない…」とボヤイていた光景が、私の記憶に深く刻み込まれています。
自動販売機の前で購入者を待ち伏せ、商品を買った直後に「なぜ、それを選んだのですか?」と聞きまくっていたそうです。
すると、ほぼ100%の人が「うーん。何でしょうね。何となくです」という購入した理由を説明できなかったそうです。
その後、購買心理学をひも解いく機会があったのですが、現実の購買行動は「非合理的な選択・行動のカタマリ」でした。
個人営業は、とても摑みどころが難しいのです。
ところが、法人営業においては、購買心理を突き詰め、合理的な販売プロセスに落とし込むことが可能です。
自分のお金で買物をするわけではなく、組織のお金を使うため、組織に対して明確な利益や満足を「説明」する必要があります。
つまり個人営業のように捉え所の無い「無意識」が購買に影響を及ぼす余地が極めて小さいのです。
法人営業は、「これは●●のような利益を享受できる」「これはこのよう満足を得る事ができる」と「顕在意識」が明確であるため、帰納法による有効な打ち手を考え出す事が、ある程度公式化できます。
帰納法とは、ある現実がどのような理論や原理原則に基づいているのか…を推論する方法です。
これは「現実」ではなく「仮説」でも充分に活用できます。
しかも、ある仮説(現実想定)をできるだけ多くの視点から観察していけば、その仮説が有効な仮説なのか、ムダ打に終わる仮説なのか…が、納得出来るようになります。
納得できれば、思いっきりアクセルを踏み込んで事業を推進し、検証する。
そして、検証結果を分析・評価して、修正点を洗い出し、満足のいく結果がでるまで、修正できる仮説を煮詰めていけば、売れるロジックがクリアになっていく…という流れです。
このように法人営業は、極めてロジカルに「打ち手」を創案することができるのです。
講演会でご質問頂いた「衣料品」も、個人に売り込むのではなく、法人に売り込むという目線で捉えてみてはいかがでしょか? と、お伝えしました。
衣料品は、いくら「機能性」も重視されるようになってきた…と言っても、購買意思決定に関わる要素の多くは「デザイン」などの無意識に関わる意思決定の要素の比重が高い商品分野です。
でも、小売店に営業するのなら「この商品を置いて消費者から支持されるのか?」「この商品を置いて儲るのか?」という視点だけで充分です。
(もちろん店頭で動かないことには、意味がありませんが…)
ちなみに、この衣料品の特徴は「温かい」という機能性をウリにしていました。
でも、今の季節、そのような特徴をうたった商品を「小売店が扱いたいでしょうか?」
うだるような暑さが続くなか、「欲しい」という声があがることは、どうも想像できません。
しかし、機能・特徴を「利益や満足」に変換すれば、印象は急転換します。
「温かい」をウリにするのではなく、「体温があがれば病気にならない」という少し前に流行った“常識”にテコの原理を働かせ、「カラダを冷やさない肌着です」と謳い、病気になることに気を配っている人達が“溜まっている場所”に商品を置いていくのは、有効な一手となるでしょう。
たまたま、その方は巣鴨にご縁があるらしいので、巣鴨商店街の衣料品で、圧倒的なシェアをまず獲得し、その実績をベースにして、他のチャネル開発を行えば、波及効果が充分に狙えます。
個人営業で「波及効果」を狙うには、広告宣伝費が莫大に掛かりますが、チャネル開拓なら、小資本でも「波及効果のある営業展開」は充分に実現できます。
営業活動は、「どんな時に、どんな人(会社)に、どのようなモノを、どのように語りかければ」もっとも売りやすいのか?
この創造力が、突破口を開くカギになります。
今まで通りの商品を、今まで通りの売り方では厳しくなっている時代、創造力を発揮したセールス活動が求められています。
御社は、その創造力が発揮出来る環境づくりに、心を砕いていますか?