「朝令暮改はやめてほしい、と社員から言われているのですが……そんなつもりはないのですがね。」
とある企業の社長さんと酒席をご一緒にしたとき、そうボヤいていらっしゃいました。
朝令暮改とは読んで字のごとく、朝言った事を夕方には撤回して他の指示をだすことですが、「やって良い朝令暮改」と「ただただ混乱するだけの朝令暮改」があることに気づかされました。
端的に言うと、どの市場を攻略していくのか…という大方針(戦略)については、コロコロと変えるのは危険です。
どのように攻めていくのか…という具体的な戦術なら、「あの手、この手で攻め直す」ために、意思決定を適切なタイミングで変えても構いません。
同じ朝令暮改でも、戦略レベルだと「ウチのリーダーは定まっていない…」と認識され、戦術レベルなら「諦めない人、クリエイティブな人」と受け止められる。
ここは、なんとなく頭で分かっているレベルだと、たいへんな状況に陥る可能性もあるので、【優れた意思決定とは…】という課題設定をしながら改めて認識をしておきたいところです。
そもそも、意思決定とは「今おかれた現状から何かしらの目標に向かうための最適解を求める行為」です。
その意思決定を成功裡に収めるためには、目標から逆算した際、現状をどう変えていくか…という視点でみることが大切です。
となると、この「現状の捉え方」が意思決定の質を左右することが分かります。
また「現状」だけではなく「未来」も判断材料に織り込むことも大切です。
これから始まるドラマに登場するキャストの心理状態や、ある意思決定をしたときに、環境がどう変わるのか…
その未来予測も意思決定には欠かせません。
つまり「現状」と「未来」をどう見て行くのか…が、意思決定の品質を決定する大きな要素となるのです。
どう見て行くのか…
現状を見る際に、重要なのは「時間軸」です。
現状は、刻一刻と変化をしています。
外部環境や社内の環境も…です。
どのような世界でも「静止」している状態はありません。
必ず動いています。
よく「出来るリーダーは意思決定が早い」と良います。
しかし、このフレーズだけを鵜呑みにするのは良くありません。
意思決定は、一呼吸おくことが大切です。
なぜながら、即時に意思決定をしようとすると、「変化している過程を輪切り」を見てしまいがちだからです。
現状は、「変化の過程そのもの」を捉えることが大事であり、「輪切り情報」は、ある一部分でしかありません。
その一部分だけを「現状」と認識すると、意志決定の土台が弱くなり方針がグラグラとしてしまいます。
努めて現状は「流れ」で読み込む事が大切です。
そのためにも、一日であったり、1ヶ月であったりとケースによって様々ですが、「即リアクション」をしないことがポイントです。
「判断を一旦停止」することが、本質をつかみ取る意思決定には欠かせないのです。
心理学者マズローも、「判断停止」の重要性を説いていました。
「人間が良いアイディアを出す為には“判断を停止”することが重要だ。企業の主要幹部にこれを実験してもらったが優れた結果をだすことができた」と、「完全なる経営」のなかで記しています。
判断停止は、口でいう以上に難しいものですが、意識してチャレンジすることで、意思決定の品質が間違いなく上がります。
もちろん、人間は完全なる思考停止の状態などはできません。
内臓や血管が自らの意志とは関係なく動いています。
思考も同じように勝手に動いています。
他の記憶などと照合されながら、無意識の状態でも脳みそ内を駆け巡っているはずです。
これを意識して「判断停止」をしてみるのです。
難しい課題を悶々と考えていて、もう答えがでない…と気を抜いて散歩した途端にアイディアが降って湧いてくるような感覚があります。
これも「判断停止」の効用です。
「ものの見方」や「見え方」は、意思決定をする人の知識、経験に左右されると言われますが、これは「意思決定の材料集め」を、幹部やブレーンなど集めて行えば意思決定の品質レベルを自然と引き上げる事ができます。
出来るだけ材料をあつめ、一旦判断を停止する。
これを行えば「意思決定」の品質は確実に向上します。
また「未来」をどう見るか…という時、「現象」だけを想像していると、これまた危険です。
例えば…
「いま、元気な高齢者がいるから、彼らをネットワークして販売代理店になって貰おう…」
というアイディアが出たとき、高齢者の数や販売組織のつくり方だけを「思考」したり「議論」したりするケースです。
こういった場合、多くは「絵に描いた餅」に終わることが多いのが現実です。
なぜなら、その営業戦略のドラマには、「人」が介在していないからです。
人そのものではなく、心理の方に着眼してください。
販売代理店となった高齢者がどんな思い加入したのか。
売れたときは、どんな思いになるのか。
売れなかったときは、どんな思いになるのか。
また、最終の買い手の心理はどうだろうか…。
買い手は、高齢者が売りに来て、どう思うだろうか。
などなど、そこまで思いを馳せると「あっ、この方向性はマズイかも…」と気がついたりするものなのです。
こういった「思いの集積」が、ブランド・イメージにも強く影響から本当に気をつけなくはなりません。
良い方向に転べば、企業イメージもあがりますが、逆だと大変です。
ちょっとした意思決定のつもりが、取り返しのつかないミスにもつながる恐れもあるのです。
意思決定そのものではなく、「意思決定のやり方」にも注意を向けることで、意思決定の品質があがるとしたら…気をつけない手はありません。
意識して「意思決定の品質」をあげる努力を心掛けてみませんか?