「どうしても、この商品を売りたいのです。どうすれば売れるでしょうか?」
とある経営者が集る勉強会で講師を務めさせて頂き、後日あらためて面談に伺ったときのことでした。
業種的にいって、どんなご相談がくるのだろうか…とワクワクして伺ったのですが、会議テーブルに出された新商品を見てビックリ。
想定していたモノとは全く正反対の商品だったのです。
正直言って、男性の私には全く価値が理解できない女性向け商品でした。
それに、そもそも論として私はB to Cには、手を出さない主義なので、スグに「私には不向きですね」とお伝えして帰ろうかと思ったのですが…。
どうしても…とおっしゃるので、ワンポイントアドバイスだけ申し上げることにしました。
「物語を売った方が良いですよ」と。
商品を営業・販売するときは、顧客が受け取る利益やベネフィットを正しく伝えることが大原則となります。
これはなにも、営業マンや販売員のセールストークだけの話ではありません。
商品そのもの、ネーミング、パッケージなど、全てをひっくるめた顧客接点において、商品コンセプトを正しく伝えるという広義の意味における原理原則です。
しかし、残念ながら男性脳のわたしには、商品そのものから伝わってくる商品コンセプトが理解できませんでした。
しかも、かなりハードルの高い価格設定。
1000円も出せば購入できるグラスの市場で、5万円のバカラを販売するようなイメージです。
商品コンセプトが理解できず、しかも高単価。
これに飛びつくのは、普及学でいうところのイノベーター。藤冨流に翻訳すると冒険者という人種しか購入されません。
冒険者の購買特性は、商品の目新しさや革新性を重視しますが、ベネフィットは重視しません。
従って、この冒険者には売れそうです。
ただ残念ながら、この冒険者は全体市場の2.5%しか存在しません。
あまりにも小さな市場ですし、冒険者に絞っての営業、マーケティングアプローチも困難を極めます。
それにイノベーターに購入されても、市場には広がりません。
次なる購買者であるアーリーアダプタ(藤冨流:挑戦者)の購買意欲に火をつけなくてはならないのです。
挑戦者の購買特性としては、冒険者同様、新しいものには敏感ですし、対象となる商品に関する情報収集・処理能力は長けています。
冒険者と異なるのは、社会と価値観を共有しているがゆえに、商品から得られる利益やベネフィットを重視している点です。
社会との価値観を共有した挑戦者は、その後のボリュームマーケットのオピニオンリーダー的存在です。市場に広がるキーになる人々です。
どうにかして、この層に食い込む事が大切なのです。
だからこそ、挑戦者の購買意欲に火がつくように、商品から得られる利益やベネフィットを明確に織り込んでいく必要があるのです。
冒頭のご相談を受けた商品は、商品から得られる利益もベネフィットも「なんとなくキレイだから…」といった極めて主観的なもの。
それはそれで構わないのですが、主観的なメッセージしか語れないのであれば、共感性を刺激できる何かしらのメッセージを組み込む必要性があります。
さらに、その共感性から、「自己投影できる豊かで美しい世界観」をイメージでき、その世界観に入り込む事によって「癒し」であったり、一時的な「自己逃避」であったり、一時的な「自己増大欲」を受け取ることができるのなら、十分なベネフィットになりえます。
そのための「物語」なのです。
いぜん、親友から「妻がブランドのバックを欲しがるが理解が出来ない。あんなビニール製のバックにプリントされた●●が、何万円もするなんて、バカらしいと思わないか? それだったら、上等の皮を使ってオーダーした方がよほど良いものが手に入るのに…」とぼやいていました。
実質主義になると、このような発想になります。
しかし、多くの購買行動は、実質主義ではありません。
車などは最たるもので、人々は「車を移動手段」として捉えず、何かしらの「自己投影できる世界観」をセットで車を購入しています。
・ 高級車であれば、ステイタスのある上流階層という世界観。
・ ワンボックスカーであれば、家族と開放的で楽しい休日を過ごすという世界観。
この世界観をつくり出す「物語」に共感するからこそ、独自のブランドが成り立つわけです。
そう考えると、ブランドとは「約束された世界観」だと定義されます。
女性雑誌の紙面一杯に独特の世界観を醸し出すような写真を掲載するのも、ブランド化された商品がイメージ広告を打ち続けるのも、その世界観を維持・発展させるには、欠かせないことだからです。
一見ムダに見えるイメージ広告は、世界観をつくり出す重要な発信源になっていたのです。
商品そのもの価値を消費者は購入していません。
商品そのもの価値+αで、世界観もセットで購入しています。
新商品を離陸させるときは、ここまで思いを馳せれば、ブランド化の第一歩を踏み出せるはずです。
提供する商品から得られる世界観を魅力的に演出し、熱狂的なファンがつくような仕掛けづくりをすることこそ、ブランディングの真骨頂です。
御社の新商品販売戦略において、「どのような世界観を顧客と約束するか」というブランディングの第一歩は、しっかりと刻み込まれていますでしょうか?