「新商品の売値をどうしようか…と思っているのですが、●●万円だと高いと思いますか?」
コンサルティング現場で、時々聞かれる質問ですが、私はこれほど大事な意思決定はないと思って、さまざまな角度から考察を重ねてお応えするようにしています。
教科書的に発想する方法としては…
・ コストプラス法
・ 目標利益法
などの絶対基準で価格を決定していく方法や、競合他社を意識した
・ 市場価格追随政策
・ プライスリーダー追随政策
・ 慣習価格政策
などがあります。
業界や商品によって、適切な手法を選択する必要がありますが、“営業マンが商談を通じて売買契約を結ぶような商品”の場合は、もう少し突っ込んだ「価格決定法」が重要であると私は考えています。
特別な名前があるわけではありませんが、一言で言うと「営業トークで顧客が思わず納得する価格」です。
とくに類似商品のない「イノベーションタイプの商品」であれば、競合他社を意識した相対的基準値があるわけではないですし、コストを積み上げるような絶対的基準値に基づく価格決定法は、適切ではありません。
理由は単純です。
顧客が納得できるような価格でなければ、そもそも売れないからです。
だからと言って、顧客になるであろう想定客に「適正価格」を聞いても意味がありません。
価格と言うのは、その対象物を「どう認識するか」によって変わるものなので、人それぞれの価値観に基づいた価格を好き勝手に言われるのがオチだからです。
認識によって価格は変わるのですから「伝え方次第で価格が変わる」と言う事実も忘れてはなりません。
「モノ」が、適切価格を決定するのではありません。
「認識」が、顧客自身の適正価格を決めるのです。
売れる営業マンと、売れない営業マンが存在することを想像して頂ければお分かりになると思いますが、売れる営業マンは相手の認識に着目しています。
自分の取っている態度・表情・言葉が、相手にどう認識されるのか…。
つぶさに観察しながら「買う理由付け」を相手の頭に想起させていきます。
逆に下手な営業マンは、自分が何を言ったのか? うまくプレゼンできたのか? など、着目しているのは常に自分の行動です。
相手の認識は置き去りです。だから売れないのです。
これを価格に当てはめて考えてみてください。
相手の認識を無視した価格で売れるでしょうか?
答えは明白です。
相手の認識こそが、売れるか売れないかを左右するのです。
では、自社の商品が魅力的に映り、今すぐにでも「欲しくなる認識になる瞬間」は、どのような状況なのか…。
すべては、この逆計算から、営業・マーケティングプロセスがスタートしなければなりません。
概念的に言われてみれば、それはそうなんだけど、自社商品に当てはめてみたときに、どうすれば良いのか?
と読者の皆様は疑問をもたれるかも知れないので、あるケースを元にお伝えしていきたいと思います。
私が関与させて頂いた企業さんのK社さんは、業界では物凄くイノベーティブな商品を製造している溶接機のメーカーさんです。
溶接機の業界の標準的な相場価格は、おおよそ50万円程度ですが、K社の商品は、数百万円から、1千万クラスの溶接機を取り扱っています。
常識的な「市場価格追随政策」からすると、30倍以上の非常識的な価格政策です。
それでも、同社の商品は昨対比130%増の勢いで売れに売れています。
なぜでしょうか?
溶接機なんて、単に「材料」と「材料」がくっつけば良い話ですから、30倍以上する高額商品を買う理由が見つかりません。
先週のコラム「諦めない思考回路を組織に定着させる」で、現象レベルで見てはいけない、構造的な理解が必要である…という主張の通り、商品の売買は全て構造的に理解することが大切です。
K社は、現象レベルでみれば、「材料」と「材料」をくっつけるだけの溶接機を販売しています。
しかし、構造的に見れば、ものすごい「差」を世の中に提案しているのです。
同社の商品は、溶接という熟練工頼りの生産工程を、誰がやっても美観と強度を同時に追求できるという特徴を持っています。
まったく新しい構造の溶接機を設計することで、職人芸になりやすい作業を排除したり、熟練工が、材質や板厚を目利きして、適切な溶接技術を駆使するスキルもすべてコンピュータ化にしてしまいました。
さらに、独自の電源開発により超高速電流を流せるので、材料に焼けや歪みが生じません。
オフィスにある事務机を思い出してもらうと分かりますが、焼け跡や歪みのある商品は、デザイン的にも敬遠されるはずです。
なので、電動やすり(サンダー)で仕上げて、焼け跡や凹凸を取ったりしているのです。
製造工程からすると、溶接している時間よりも、美観を整える後工程の方が、時間が掛かっているのです。
ところが、K社の溶接機で溶接した事務机は、焼け跡や歪みが極小に抑えられます。
販売先の企業によっては、後工程がゼロになる工場もあるほどです。
生産性が7割アップアップすれば、工場の潜在的な売上余力も大幅にアップします。
このような商品を販売するときに「市場相場価格」を気にする必要性があるのでしょうか?
「彼ら(競合他社)が売っているのは、溶接機」
でも
「当社が売っているのは、工場の生産工程改善システムである」
と定義した場合は、相対的市場価格である「競合商品の比較」をする必要性もないですし、コストの積み上げすらする必要がないのです。
競合他社の価格帯を参考にしたり、想定客に適正価格を聞いたら、数百万、数千円単位の値付けはできません。
利益をしっかりと取るための価格とは、顧客が享受する利益とのバランスで決定すべきなのです。
これは、売れる営業マンに「価格の説明」をさせてみれば一発でわかります。
商談相手が「なるほど、それなら買っても良いか…」と認識されるために、必ず相手が享受する“利益”を想起させているはずです。
御社の価格決定方式は、顧客が享受する利益から計算されていますでしょうか?