とことん「本質追求」コラム第133話 営業マンが能動的に動き出す目標設定の新手法

「ウチの営業マンは、どうも自分のアタマで考えて自主的に動くことが出来ない…どうしたものでしょう」

 

先週末に実施した自主開催セミナーにご参加された方からの立ち話で伺ったご質問です。

セミナー会場では、そのご質問に答えるべく皆様にもシェアするカタチでお話をしたところ、翌日メールにて「あのマズローの話は良かったです」とのコメントを頂きました。

 

そのマズローの話とは、氏の代表的著書「完全なる経営」に書かれている一文です。

 

「完全なる経営」は、経営の神様と呼ばれたP・Fドラッカーが「これは、マズローの最も重要な、不滅の作品だ。私にインパクトを与え続けてくれる知恵の泉だ。」と絶賛したほどの本で、私の人生にも大きな影響を与えてくれました。

 

「人類にとって理想的な生活形態を研究する上で、企業が新たな実験室になりうる」とし、

「人間の本性はどれほど優れた社会を築きうるのか」
「社会はどれほど人間性を高めうるのか」

という、問いに対して真摯に向き合いながら、丁重にその解に迫っている不朽の名著です。

 

フロイト以降の最大な心理学者であったマズローは、「心理療法は、個人や自己、あるいはアイデンティティ灯の発達に焦点を当てすぎる傾向にある。(中略)個々のセラピストの力ではどうすることもできないような問題でも、良き共同体、良き組織、良きチームが解決してくれる」と論を展開し、価値ある仕事が、個人の成長を促す上で、重要な役割を果たす事を見いだしたのです。

 

この本の中で、営業マンに対する考え方について熟考しなければいけない課題が書かれています。

 

それは…

 

「本当にチームらしいチームであれば、チームの利益とメンバーの利益との違いはなくなる」

「チームの利益はメンバーの利益となり、もはや区別はつかなくなる。したがって、だれが得点するかなど大した問題ではなくなる」

 

というものです。

 

営業マンの管理手法として、多くの企業は個人に売上目標を与えています。

目標を与えられた以上、個人はその達成を意識します。

もし、目標を達成できなければ、「能力がないのでは?」「真面目に仕事をしているのか?」などの疑惑を投げ掛けられる恐れがあります。

 

そうなると、その組織にいる安全性が脅かされることになるわけですが…

 

追いつめられた個人は、チームのために、会社のために、成果を上げる為に…自分のアタマで考え自主的に創造性のある仕事に取り組むでしょうか?

 

それは、個人にとって非常にリスキーなことです。

そのようなリスクを犯すより、成果が低くても、前例踏襲をして目の前にある仕事だけに没頭するのが、普通の心理なのではないでしょうか。

 

 

急成長している「あるIT企業」では「個人の目標」がありません。
3人1組のチームを作り、そのチームに売上目標が設定されています。
その営業マンによると、各個人毎に「得手・不得手」がありますから、ぜんぶ自分でやるよりもそれぞれの得意分野を活かしてチームで動く方が効率的ですし業績もよくなるのは必然ではないでしょうか。

とあっさりと言ってのけていました。

 

個人目標を排し、チーム目標を取り入れる功罪を安易に判断することは出来ません。
しかし、心理学的に見れば、チーム目標を取り入れた方が、個々のパフォーマンスは上がる可能性が期待できます。

 

と言うのも、高度成長期ように「このような活動をやれば成果が出る」と活動内容と成果の相関関係が見えやすい仕事であれば、個人がやるべき事が明確なので、個人目標は適すのですが…。

 

活動内容と成果が見えにくい時代のなかでは、どのように活動してよいのか…個々の営業マンに迷いが生じるため「思考停止」という状態に陥りやすくなります。

 

実際、私が現場に入って営業マンの方々をお話すると、多くの企業で「思考停止」になっている営業マンの方が散見されているのを見聞きしています。

 

思考停止になれば、仕事をやっているように見えても、パフォーマンスは上がっていません。受注活動に直結する適切な行動が出来ていないのですから当然です。

 

営業活動で持続的に成果をあげるためには、正しい道筋のもとでの「仮説」と「検証」と「改善活動」の連続性が必要になります。

 

これを一人の脳みそでやると「思考停止」に陥りやすくなりますが、チームで取り組めば、思考停止にはなりにくい環境が作れます。

 

それに営業活動と一緒くたに語っても「見込客集め」「商談(受注活動)」「顧客育成によるリピート促進および口コミ促進」など、能力が異なる活動が混在しています。

 

これを一人の人間に求めるのは、意外に酷なこと。

 

営業活動を機能的に分解してみても、一人で全営業プロセスを担当するのは合理的判断とは、言いがたいものがあります。

 

また、今の売上を作る「現在最適」は営業にとって重要な仕事ではあるものの、同時に、未来の売上をつくる「未来最適」も同じように重要な仕事です。

 

この多岐にわたる思考と行動に対して、目先の「売上目標」を与えてしまうと、視野狭窄になるのは、構造的に考えれば不思議なことではありません。

 

「ウチの営業マンは…」と嘆く前に、「営業活動を分解し、営業マン各個人をよく観察し、得て不得手を割り当てながらチーム編成ができないか否か…そのチームを目標達成に向けて機能的に働かせるにはどのような仕掛けが必要か…」を熟考することは、これからの企業を作る上では重要なアプローチになります。

 

2014年も残りわずか。

2015年を更なる飛躍の年にするために……自社の営業体制を今一度見直してみてはいかがでしょうか?