
「以前、藤冨さんは“営業”よりも“マーケティング”を重視すべきだと主張していましたが、最近は営業ネタが多いですね(笑)」
クライアント企業の方と楽しく一献傾けていた際、「とことん本質追求コラム」の話題になり、そんなふうに茶化されてしまいました。
確かに、マーケティングは事業活動において最重要業務の一つだと考えています。
しかし、決して営業活動を軽視しているわけではありません。
おそらくこれは藤冨の主張というよりも、世間一般の風潮として「マーケティング重視」の話題が多くなってきているため、認識に偏りが生じているのかもしれません。
そこで、本日のコラムでは「営業とマーケティングの相違点」と、それぞれが果たすべき役割について改めて整理してみたいと思います。
いま、「マーケティング」と「販売」が同義語として定着していることに、強い違和感を覚えています。
おそらく、「ウェブマーケティング」「SNSマーケティング」といった言葉が登場し、営業を介さずに“見込客発掘から販売”までのフローが完結するビジネスモデルが生まれたことが、同義語として扱われる背景になっているのでは、と推測しています。
また、中小企業においては、経営者が「売上アップ」に必要な活動をすべて“営業”あるいは“マーケティング”の一語で表現してしまうケースも少なくありません。
この結果、現場で「マーケティングを強化する」と言っても、実態は営業強化を指していたりすることもあり、混同が常態化したことも影響しているように感じます。
言葉の定義を履き違えると、組織内のコミュニケーションにズレが生じ、戦略立案や現場オペレーションに支障をきたすため、注意が必要です。
たとえば、「マーケティング強化」という号令のもとに、広告出稿やSNS運用にばかり注力し、肝心のターゲット設定や価値提案の設計がおざなりになってしまうケースがあります。
逆に「営業力の強化」と言いながら、商談スキルの向上やアプローチ件数の増加ばかりが重視され、そもそも“売りやすい仕組み”が整っていないために、現場は疲弊する -といった事態に陥るのです。
したがって、「マーケティング」と「営業」の相違点と役割を明確にし、しっかりと社内定義することが大事です。
では、「マーケティング」とは、どのような役割を担っているでしょうか?
一言で言うと「市場や顧客を理解し、売れる仕組みをつくること」に軸足を置いています。
P・F・ドラッカー氏が、「企業の目的は、顧客の創造である」「マーケティングは、顧客を創造する手段である」と難解な表現で定義しましたが、要するに「新しい価値を生み出し、新しい市場を作る活動」がマーケティングの役割なのです。
新しい価値を生み出すとは、「痛点を抱えた人々(企業)を救い出す解決策(商品や技術)」を見つけ出すこと、または「さらなる満足を提供し、顧客の期待を上回る体験を創造すること」だと言えます。
机上の空論ではなく、現場の声に耳を傾け、使い勝手、タイミング、価格、導入ハードル…そうしたあらゆる視点から「本当の価値とは何か」を掘り下げていくことでしか、新しい価値は生まれてきません。
そしてこのような新しい価値を提供できたとき、企業は単なる“モノ売り”ではなく、“選ばれる存在”へと進化していきます。
そうです。
マーケティングの狙いは「選ばれる存在」へと進化していくことなのです。
そう考えるとマーケティングはあらゆる部署に強い影響力をもたらす存在である必要があることがわかります。
近年、大企業が相次ぎ「社長直轄のマーケティング部門」を創設していることを見ても、マーケティングが企業戦略そのものを動かす中核機能として認識されてきていることがわかります。
実際に、顧客視点を起点とした商品企画、営業戦略、さらには生産やサービス提供体制にまでマーケティングの思想が浸透することで、組織全体が“選ばれる理由”を一貫して創り出す体制へと変化しつつあります。
つまり、マーケティングとは「売るための手段」ではなく、「企業の存在価値を社会に問い、顧客との接点を最適化し、組織を動かす原動力」として機能すべきものなのです。
だからこそ、マーケティングは特定の部署に閉じた業務ではなく、企画開発・製造・営業・カスタマーサポートといった全社を巻き込む“中心的役割”である必要があるのです。
では、営業部門は、どのような位置づけになるのでしょうか。
営業部門の役割は、マーケティングの全体戦略の意図を汲み取ることからスタートします。
✔️ターゲット選定された市場の「アタックリスト」をどう収集するのか?
✔️アタックリストに対して、われわれの商品はどのようなベネフィットや経済価値を提供するのか?
✔️説得手順や材料をどう作り込むか?
など、特定の顧客に対して直接的に接触し、販売を促進するための企画と実践を繰り返していく活動を担っています。
つまり、マーケティングは「全体戦略」を構築し、その全体戦略を忠実に「商品戦略」と「販売戦略」へと反映させていくので、営業部部門は、マーケティング戦略の「実行役」として位置付けられるのが理想的な姿です。
自動車の両輪で「左車輪」を営業部、「右車輪」を商品企画開発部と例えるなら、両輪をつなぐ「ドライブシャフト」がマーケティングになります。
マーケティングは、企業と市場をつなぐ“伝達軸”であり、両部門の活動がバラバラにならないよう、目的と方向性を一致させる役割を果たす必要があります。
ドライブシャフトがゆがんでいたり、回転が不安定であれば、いくら両輪が立派でも車はまっすぐに進みません。
マーケティングが機能不全に陥っている組織では、営業と開発がそれぞれ別の方向を向いてしまい、顧客にとっての“価値ある提案”がなされないのです。
マーケティングと営業は、同義語ではありません。
顧客を創造する…という目的は一緒ですが、役割が違うのです。
御社でも、マーケティングと営業のそれぞれの役割の違いを社内で浸透させてみませんか?