
「売れる営業マンをマネージャーに昇格させないとしたら、その人はずっとプレイヤーのままでいなければならないのでしょうか?」
読者の方から、先週のコラム『第663話 営業部門のプレイングマネージャー制度は百害あって一利』の内容についてご質問をいただきました。
この場を借りてご回答いたします。
前回のコラムでは、決して売れる営業マンがマネージャーに不適格…と断定しているわけではありません。
むしろ商談において相手の心理、状況を的確に掌握した上で、次なる打ち手を打つのが得意だからこそ、営業で成果を上げてきたわけです。
営業マネージャーとしての基礎的条件は満たしていることは間違いありません。
しかし、いくら商談の運び方が上手でも、部下を「遠隔操作」できなければ意味がありません。
現場に行かずとも、部下の報告を受けて、今の商談状況を言語化し、次なる打ち手を示すことができなければ、真の専業マネージャーとしての役割を遂行することはできないのです。
大事なことなので、もう一度申し上げます。
営業における専業マネージャーの主要業務は、商談の遠隔操作です。
自分がプレイヤーとして営業していた「1対1」の世界を「1対n(部下)」にして、営業成果を最大化することが営業マネージャーの役割です。
この役割を果たすためには、「成果をあげてきた営業マンであること」という基礎的条件に加えて、最低限3つの必要スキルを兼ね備えている必要があります。
営業マネージャー候補には、この3つのスキル条件を示したうえで、自身にマネージャーとしての適性があるかどうかを論理的に理解してもらう──そのプロセスを育成カリキュラムに組み込むことが重要です。
1. 寄り添い型のマネジメントスキル
営業マネージャーの最重要業務は、部下に成果を出させるマネジメントスキルです。
商談単位でサポートし『やらせる』のではなく、『寄り添う』スキルが成果をあげ続けるための必須能力です。
寄り添い型か指示型かを見極める最も的確で簡単な方法は、観察法です。
後輩や部下が、苦戦している商談を相談した際の対応を見れば一発で適性を見分けられます。
指示型の傾向が強いタイプは、「すぐに自分が前面に出て挽回する」「次からはこの通りやってと指示する」など、介入・統制を強める発言が多いのが特徴です。
一方で、寄り添い型のタイプは、「商談の状況を一緒に振り返り、苦戦の原因を一緒に探る」「次回の提案をどう組み立てるか一緒に考える」など、成長支援や伴走意識があります。
このスキルは、先天的に備えていなくても、教育訓練や継続的指導でカバーすることは可能です。
しかし、次にあげるスキルは、なかなか後天的に身につけることは難しいです。
それが、構造化スキルです。
2. 自社の営業を構造化するスキル
営業を構造化するスキルとは、見込客発掘から売上が立つプロセスの全体像を定義し、商談が次のステージに移る際の離脱要因や遷移する要因――を要素分解・分析をして、再現性のある“勝ちパターン”として組織に落とし込む力のことです。
この構造化スキルが欠如していると、営業の成果は「属人的」になりがちです。
私たちのようなコンサルタントが支援するのが、この分野になりますが、持続的な成長をするためには、このスキルを持った人材を発掘する必要があります。
なぜなら環境は常に変化するので、勝ちパターンの構成要素も変わります。
それを察知し、すぐに仕組みをアップデートすることが必要だからです。
経験上、この構造化スキルはなかなか後天的には身につけにくいものと感じています。
一方で、この資質を持っているか否かを見極める方法は難しくはありません。
・自社の営業活動の全体像を定義すること
・全体像を業務に要素分解すること
・各要素の因果関係を見極めること
これを実際に専業マネージャー候補にやってみてもらえれば、その人の構造化能力を測ることができます。
構造化スキルを持っていないと、的確な状況判断、課題設定、対策の創案ができません。つまり、商談の遠隔操作が出来ないということに繋がります。
最後は、ロジカル・フィードバック・スキルです。
3. 信頼関係を強固にするロジカル・フィードバック・スキルです。
判断基準が明確でない上司からの助言は、部下の混乱を招きます。
さらに問題なのは、感情的な上司だと思われると、部下が発言を忖度し始め、「組織にファクト(事実)」を蓄積することができません。
ファクトが蓄積されない体制は、組織としての「判断精度」を著しく低下させます。
意思決定の根拠が曖昧になり、組織のメンバーが成果を出さない言い訳を元になるからです。
結果として、対症療法的な施策が繰り返され、現場の疲弊と経営資源の浪費を招くことになります。
したがって、マネージャーは『事実』と『解釈』を混同しないスキルを身につける必要があります。
事実は、揺れ動くことのない「現実」です。
その「事実」をどう「解釈」するかが、未来の方向性を定める最初の別れ道となります。
次にその「解釈」を元に、どのような「対策」を考え、意思決定を行います。
正しい「解釈」があって、はじめて有効な「対策」が検討できるわけです。
何が起きているのか?
どう解釈できるのか?
どんなアクションが適切か?
報告を聞いただけで、営業上の課題を言語化して部下に伝え、思考の見える化をすることで、部下は上司の判断プロセスを理解・納得し、自らの思考の枠組みとして取り入れることができるようになります。
ロジカル・フィードバック・スキルを強化すると、目先の商談がまとめるだけでなく、部下の能力開発に寄与するのです。
・寄り添い型のマネジメントスキル
・自社の営業を構造化するスキル
・信頼関係を強固にするロジカル・フィードバック・スキル
この3つは、営業の専業マネージャーが身につけるべきスキルであり、必要不可欠な能力です。
大小さまざまな組織を見てきて、この3つの必須スキルが必要不可欠であることに確信を持っています。
御社は、営業マネージャーを選別および必須スキルを教育・訓練するスキームを確立していますか?