とことん「本質追求」コラム第659話 AI時代で売上を伸ばす企業の条件

「顧客視点を獲得していない企業は、AIに選ばれない企業になり、消費者の視界から消えてしまう…と書かれていましたが、イマイチ理解できません。詳しく教えてください」

クライアント企業さんとの会話で、コラムに関する質問や感想をいただくことが多いのですが、前回のコラムは「分かるようで分からない…」と感じた方が多かったようです。

また、同時に、顧客視点を獲得するための「ヒアリングテクニック」も知りたい!といったお声もいただきました。

本日のコラムでは、「なぜ、顧客視点を獲得しないとAI時代では生き残れないのか」そして「顧客視点を獲得するためには、どのように情報収集すべきか」と掘り下げてみたいと思います。

まず、AI時代の認識を共有したいと思います。

AI時代が浸透していくと、人間はますます「脳」を使わなくなっていきます。

検索エンジンが台頭する以前の社会では、人間には「記憶力」が必要とされていました。
記憶力は、過去の経験に基づいて未来の出来事を予測し、その予測に基づいて適切な対応を取るための能力なので、私たちの生存本能に深く関わっています。

ところが、インターネットの登場により、私たちは一々記憶するまでもなく、検索窓に知りたいことを入力すれば、知識を提供してくれるようになりました。

元々、私たちは外部の記憶力を頼りにして生きていたとされています。
米国ハーバード大学の社会心理学者であるダニエル・ウェグナーが提唱した「交換記憶」という概念で説明されています。

「交換記憶」とは、あの分野の新しいアイデアならAさんに聞いた方が良いよね!とか、市場分析のことならBさんに聞いた方が良いよね!など、個々の専門知識や経験を補完し合うことを意味しています。

組織内で「誰が何を知っているか」を共有することで、共同体全体の知識や問題解決能力を高めることができるため、経営学の中でもこの「組織学習」は注目されているテーマですが…

子供が無意識に「勉強のことならパパに聞こう」とか「体の不調のことならママに聞こう」などと、誰に聞いたらより効率的に情報を収集できるかーを実践しているのを見ると「交換記憶」は、幼いころから経験的に培った一つ能力なのかも知れません。

その能力が、ある意味進化して交換記憶のパートナーが、身近な人物から「インターネット」に変わったわけです。

「忙しそうだから聞きにくい」とか「そんなことくらい自分で調べなさい」と言われたりする人間よりも、遠慮することなく「交換記憶」ができる対象ができたことにより、私たちは、どんどん自らの記憶を外部化することを覚えてしまいました。


知らないことをネットで聞く。
この世界観が浸透したときに「知らないこと」と「広告」を連携させた企業が台頭し、瞬く間に世界NO1の時価総額を築くまでに成長した事実は、誰もが知っていると思います。

あのGoogleの存在です。

しかし、Googleはすべてのホームページを自社サーバーに記憶させて、その情報を紹介しているに過ぎません。

膨大な情報の中から、知りたい情報を選別し、解釈しながら情報を整理・分析して、自分の頭でまとめていく作業が必要でした。

この知的作業がいま過去の遺物になろうとしています。

生成AIが、この「情報選別→解釈→整理・分析→まとめ」までの思考プロセスを一瞬で提示してくるようになったからです。

この世界観が社会に浸透したときを、イメージしてみてください。

人々は、情報を選別したりするでしょうか?
自分なりの解釈をしたり、整理・分析したりするでしょうか?

よほどの好奇心が刺激されない限り、「まぁこんなもんでいいか」と思考停止に陥りやすくなるのは、目に見えています。

そうです。
AIから提供された情報を鵜呑みにする人たちで、溢れかえる世界が到来することになるのです。

もう一つ、ロジックを抑えておく必要があります。
それは、人々は「AIに何を聞くのか?」という視点です。

自分の知っている単語を使って、AIに聞くわけですから、売り手の「専門用語」や「特定の業界知識」を持っていない人々は、AIに対して質問する内容が限られてきます。

逆を返せば、「顧客の頭の中を理解しない売り手は、AIの検索対象外」となってしまうことを示唆しているわけです。

つまり顧客視点の獲得は、AI時代で売上を伸ばす企業の第一条件となるのです。

となると、何としてでも「顧客視点」を商品開発から営業戦略まで浸透させる必要性が生まれてきます。

この顧客視点の獲得は、言うは易し、行うは難し。
第一の壁は「顧客の本質的な課題や問題点にリーチすること」
第二の壁は「顧客視点を組織展開すること」です。

第一の壁は、顧客が自覚している課題や問題だけではなく、気づいていない課題や問題点を浮き彫りにするヒアリング能力が必須となることです。

この気づいていない課題を浮き彫りにするためには、「何か問題はありますか?」と聞くだけでは、不十分です。

お客様自身も気づいていないのですから、言語化できないためです。

課題や問題を尋ねるのではなく、お客様の置かれた「状況」の解像度を高めることに集中するのです。
そして、その状況から推測できる一般的な「課題」や「問題」を提示してみて「そうそう、我々も同じような課題があるんです。実は…と「誘い水」を使うことで本質的な課題や問題が浮き彫りになっていくのです。


この「誘い水」は知っているだけでは使うことはできません
徹底的に訓練して、ようやく習得できる能力なのです。

しかも「一般的な課題や問題」を事前にインプットしておく必要があるので、ビジネス書を乱読するなど継続的な勉強も必要です。

第二の壁は経営者の姿勢によって組織展開できるか否かが決まります。

顧客視点を組織全体に浸透させるには、単なるスローガンではなく、自ら実践する姿勢を示すことが大事だからです。

具体的な仕組みや制度の整備も必要ですが、仏作って魂が入っていなければ機能しません。

仏を作る前に、魂を磨くことが大事です。

数千億円の売り上げを誇る企業でも、成長企業の経営者の声を聞いても、みな顧客視点で物事を話しているのが分かります。

御社では「顧客の本質的な課題や問題点」を探求する姿勢は浸透していますか?