とことん「本質追求」コラム第656話 環境変化に強い社風をつくるには?


「人間理解や顧客理解こそが、営業・マーケティングにおける課題のブレイクスルー・ポイントになるって、その通りだとは思いますが、社内文化にするのは難しいですよね」

読者さんから、「第655話 潜在ニーズは”察する”ことで顕在化する」を読んだ感想をいただきました。

確かに、人間理解を前提とした合意形成なり、社内文化を醸成するのは簡単ではありません。
しかし、難しいからといって諦めてしまうのは、大きな機会損失につながります。

潜在ニーズを刺激した商品開発や既存商品の改良は、顧客満足の向上につながり、企業の成長に大きく貢献するからです。

したがって、「どのように人間理解を前提とした合意形成なり、社内文化として浸透させるか」を考えることが、より建設的なアプローチと言えるでしょう。

10年以上前になりますが、姜尚中の著書「悩む力」を読んだとき、次のような考え方に釘付けになったことがあります。

無理に解決策を求めるのではなく、「宙ぶらりんの状態」を受け入れることが大事。
と、「悩み続けること」の重要性が説かれていたのです。

同書では、近代的な合理主義の社会では、すぐに答えを求めたり、明確な解決策を見つけようとする傾向が強いことを指摘していました。

なるほど、確かにその通りです。

個人のみならず組織においての悩みや葛藤は、必ずしもすぐに解決できるものではありません。
そもそも、悩みや葛藤にすらなっていない「問題」すら孕んでいることがあります。


したがって、安易に結論を急ぐのではなく、一定の時間をかけて「悩むこと、考え続ける」ことが、より本質的な解決策を見出すための重要なプロセスとなるのではないでしょうか。

というのも、人は答えらしいものが目の前に現れると、深く考えもせずにそのまま自己に取り込んでしまうことがあります。

「分からない…」という不確実な状況に耐えられなくなるからでしょう。
正解とは言い切れない「他人が作った答えっぽい答え」に身を委ねてしまうのです。

しかし、このようなスタンスでは、深く思索することでしか得られない知恵や洞察を鍛えることはできません。

以前、大手コンサルティング会社からクライアント先に転職してきた鼻息の荒い人材がいました。
転職したばかりで早く成果をあげたかったのでしょう。
大風呂敷を広げ、1年で事業部の売上を2倍にするプランを打ち出していました。
「やってみなはれ」と傍観していましたが、1年を待たずに失脚。
その後、新天地を求めてどこかに転職したと報告を受けました。

彼の例を見るまでもなく、SWOTだとか、3Cだとか、ペルソナだとか、それっぽいフレームワークを持ち出して、ビジネスの課題に対して、それっぽい答えを出そうとする傾向が、世の中には根強くあります。

しかし、安直に答えを見出すよりも、一つの課題を数日間、時には数ヶ月かけて考え続ける「宙ぶらりんの状態」を、胆力をもって抱え続けられる人材のほうが、重宝されるようになると確信しています。

AIの進展が進めば進むほど、「安直に答えを出さない」ことによる「人間ならではの洞察力やクリエイティビティ」が養われるのではないかと考えているからです。

ところが、私たちが受けてきた学校教育では、あらかじめ決まった公式や理論を当てはめて答えを導き出すことを「良し」としてきました。

これは、ビジネスの現場でフレームワークを振りかざす人たちの姿勢にも通じるものがあります。

私たちが学校で学んだ答えを導き出す推論法の多くは、演繹法(一般論→個別)に基づいています。

例えば、「売上が伸びない」という課題を、学校的な考え方である「演繹法」で解いてみると…
「売上が伸びない → マーケティングが悪い → 広告を増やすべき」などとなりがちです。

答えっぽい答えなので、一見すると正解のようにも見えます。

しかし、顧客の顔が見えてこない解決策が、成果につながることはありません。
営業・マーケティングの世界に携わって30年以上の経験からすると、これは間違いありません。

成果につながる解決策は、企画段階から「金の匂い」がしてくるのです。
「金の匂い」というと、えげつない印象を受けるかもしれませんが、見方を変えれば「お客様の喜ぶ顔」です。

お客様が喜ぶから、売上・利益につながる。
これが「金の匂い」の本質です。

つまり、ビジネスでは、お客様の顔(個別)から解決策を見出す「帰納法」的なアプローチから、事業プランを創造していく視点も重要になるのです。

・主婦の潜在ニーズに対応したAという商品がヒットした
・サラリーマンの潜在ニーズに対応したBという商品がヒットした。
・共通点は「社会的な束縛に息苦しさを感じ、開放感を求めていた」こと
・であれば、子供も「開放感を求めているはず」

といった思考法が帰納法です。

ある現象から共通のコンテキスト(文脈)を見出し、根本的な課題を発見することがビジネスの現場ではより実践的な解決策になります。

学校教育では「答えのある問題」を解く訓練が中心でした。
一方で、ビジネスの世界では 「正解のない問題」を考え続ける力が求められます。

演繹法中心の思考に縛られると…
「新商品の売上を伸ばすには、3C分析(自社、顧客、競合)からすると…」などと正解っぽい「方向性」は見出せても、的を射るような事業プラニングができなくなることが多々あります。

ところが、帰納法のアプローチを身につけることができれば、あの事業プランニングが非常にうまく行った!それであれば、今回の事業プランニングも、前提条件さえ合わせればうまくいく可能性が高い!と的を射た解決策を導けるようになります。

今後ますます激しくなる環境変化の中で、企業が成長し続けるには、帰納法的な思考ができる人材を集め、未来を創造していくことが必要となります。

個別の事象からパターンを見出し、他の事象と照らし合わせて類似のパターンを抽出し、そこから『法則』を導き出すには、『考え続ける胆力』が必要です。
これは決して容易なことではありません。

それでも、企業がどのような状況に晒されても、そこからパターンを見出す習慣があれば、変化を正しく受け止めることができ、不測の事態にも強くなります。

御社は、帰納法的な考え方やアプローチを歓迎する社風でしょうか?
それとも理論ありきの演繹法的な考え方やアプローチを歓迎する社風でしょうか?