とことん「本質追求」コラム第646話 プロダクト思考では売れない…その真意とは

「技術と営業が融合する意味がようやく理解できました。手戻りコストが劇的に下がる素晴らしい着眼点だと思います」

先日、クライアント企業の社長さんから、プロジェクトを振り返った感想をいただきました。

本コラムでは、答えは顧客のところにしかない…とずっと言い続けていますが、初めてのプロジェクトを組む方は、真意をなかなか理解してもらえません。
外部の人間が1~2回顧客のところに訪問して、何がわかるのか?!と感じられるのでしょう。

確かに、外部の人間が数回訪れただけでは、顧客が抱える現状や複雑な問題などをすべて把握することはできません。
しかし、営業のプロとして第三者が見るからこそ、見える景色があるのも事実です。

具体例をご提示した方が分かりやすいと思うので「電気自動車」を例にしてお示ししましょう。

A社は、新しい電気自動車を開発するのに、他社製品の機能を真似て、災害などの非常時に、自宅の家電などに給電できる機能を取り入れようとしていました。

他社の機能が評価されているのだから、我々も追随すれば市場から評価されて売れるだろう!という目算です。

技術部門が額に汗して、あるべき性能を考え、製品化にようやく漕ぎ着け無事に発売開始。
営業部門も、出遅れた販売競争を取り返そうと懸命に猛勢をかけます。

しかし、思うように売れません。
競合商品とコンペになると、負けてしまうのです。

価格の問題?
いえ、競合よりも価格は安いです。

デザインが悪いの?
いえ、エースのプロダクトデザイナーを起用しているので、評判はそこそこです。

売れない理由がわかりません。
なぜ、連戦連敗しているのでしょうか?


原因は、プロダクト思考にありました。

お客様は、製品を買っているのではありません。
ベネフィットを買っているのです。

この厳格なる真実は、藤冨が20代の時にマーケティングコンサル会社のボスから教わったものです。
この名言は、営業の現場でも真実の姿を見せてくれます。

話を元に戻しましょう。

A社は、他社の成功事例を鵜呑みにし、「防災時にも役立つ電気自動車」というコンセプトをそのまま自社に持ち込もうとしました。ところが、販売現場を観察してみるとその機能説明の際に何やら考え込んでいるようです。
営業は、自分の説明が悪いのかと思い、性能説明を懸命に試みます。

ところが、商談相手の顔は晴れるどころか、ますます考え込んでいるようです。
そのまま商談は盛り上がらずに「The END」

実は、この「非常時に給電できる機能」そのものが顧客ニーズと微妙にずれていたのです。

A社は、先行する競合他社が「なぜ『防災時にも役立つ給電機能』を開発したのか」を深掘りせず、とりあえず機能を装備しておけば良いのでは…と軽く受け取ってしまっていたのです。

技術部門に習うように、営業部門も「防災時にも役立つ給電機能」は付属品だと感じていました。
だから、営業トークも機能・性能説明に終始し、お客様の真のニーズに気づかずにいたのです。

技術部門も営業部門も、経営陣も顧客と向き合っていなかった。
これが根源的な原因です。

では、真の顧客ニーズとはなんでしょうか?
A社がコンペに負けている理由はなんでしょうか?

先行する競合他社の顧客サポートページを見れば、その答えが一目瞭然だったのです。

競合は、災害時に最大5日間は給電が可能であること。
エアコンなら、何時間。
携帯の充電は、何回。
パソコンなら、連続何時間…。

などと、生活者の視点に立った「生活品質の保証」を打ち出していたのです。

プロダクト品質ではなく、生活品質を打ち出していたのです。

つまり、競合の商品が評価されていたのは、その給電機能自体というより、商品全体で提供する「生活安心パッケージ」の一部として、災害対応性能が組み込まれていたからでした

顧客は「給電機能があります」と言われても、「そうなんだ…」としか反応できません。
しかし「これまでの大震災では平均1週間で停電が復旧しています。この車種の給電機能は、エアコンを25°に設定すれば、冷蔵庫、お風呂、携帯の充電、テレビはすべて賄うことができます」と言われれば、シーン(場面)と生活イメージが目に浮かぶので、受け取るベネフィットが理解できます。
「なるほど、それはいいね」という反応を取ることができるわけです。

A社は「競合が評価された機能を搭載すれば売れる」と思い込んでいました。
なので、給電性能を問われると、1日しか持たない有様。

競合と真っ向勝負するには、振り出しに戻って製品開発をやり直さなくなりました

ここに、先ほどの「技術と営業が融合する意味」が明確に表れます。

営業トークから逆算したものづくりが出来ていれば、最初から顧客が求める機能開発に着手することができていたからです。
つまり「手戻りコストの削減」にも繋がるわけです。

売れる切り口は、顧客との対話・観察を通じてしか得られません。
顧客と対話し、観察して、初めて「売れる要素」が浮き彫りになるのです。

これは、価値を創造する上で避けては通れない道となります。

多くの企業ではデザインレビュー(DR)を通じて、品質価値の評価は行なっています。
しかし、上記のA社は、DR0(ゼロ)地点の「顧客価値(=ベネフィット)」を詰めきれていなかったのです。

顧客品質が最適化されていないのに、いくら品質価値を高めても売上にはつながりません。

同じ機能でも、顧客品質から見ると、微差は大差になることが多々あります。

上記の電気自動車の事例は架空の話ですが、実際、同じような概念の事例があらゆる業界で転がっています。

BtoCに限らず、BtoBでも、多数発生しています。

御社は、品質価値のみならず、顧客価値を突き詰める社内文化が醸成されていますでしょうか?