「視聴者がポカンと口を開けていましたよ」
先週、日刊工業新聞社の主催で開催されたオンラインセミナーの終了後、事務局の責任者が参加者の様子を伝えてくれました。
セミナー終了後のアンケートでは、「とても勉強になった」「新たな視点が得られた」という声が多く寄せられましたが、消化しきれないまま終わってしまうのは非常にもったいないことです。
本コラムを通じて振り返りをしていただければと思います。
毎週コラムをお読みいただいている皆様にも有益な情報になるよう整理してお伝えしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
今回のセミナーでは、参加者が抱える仕事の課題をその場で解決する「公開コンサルティング」を試みました。
準備された話ではなく、現在の課題や悩みに対応し、リアルタイムで課題解決を図ることで、参加者に納得感を持ってもらいたかったのです。
提供された議題は、参加者が抱えている課題ではなく、実現できれば面白そうなテーマとして投げかけられました。
具体的には、空気圧技術を使ってロボットや医療機器の部品を製造しているメーカーが、同技術を応用してコーヒーマシンを開発できないか、という仮定での課題でした。
面白い!
空気圧がコーヒーマシンでどのような機能を提供すれば顧客価値が生まれるのか?この場(セミナー)で挑戦してみよう、という展開になりました。
この際に使用したノウハウは、藤冨が修行した(株)日本オリエンテーションの商品コンセプト開発のフレームワークです。
商品コンセプト開発については本コラムでも何度か取り上げていますが、初めての方もいらっしゃるので改めてご紹介します。
商品コンセプトは、次の4つの要素から価値を深掘りしていきます。
- ターゲット
- ベネフィット
- 場面
- 競合商品(または代替案)
誰にとって、どんな場面で、どのようなベネフィットを提供できる商品なのか。
また、それが競合商品よりも優れているのか。
こうしたシンプルな問いを突き詰めることで、魅力的な訴求力を生み出すメソッドです。
誰でも簡単に使えそうに見えますが、本当に売れる訴求力を作り出すのは簡単ではありません。
実際、セミナーではこのフレームワークを使い、皆さんに「空気圧を使ったコーヒーマシン」の商品コンセプトを考案してもらいました。
ターゲットは「コーヒー好きの30〜40代」、
ベネフィットは「適切な圧力を用いた抽出による香り豊かなコーヒー」
場面は、毎朝の朝食時…
など、「味」をメインにしたベネフィットが次々に出されました。
では、4つ目の要素を考えてみましょう。
競合他社のコーヒーマシンより、味の良いコーヒを抽出できるのか?
賢明な読者の方はお気づきかもしれませんが、このコンセプトでは強力な訴求力は生まれません。
「美味しいコーヒーが入れられるマシン」という訴求はありふれていて、ターゲットの関心を引きづらいからです。
そもそも「美味しい・まずい」というベネフィットは人によって異なります。
苦いコーヒーが好きな人もいれば、甘みや酸味のあるコーヒーが好きな人もいるため、「コーヒー好きの30〜40代」というターゲット設定も曖昧になってしまいます。
「味はベネフィットにはなりません」
この藤冨の発言に、参加者は驚いて「口をポカン」と開けていたようです。
ダメ出しで終わると「理解化」に繋がらないので、一例として「アウトプット」を示しました。
ターゲットにとって痛点の強いベネフィットほど、訴求力は高まります。
不快、不満、不便といった「不」の要素となる痛点は、消費者が早急に解決したいと感じるポイントです。
こうした「隠れた痛点」に対応した商品は、潜在ニーズに応える高付加価値商品となります。
コーヒーマシンの利用者にどんな痛点があるのか?
この問いから始めるのが、ポイントです。
ちなみに藤冨は、ツインバードというコーヒーマシンを毎朝愛用しています。
このマシンは、コーヒー豆を投入すると燕三条製の鋭利な刃で粉末にしてくれるため、挽きたての香りが部屋に広がるのが特徴ですが、掃除が面倒という難点があります。
掃除レスのコーヒーマシン。
これは藤冨にとって価値ある商品です。
しかし、このコンセプトだけでは市場がニッチすぎます。
ターゲットを広げるため、最もマシンを頻繁に使用するのは誰かと考えると、コンビニやファミレスの業務用が想定されます。
掃除レス機能は人手不足の現場にとって、作業負担を減らす強力なベネフィットとなり得るからです。
「空気圧を使った自動洗浄機能付きの業務用コーヒーマシン」
このコンセプトなら、ターゲットの課題解決に応えられ、強い訴求力があると感じられます。
あとはこのコンセプトに基づく商品が本当に開発できるか、またコンビニが投資検討に値するかどうか、確認するだけです。
現在、工業界では「スペック訴求」や「性能訴求」だけでは売れなくなったと言われています。
その対策は「ベネフィット訴求」しかありません。
どのようなベネフィットを誰に伝えれば「欲しい・買いたい!」と支持を得られるのか。
コンセプト開発力こそが成長のカギになります。
いま社会的に労働時間の削減が求められる中で、「この商品を使えばこれだけのメリットがあります」と単刀直入に伝えられない商品は検討のテーブルにも上がりません。
ベネフィット訴求力の強化は急務の課題になっています。
御社は、訴求力の強いアプローチの開発に注力していますか?