とことん「本質追求」コラム第632話 自社基準を設けると業績に直結する!

「営業の仕事を定義して、適材適所を割り当てる…非常に興味深い内容でした。もう少し詳細に教えてください」

先週のコラム「第631話 社員が育つ制度設計の5つのポイントとは」を読んだ読者さんから、質問メールが届きました。
さらに、「成功事例を教えてください」と書いてありましたので、おそらく自社での実践を検討しての質問だとお見受けしました。

しかし、今回は「これが正解です」とお答えできるような内容ではありません。
一般的かつ抽象的な答えを示しても、結果として失敗する可能性が高いからです。

なぜ、失敗につながるのでしょうか?
答えはシンプルです。
前提条件が異なれば、仕事の定義も異なるからです。


ご質問の内容とは少し異なりますが、一般論をそのまま自社に当てはめることができないという一例を示したいと思います。

たとえば、多角経営を行っている企業が「業績を向上させたい!」と漠然とした相談をしてきたとしましょう。

現場経験がない机上のコンサルタントであれば、すぐに一般論(フレームワーク)を持ち出して相談に応じようとするかもしれません。

多角経営の中で最も力を入れるべき事業を見つけるために、「プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)」というフレームワークが適切だと考え、企業に提案します。

「市場成長性」と「市場占有率」の2軸で事業を4つの象限に分類し、既存の事業をプロットしてみましょう。これは世界的なコンサルティングファームであるボストン・コンサルティングが提唱した、経営資源の配分を判断するためのフレームワークです。

この方法では、成長率が高く市場シェアも高い「花形」には経営資源を継続して投入することが定石とされます。
また、成長率が高く市場シェアが低い「問題児」にも注力することが推奨されます。
実際に、多くの大手企業がこのPPMを用いて経営資源を配分しています。

企業側も「大手が採用しているなら間違いないだろう」と考え、このアプローチを実行しますが、成果にはつながりません。

それどころか、粗利益率の減少が続き、賞与を減額せざる得なくなったために、社員の士気が低下し、赤字すれすれまで経営が悪化してしまいました。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
(一般的に)正しいとされる戦略を採用したはずなのに、なぜ成果が出ないのでしょう?

藤冨は、これまでに、こうした一般論をそのまま採用して失敗した企業を何度もサポートしてきました。

「なぜ成功しないのか?」と考えたとき、その原因は、成功事例のある一般論をそのまま取り組んでしまったことにあるケースが、ほぼ100%だったのです。

そもそも、ある成功事例とは、特定の条件下でのみ成立したものです
つまり、ある前提条件においてのみ成果が上がる方法と捉えることができるのです。

上述のPPMの失敗例も、現場経験の浅いコンサルタントが前提条件を誤解したまま企業に提案したことが、失敗の原因となっています。

PPMは、大企業のように潤沢な資金と優秀な人材を持つことを前提に、経営資源を配分するアプローチです。
資金も人材も限られている企業では、このフレームワークをそのまま適用することは難しいのです。


そこで、工夫が必要になります。

PPMでは、縦軸に「市場成長率」を取っています。市場が成長するということは、競争が激化することを意味します。

競争が激化する市場で勝ち抜くためには、積極的に事業に取り組む必要があります。資金力による人材配置や広告投資など、競争に勝つためのリソースが必要です。

この前提を考慮すると、リソースが限られている中小企業では、「市場占有率」ではなく、別の軸を取ることで、成功の道が見えてくるかもしれません。

たとえば、「部門別の売上高総利益率」を軸として事業の選択と集中を図るパターンを見てみましょう。

部門別の売上高総利益率が高いことは、競争環境が比較的穏やかであることを示唆しています。
競争が少ないため、粗利益(=売上総利益)が確保できているのです。

この分野にリソースを集中させれば、会社全体の収益力は容易に向上していきます。

競争が少なく粗利が高い分野は、PPMで評価すると市場成長率が低く、シェアが高い可能性があり、「金のなる木」としてポジショニングされる可能性があります。

「金のなる木」は競争環境が緩やかなので、経営資源を多く投入せずに済みます。そのため、成長性の高い「花形」や「問題児」に投資するのが一般的です。

このように、評価軸を変えると、真逆の意思決定に至ることが分かるでしょう。

利益を出している事業をさらに強化して利益を稼ぐのか、それとも競争の激しい市場にリソースを投入し、利益が出ている事業の手綱を緩めるのか。
内部リソースや環境を振り返ることで、最適な答えが導き出せるはずです。

このように、成功事例があっても前提条件が異なれば、取るべきアプローチも変わってきます。

最後に、冒頭の質問に対する回答として、営業の仕事の定義について簡単に触れておきます。

営業の仕事の定義も、前提条件が変われば、大きく内容が変わることがあります。

主な前提条件は、市場の質と商談のきっかけ作りの責任範囲などです。
市場の質は、B to Bビジネスであれば、市場の構造や地理的な分布によっても変わってきます。

業界最大手のシェアが15%で、裾野企業が1万社いるような業界では、広告やウェブ戦略などの「飛び道具」を用いた営業が成果を上げるキーファクターとなります。

一方、業界最大手のシェアが50%を超え、裾野企業が全国で30社しかない業界では、諦めずに提案を続ける粘り強い営業が成果を上げるキーファクターとなります。

同じ営業でも、適材適所の役割が全く異なるのです。

自社にとって、成果を上げるための営業はどのような仕事をすべきか…この内省的な考察が、組織を牽引し、成果へと導く出発点となります。

御社では、成果を上げる営業の仕事をどのように分解していますか?