とことん「本質追求」コラム第631話 社員が育つ制度設計の5つポイントとは

「今週のコラムはすごく面白かったです。『ビジョン×教育×訓練=成長』という公式は、まさにその通りだと痛感しました」

コラムを読んだ読者さんから嬉しい感想をいただきました。

20年前、藤冨が起業したばかりの頃、ある大企業に「机」を間借りしていた時期がありました。その時見た光景を、昨日のことのように覚えています。

その恐ろしい光景とは…

「12時ぴったりになったら、ほぼ全員のパソコンが『ゲーム』に切り替わったのです(驚)」

少なくとも100名は収容できるフロアで、スクール形式で社員が座っていました。
一番後ろの席をお借りしていたので、前にいる方の全ての画面が見えたのですが、視認できるほぼ全ての画面がゲームに切り替わったのです。

あまりにも驚いたので、昼食時にお世話になっていた役員に「その異常な光景」について尋ねました。

すると、さらに驚くべき事実を教えてくれたのです。

「藤冨さん、ウチの会社の戦力なんて1割程度ですよ」と。

同社では、社員教育を施し、芽が出た人間だけを引き上げ、さらに手を掛け、幹部へと育成していくそうです。言葉にはしませんが、9割の社員は、必要悪と捉えているようでした。

ビジョン×教育×訓練=成長という公式は、同社にとっては不要です。
紙に書かれた経営理念を読んでビジョンを抱けない人は無能だと、会社は冷淡に評価をしています。
訓練も、ビジョンを抱き、自助努力ができない人間には、受けさせません。

すべての大企業が同じとは言いませんが、知人友人で大企業に勤めた経験のある人や役員から聞く限り、似通ったような制度設計がされていると感じます。

一人でも多くの社員を大切に育て上げようとする中小企業とは、すこし温度感が違うように感じます。
そういった意味では、先週のコラムは「血の通った組織運営を目指す中小企業」にのみ通じる内容だと言えるかもしれません。

そして、今日の「社員の改革意識が芽生える制度設計」も同じです。
人材の宝庫で、優秀な人材だけを摘み上げる組織の方は、今回のコラムを読むだけ無駄です。
限られた社員で、一人でも多くの社員に才能を発揮してほしい!と願う会社にのみ、有効な内容となっています。予めご理解の上、読み進めていただければと思います。

これまでの常識とは相違点が多いかもしれませんが、エビデンスのある行動遺伝学や心理学の知見を織り込んでいますので、ぜひご参考ください。

制度設計のポイントは5つあります。

1つ目は、職務内容を明確かつ具体的に定義すること。
2つ目は、職務を適切にこなす上での適材を定義すること。
3つ目は、サポート体制を整えること。
4つ目は、目標数値を設定すること。
最後の5つ目は、監査体制を整えることです

上記の5つの要所は、教育・訓練を染み込ませ、業績向上に繋げていくための前提となる要素です。

まず1つ目の、職務内容を明確かつ具体的に定義することについて説明します。
流通業向けの「人時生産性を引き上げる専門家」で、元西友の社長室長を経験した友人が、日本企業と米国企業の決定的な差を論じているのが、とても参考になります。

米国企業は、仕事に人を割り当てる。
日本企業は、人に仕事を割り当てる。

西友再建をウォールマートの傘下で陣頭指揮をとった経験から、生産性向上の核心をつく指導をしている方です。この会話を聞いたとき、まさに!と膝を打ちました。

営業の仕事なのか、マーケティングの仕事なのか、境界線がはっきりしない仕事の定義では、適材適所に割り当てることはできません。
成果は何か。
成果に導くためのプロセスは何か?
どこまでが責任の範囲なのか。
明確かつ具体的に定義することが、制度設計の出発点となります。

2つ目は、適材の定義と配置です。
最新の行動遺伝学では、人の才能は遺伝によって決まっていると言われています。
つまり、環境や教育の限界がエビデンスによって明らかにされつつあるのです。
しかも、若いうちは学校教育等で開花したと思われる能力も、年齢とともに衰え、元の遺伝子レベルまで戻っていくという結果も出ています。

これは「適材適所」を見出すことの重要性を示唆しています。
仕事を明確に定義し、それを才能によって遂行できる人を割り当てることが「適材適所」です。
MBTIやOceanなどの性格分析による「才能の定義」が有効です。

3つ目は、サポート体制の整備です。
才能も、適切な努力がなければ開花しません。
日々直面する課題をいかに解決していくか、実施と検証を行った後の的確なフィードバックがなければ、適切な努力をすることは不可能です。
そして、的確なフィードバックと努力によって得られた成果を経験として、彼らの能力は向上し、才能が強化されていきます。
キーエンス社の商談単位での的確な営業マネジメントは、このサポート体制に当てはまります。

4つ目の数値目標は、あえて言うまでもありません。
客観的かつ明確な目標は、努力のやりがいになります。
やりがいではなく苦痛になってしまうのは、適材適所が行われていないからです。
KPIを設定するなら、「こうすれば受注が取れる!」という自社独自の行動指針を見定める必要があります。
他社の成功事例を見ると、思考が引っ張られるので、自社の成果から逆算したKPIの設定が必要です。

5つ目の監査体制は、1から4の制度がしっかりと機能しているか否かの評価と捉えてください。
継続的な運用の中で、制度の課題をあぶり出し、解決していくことも監査体制の職務範囲です。
事業は時代とともに前提条件が変わっていきますので、初期の制度設計の継続的な見直しが必須です。
以前は、テレアポや飛び込みが営業の職務として重要であった時代には、体育会系的な人材が活躍できる職務がありました。
しかし、ネットによる商談獲得が主流の時代では、言語化能力や企画力のある人材が活躍できる職場が主流になります。
前提が変われば、制度設計のあり方も変わるのです。

以上の5つが「教育訓練」を染み込ませるために必要な「制度設計」です。

御社は、職務内容を明確かつ具体的に定義できていますか?
そして、その職務に適した才能を持った人材を適材に配置できていますか? 明確な指針をお持ちでしょうか?