とことん「本質追求」コラム第629話 売上総利益率を引き上げるマネジメント

「賃上げを単独で考えず、売上総利益を引き上げる議論をすべき…という視点は、まさにその通りだと思いました。当社でも早速取り組みたいと思いますが…具体的にどのような議題をあげるべきでしょうか?」

先週のコラムを読んだ読者さんからの質問です。
早速、いつものようにご回答したいと思います。

売上総利益(粗利益)を増額させていく取り組みをどのようにして社内で議論すべきか…

答えは、2つの視点から煮詰めていく必要があります。
一つは、高付加価値の”ものづくり”をいかに実現するか。
二つ目は、付加価値を顧客に理解してもらう営業をどう遂行していくか…というマネジメント体制に

ついて議論する必要があります。

インターネットが社会浸透する前は、多少商品に魅力がなくとも、営業マンは口八丁手八丁(くちはっちょうてはっちょう)で売ることができました。
しかし、買い手があらゆる情報にすぐにリーチできる時代は、そうそう簡単には売れません。
商品力に営業力が備わっていなければ、買い手は営業の話すら聞いてくれないからです。

では、どうやって商品に営業力を内包させるのか?
それが一つ目の「高付加価値のものづくり」というテーマです。

高付加価値とは、読んで字のごとく、顧客にとっての価値を高めることを意味します。
・顧客が受け取る価値は何か
・どのような痛点を解消するのか
・代替案と比較して優位性を高められるか
・どの程度の経済的価値に置き換えられるか
・技術的な独創性を織り込めるか
などなど、議論を深めるためには、探究心と忍耐力が求められますが、チームで議論すべき価値は十二分にあります。

顧客から商品や技術、サービスを見つめ直す組織的な習慣こそ、付加価値の源泉に繋がるからです。

個人的な思考の偏りを排除し、思いつきレベルから脱皮するための仕組みは、組織だからこそ出来る生産的な営みです。
企画、製造、販促、営業が部門の壁を取り払い、全員が同じ目線で顧客と向き合うことは、超競争化社会では、たいへん意義深い取り組みとなります。

この組織的に生み出した価値を、的確に顧客に伝え、納得してもらうのが、2つ目のテーマ。
付加価値を顧客に理解してもらう営業をどう遂行していくか…というマネジメント体制になります。

特に製造業の営業マンに多く見られる傾向として「モノを売ろう」という姿勢が目につきます。
商品の特徴や性能を説明して、相手が興味を持ってくれると、商談相手の心の動きに注意を向けず、得意げになってさらに商品の説明を繰り返す。
相手が興味をもってくれると、確かに「受注」に繋がることもあります。
しかし、相手が興味を持たなければ、商談は盛り下がり失注になってしまいます。

こうした営業現場を見るたびに残念でしかたありません。
営業報告書を見ても、表面的な事実しか記載されておらず、それを見たマネージャーも深掘りしません。

半か丁か…
まるでサイコロ賭博のようなセールスとマネジメント体制です。

セールスは、五分五分の確率で結果がでるような単純なゲームではありません。
一手、一手購入確率を高めていく詰将棋でなければならないのです。

詰将棋をする上では、営業マンは、商品を紹介するのが仕事ではなく、お客様がその商品を使ってどのように生活が変わるのか?に焦点を合わせる必要があります。
BtoBなら、どのように仕事が変わるのか?という視点です。


「変わる」こと、そのこと自体が「付加価値」なのです。
この付加価値をお客様と共有していくプロセスが商談だと捉えてください。

そのためには、まずお客様の現状を正しく掌握することです。
・どんな痛点があるのか
・どんな損害が発生したことがあるのか
・どんな創意工夫をしているのか
・その創意工夫には、どの程度のリソースが割かれているのか

あらゆる角度から「現状を正しく知ること」が大事なのです。
できるだけ多く、できるだけ深く知る努力をすることが重要です。


その現状を我々の商品、技術、サービスを使用したら、どのようなメリットや経済的価値を生み出せるのか…
これが提案のポイントになるのです。

一つの商品、技術、サービスを導入することで、様々な問題解決や変化を起こすことができたら、それが「価値の総体」になります。

価格が高くても、この「価値の総体」をお客様が理解していれば、購入に結びついていきます。

コストの積み上げの価格設定ではなく、価値の積み上げの価格設定ができ、お客様がそれに納得してくれれば、結果「売上総利益額」は増加していきます。

言うなれば、粗利益を引き上げる経営とは、お客様の価値と真摯に向き合う経営なのです

この粗利を引き上げる経営が実施できている否かは、マネジメント体制をみれば、それが一発でわかります。

整理してみましょう。

商品の価値は、お客様の現状とあるべき姿の差を埋めるところにあります。

高付加価値のものづくり体制ができていれば、どのような「差」を埋めるために作られた商品、技術、サービスであるかは理解しているはずですよね。

となると、営業のマネジメント体制は、どこまでお客様の現状を引き出すことができたのか?
差を埋める提案ができているのか?
お客様は実情を理解しているのか?

商談単位で、これらの問いに答えるマネジメントができれば、上司は「次の一手の打ち方」も的確に助言できるはずです。

商談は詰将棋なのです。

詰将棋ができるようなマネジメント体制の確立は、組織に対して貴重なフィードバックをもたらします。
・我々は、本当に価値を作り出せているのか
・我々は、価値を伝えきれているだろうか

サイコロ賭博のような偶然性に身を任せていては、手に入らないような重要な「問い」を組織で共有できるようになるのです。

結果、企画や製造が価値を生み出し、営業が価値を伝えることで、高い売上総利益につながっていくわけなのです。

御社では、価値あるものづくり、お客様と価値を共有するセールス、そしてそのマネジメント体制を確立させていらっしゃいますでしょうか?