とことん「本質追求」コラム第621話 モノマネ思考に未来はない?!

「年前にX社(大手コンサルティングファーム)の指導を受けて改革を進めたのですが…最初の一年目は売上が上がったものの、そのあとは体たらく。今は社員の士気まで下がってしまい、何とかしなければならない状況です」

昨年よりプロジェクトに取り組んだクライアント企業の社長さんが、当社の門を叩かれた時におっしゃった言葉です。

X社は、他社の表面的な成功事例をそのままフォーマット化して、ビジネスモデルを横展開させることで有名なコンサルティング会社です。
創業者は、実力も心もある方だったので、生きていたら自ら育てた会社の姿を見て嘆いているかもしれません。

モノマネ思考の是非は、賛否両論あります。
しかし、これからの時代の事業経営者として中心軸に添えなければならないことがあります。

経営の第一義は、「顧客の満足を追求すること」です。

モノマネ思考も建前上、顧客満足を追求するためにやっていると彼らは言うかもしれません。
しかし、モノマネ思考の本質的な目的は「お金」です。
手っ取り早く売上が欲しいから、パクリビジネスに手を出すわけです

ビジネスを離陸させるには、膨大なエネルギーが必要です。
飛行機も離陸の際に巡航時の2倍以上の燃焼を消費すると言われています。
成功するか否か、手探り状態の中で、アクセルを思いっきり踏み込み、突破口を切り開いていくわけですから、並大抵の精神状態では出来ません。
手っ取り早く、突破口を開け、ビジネスを起動にのせたい…という気持ちは痛いほどわかります。

しかし、モノマネ思考で一時的に成功しても、それが持続的な成功をもたらすとは限りません。
多くのケースでは、持続的な成功どころか、衰退の一途を辿ることが多いのではないでしょうか。

なぜ、モノマネ思考でビジネスに取り組むと持続的成長をもたらさないのでしょうか。

答えは、とてもシンプルです。
売上を上げることに焦点が当たっているからです。

目的地を定めずに離陸すれば、右往左往するのは、よくよく考えれば当然の結果です。

ビジネスの目的は、顧客満足に焦点を当てる必要があります。

当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、顧客と真摯に向き合っている企業は意外にも少数派です。

顧客は、置かれた環境によって、満足の質も量も変化していきます。
絶え間なく変化しているのです。

この絶え間なく変化している環境をつぶさに観察し、顧客のニーズがどう変化するのかを推測し、我々は何をなすべきか…と、組織一丸となって努力をすることは、決して簡単なことではありません。

過去の成功体験に溺れると事業が衰退していく本質的な原因は、変化した市場ニーズに適応できなくなったからに他なりません。

モノマネ思考は、顧客を観察することなく、他社の模倣に焦点を当てているので、顧客の本質的な理解を無意識に軽視してしまっているのです。

モノマネ思考で、どれだけ初期に成功を収めても、長期的な信頼と継続的な成長を得ることが難しい根本的な理由は、ここにあります。

では、どうすれば持続可能な成長を実現できるのでしょうか。

その答えは、明白です。

絶え間なく変化する市場を深く洞察し、いま何が起きているのか。
何が問題になりそうか。
我々はその問題をより良く解決できる提案をできるだろうか。
と、潜在ニーズに着眼し、そこから自社の存在価値を見出すカルチャーを作ることで、顧客の創造が実現されます。

ワコール、味の素、サントリーなど、マーケティングに長けている企業は、ここ最近、新たな組織編成に着手し始めたことが、新聞報道されています。
営業、開発、製造部門の壁を取り払い、チーム一丸となって、潜在ニーズを発掘し、自社商品とのフィティングに力を注いでいます。
しかも、その部門横断チームが社長直轄の部隊として編成され、意思決定スピードと精度をあげているのが、各社の共通点です。

新たな市場の課題を発掘し、我々がそれを全力で解決するぞ!
と、本気のリーダーシップが発揮されれば、社員も自然と鼓舞され、モチベーションは上がっていくものです。

もちろん、すぐに社員の意識が変わるわけではありません。
市場、顧客の満足を徹底的に追求するリーダーシップを見て「経営陣は本気だ」と悟ったときに、社員の心の炎に火が灯り始めるのです。

先日、日経新聞に「新社会人、高給よりも残業なし、64%」と言う記事がありました。
表面的に見ると、さとり世代は物欲も豊かさも求めない…と捉えがちですが、それは彼らの真の姿ではありません。
そもそも新社会人は、失われた30年の渦中に生まれたので、豊かさを享受し、楽しそうにしている大人を見て育っていません。

彼らは経済的豊かさを追い求め行き詰まっている大人たちをみて、新しい豊かさを見出そうとしているのです。
若者たちの方が、環境問題やLGBTなど、多様性や包摂性に豊かさを見出しているのは、こうした背景が横たわっているのです。

マーケティング用語は、もともとは戦争技術から進化してきたので、未だに顧客や市場をターゲットと呼んでいます。
きっと、新社会人には、とても違和感のある単語に聞こえるのかも知れません。
顧客って、仲間でしょ?何故、戦闘用語の単語を使っているの?」と。

売上至上主義の経営姿勢・リーダーシップでは、これからの時代に適合できません。

新たな市場の課題を発掘し、我々がそれを全力で解決するぞ!
という使命感に、社員が誇りを持ち、自律的に行動できるような企業文化を築くことができれば、彼らも彼らの志向する豊かさに努力を費やすことができるでしょう。

誇りは、社員の努力を引き出す原動力になります。

御社は、社員や顧客を包摂的に豊かにするリーダーシップを常日頃から意識していますでしょうか?