『今日の講演でお話しされたギガキャストは、社会に多大な影響を与えそうですね』
先週、講演のご指名頂き、1時間ばかり工業会に向けた成長のヒントをお話ししてきました。
日本は、世界に誇るものづくり大国です。
今、AIという最新テクノロジーが世間の注目を浴びていますが、これからはAI+モノの開発が進み、世の中を賑わさせることになるでしょう。
その最たる例は、テスラなどが手掛ける「自動運転自動車」です。
これからの未来は、あらゆる分野で「AI+モノ」が新規開発されていくのは間違いありません。
Apple Watchと連動して、気分や体調に合わせて音楽をかけてくれるスピーカー。
土中の水分量を計測し、植物や、野菜に合わせて適量の水を撒く自動給水機。
などなど、人が観察、判断してきたことの大半のことは、AI+モノに置き換わっていきます。
日本の製造業がここに着目し『我々の技術をもって、社会にどうインパクトのある商品が提供できるのか…』と、積極的な姿勢で行動するすれは、日本企業の未来は明るいものになります!
反面、消去的な姿勢で向き合えば、会社の存続さえ危ぶまれる危機に直面する可能性もあります。
ここで、冒頭の話に戻しながら、その理由をお伝えしようと思います。
今、トヨタ自動車が2026年に向けてギガキャストという生産技術革命を起こそうとしています。
この動きは、テスラの革新的な生産システムに追随する形で、推進されているものです。
自動車産業は、一つの製品を作るのにたくさんの素材や部品を使います。
ガラス、シート、ゴム、電子部品、そして組み立て時には、ネジや溶接機など、様々な専門企業が関与しています。
自動車産業は、経済波及効果が高い裾野産業の代表格です。
この裾野産業の構造をぶち壊そうとしているのが、冒頭のギガキャストという生産革命なのです。
これまで、86個の部品を使い、33工程の組み立て作業を経て、ある車の部分を作っていました。
ギガキャストは、これを1部品、1工程で仕上げてしまう技術なのです。
単純にいうと、これまで対象の部品を作っていた企業、そこに材料を提供したいた素材メーカーも含めて『これまで有り難う。もう御社の仕事は無くなったからね』と言われてしまうわけです。
裾野産業の崩壊です。
組み立ての際に必要だった溶接機もいらないし、ネジも不要になります。
この危機的な変化を、どう受け止めて、本質を見極め、いかに適応していくのか…
まさに運命の分かれ道となります。
これは、自動車業界に限ったことではありません。
このギガキャストを可能にした技術※は、広く他業界に活用されている以上、あらゆる産業に牙を向いてくるのは、間違いありません。
※CAD•CAM技術、3Dプリンター、精密金型や精密鋳造技術など。
講演会終了後の懇親会で、この事実を重く受け止めたている製鉄メーカーの重鎮は嘆いていました。
ギガキャストは、アルミを使うために、鉄は使われなくなるそうです。
まさに危機的状況です。
重鎮も社内にこの危機感を伝えたそうです。
しかし現場の意見は、『アルミは衝撃を受けると切れて危ない。使われませんよ』と、変化を受け入れようとしないそうです。
ところが自動運転が主流になると、事故発生率が激減すると言われています。
事故がなくなれば、衝撃時の懸念なんて、必要なくなります。
そう現場に話を戻すと『いやーそれでも一部の人間は自分の運転で走りたがりますよ』と、一向に変化を真に受けていないそうです。
一担当者との雑談なら良いのですが、これが組織に蔓延していたら、それこそ崩壊の始まりです。
現実を軽視したり、自分に都合よく解釈したりする「バイアス」が、社内の空気となり、変化への対応を遅らせている現場を、これまで幾度となくみてきました。
様々な企業の改革プロジェクトにも携わってきた経験上、まずは「事実」と「意見」を分けて整理していくことから始める必要があります。
自動車の素材が、アルミになると衝突時の危険性が増すのは、確かに「事実」なのかも知れません。
しかし、『いやーそれでも一部の人間は自分の運転で走りたがりますよ』という発言は、担当者の「意見」です。
というより、妄想です。
そんな妄想は、一瞬にして吹き飛ばされてしまいます。
『人が運転して事故ったら、保険金が出ない』と保険会社が決めたら、大多数の人は自動運転のスイッチを切ることはなくなるからです。
事実を軽視したり、歪曲して解釈すると、変化の波に飲み込まれてしまいます。
バイアスに感情の揺さぶられている暇があったら、積極的姿勢で打開策を探る時間に当てる方が健全です。
・アルミよりも軽く、鋳造に適した素材開発はできないのか?
・アルミのネガティブ特性をカバーできる新たな部品を開発できないか?
・自動車部品にアルミが使われたなくなったら、取って代わる新市場を創造できないのか?
積極的な姿勢で「事実」に向き合えば、打開策は見つかるはずです。
はじめに、変化を「事実」として、受け止めること。
感情を排し、意見や妄想は、一旦脇において「事実」だけに真摯に向き合うこと。
次に、その事実の本質を見極めること。
その変化はなぜ起きたのか?背景は?目的は?進展するのか、収束するのか…など、表面的な現象だけでなく、変化を文脈(コンテキスト)で捉えること。
最後に、変化にいかに適応していくか…その対策を吟味することです。
本質を見極めたとき、恐れをなして思考停止に陥ってしまうのか、それとも冷静になって活路を見出すのか…この積極的な態度が、命運の分かれ道となります。
御社は、変化を事実として受け止め、本質を見極め、いかに適応していくか…組織内で真摯に向き合う「場」を設けていますでしょうか?