「新しい市場を攻め込んでいるのですが、なかなか口座が開けなくて…」
先日、私が主催しているセミナーにご参加された社長さんからご相談を頂きました。
とある地方で、30年近く民間企業に事務用品、OA機器、印刷物などを販売してきたそうですが、アスクルやAmazonなどのネット企業に押され苦戦を強いられてきていました。
同じ商品であれば、早くて、安くて、便利な方が良いに決まっています。
となると、商品の差別化ができない場合は、売り方や売る人で差別化しない限りは、買い手は我が社を選ぶ理由がなくなります。
従って、何かしらの差別化が必要ですが……
売り方では、アスクルやAmazonに勝てるでしょうか?
営業マンにご用聞きされるよりも、豊富なカタログから色々とゆっくりと選べた方が満足のいく買い物ができそうです。
価格だって、彼らの方が圧倒的な販売力をもってメーカーに交渉するので、太刀打ちは出来ません。
では、売る人はどうでしょうか?
高額商品や購入先によって満足度がかわる商品の場合は、専門知識や周辺知識をウリにするなど、差別化が可能になります。
でも、ボールペンやハサミを買うのに、そこまでのアドバイスも要りませんし、関連情報も求めていません。カタログで充分に事足りそうです。
冷静に考え、このままでは、売上が下降曲線を上向きにするのはムリだろう…
そう考えた社長さんは、新しい商材を仕入れて、新しい顧客層に販売することにしたのです。
扱った商品は、小学校や中学校向けの教材。
販売先は、地元の小学校と中学校です。
その話を伺ったとき「正直キツいな…」と思っていました。
学校への教材販売には携わったことはないのですが、「閉鎖的」「市場原理がはたきにくい」「メリット追求の行動原理はなく、デメリット回避の行動原理が強い」…この手の購買心理が働くことは、経験がなくても分かります。
なので、最初から「その商売を見直すことも考えられますか?」と伺っていました。どう考えても、今までの事業とのシナジーが働きにくいし、参入の難易度から言っても、メリットを感じなかったのです。
ところが、仕入れ先に保証金を積んでしまったし、小さいながらも1校だけ口座は開けたし、学校を攻めたら他の公共団体が問い合わせをしてきたりと好転の兆しも見えてきているので、後戻りはしたくない…という考えだったのです。
「では、その限られた条件の中から、活路を見いださなくてはいけないのですね?」と確認した上で、どうすれば「口説きにくい学校を口説き落としていくか…」という戦術を練っていきました。
営業で担ぐ商品自体には、とくだん「差別化できるもの」はありません。
文科省の許可を得た商品しか販売できないので、どれを選んでも大差はないのです。
買い手である教師も、例年と同じものを選択した方が無難です。新しい教材を自分が選んでしまうと、他の教師や保護者から不評をかってしまうリスクがあるのですから。
という前提条件をから考えると、何としてでも「あなたから買いたい…」という状況を作り出す他、手だてはありません。
私自身、外食産業に情報システムを売り込む際、この「あなたから買いたい…」という状況を意識的に作り込んでいたので、この手の戦術がパッと閃きました。
外食産業の社長は、多忙であり情報収集活動がままなりません。
なので「日経レストラン」や「月刊食堂」などに掲載された繁盛店情報をコピーしておき、繁盛の理由分析を自分なりにおこなって見込客にレポートをFAX配信していました。
自分が行ける範囲の店なら、実際に食べいった感想も添えていました。
メルマガがない時代の、苦肉の策だったのですが……これが功をなして、新規開拓が面白いように成功した経験があります。
「外食産業の経営管理システムを販売する人間が、繁盛店の情報を握っている…。」
販売する商品と営業マンの専門性との親和性が高い場合、買い手は「この人なら話を聞いても良いかな?」という心理状態に陥るのは、しごく当然です。
この消費者心理は他の業界にもヨコ展開できる不変の心理です。
人間は、自分を大切にしてくれる人、自分にとって有益な情報を持ってきてくれる人には、好意を抱きやすくなるからです。
従って、学校に教材を販売するのであれば、教員が悩んでいる事、困っている事、求めている情報などを定期的に自分のフィルターを通して発信することで、「あなたの話を聞いてみたい…」という心理的下地をつくることが同じように出来るわけなのです。
商品の差別化が難しい場合の新規開拓は、売り手自身の差別化を図ることが有効になります。
差別化の目的は「選ばれる存在」になることです。
なにも商品の差別化ばかりが能でないのです。
これは、何も個人プレーである必要はありません。
組織的に行うことで、さらに効果は倍増されます。
我々は、買い手から選ばれる存在になっているのか?
少しでも「?」が頭に浮かんだら、一度営業活動を棚卸ししてみる良い機会なのかも知れません。