とことん「本質追求」コラム第607話 新商品企画の成功率を高める戦略【現場ドキュメント編】

「売れそうな感覚が出てきました。競合他社より多機能で、安価な商品ができそうです!」

新商品企画に携わるプロジェクトで、商品企画のレビューを受けてきました。
企画担当者から、社長をはじめとした開発、営業メンバーへ新商品の内容を発表する会で、関係者にはとても分かりやすい内容。

PowerPointのスライドもキレイにまとまっていて、話し方も明瞭。
誰もが唸るプレゼンでした。

藤冨にとっては初めての業界なので、業界勢力図や各社のポジションまで手に取るように理解でき、企画の方向性をリアルにイメージすることはできたのですが…

なぜか、全く売れるニオイがしてきません。

よくよく考えると理由は、実にシンプルでした。
売れるニオイがしない最大の原因は、解像度の高い商談のイメージが出来なかったのです。

そもそも論として、我々のターゲットは誰なのか…その具体的なイメージも見えてきません。

・既にシステム化した企業なのか?
・それとも、まだ手作業なのか?

ターゲットによって、新商品の売り込む際の「セールストーク」は変わります。
セールストークが変われば、必要となる機能も変わります。

部門横断ミーティングを開催する最大の目的は、企画の精度を高め、開発と営業のムダを抑止することです。

企画が安易に通過し、商談が成立するイメージができないまま開発がスタートすれば、発売した後になって、必要な機能が漏れていることに気づいたり、不要な機能を開発してしまうなど、ムダが生じてしてしまいます。

さらに、完成した製品のウェブサイトやパンフレットを作成しても、的外れな商品だった場合、あとから全て作り直ししなければならなくなります。

営業部門が駆けずり回れば、人件費、旅費交通費もムダになります。

的外れな企画は「企画→開発→プロモーション→営業」と、
事業連鎖の下流になればなるほど埋没コストを膨らませてしまいます。

したがって、商談をイメージし『これなら売れる!』という鮮明なイメージが出来るまで、企画のレベルをあげなければならないのです。

もう少し具体的に掘り下げて、その理由を解説しましょう。

例えば、ターゲットによってセールストークが変わる、とはどういうことか…

競合商品のシステムを導入済みで、それをスイッチさせるケース。
または、未だシステム化しておらず、手作業で作業をしているケース。
双方を比較しながら、みてみましょう。

● 競合商品のシステムを利用しているユーザーをスイッチする戦略の場合

どうやってスイッチしてもらう提案を行えば、受注できそうか…商談における鮮明なイメージができなければ、営業が苦戦するのは、火を見るより明らかです。

・今のシステム(競合)にどんな不満があるのか?
・我々の商品固有の「機能」を使った顧客は、具体的にどんなベネフィット(※)を享受できるのか?

(BtoB商品の場合は、経済的利益が見えないと、営業で苦戦します)

このスイッチング動機(買い替えたい気持ち)が、強ければ強いほど、営業での勝ち目は見えてきます。見込み客を集める広告投資効果も高くなり、高い営業利益が見込めます。

しかし、スイッチング動機が弱い場合は、いくら安くても「慣れたシステムを捨てて、新しいシステムを学び直すのは面倒だ…」という購入障壁が頭をもたげてきます。

普及学においても「新しい技術や知識を習得する必要がある場合、普及は遅い」ということが数千もの事例から立証されています。

スイッチングの壁を甘くみてはいけません。
普及学によると、84%の人(企業)は保守的な購買行動をとるのです。

となると、新しいシステムを学び直すのは面倒だ…という保守的な姿勢よりも、さらに強い「魅力的なベネフィット」を提供する必要があるわけです。

ここで勘違いしてはいけないのは、競合より優れた機能を打ち出すのではありません。
機能は、売り手目線の言葉です。

その機能を使って、買い手は具体的にどんなベネフィットを享受できるのか。
商談で説明した時に、相手が「それを求めていたのです!」と、身を乗り出すようなイメージができなれば、スイッチングの壁を乗り越えることはできません。

我々がコンサルティング現場で、機能→効用(ベネフィット)変換を、徹底的に煮詰めているのは、こうした理由があるのです。

●システム未導入企業に、新規導入を促す戦略の場合

ローマの靴商人というマーケティングの小話があります。
アフリカの地にたどり着いた営業マンA は、アフリカ人が誰も靴を履いていない状況をみて「マーケットがない。靴は売れないだろう…」と判断。ところが、営業マンBは、「絶好のチャンスだ!これは売れる!」と判断した。

みんな営業マンBのように、ポジティブになろう!と、現場を知らない研修講師たちが会場で叫んでいるそうですが…

現場をよく知らずに、ものごとを一面からしか見ずに突っ走れば、落とし穴にハマってしまいます。

・なぜ、彼らは靴を履いていないのだろうか
・靴を履かずに困っていることはないのだろうか

まずは、現場の事実(顧客ファクト)を掌握しなければなりません
その上で、我々として、どのような対策が講じられるのか、それが企画の出発点となるのです。

上記のプロジェクトも全く同じです。
なぜ、彼らは、未だにシステム化をしていないのだろうか?

・パソコンが苦手だから?
・鉛筆舐め舐めの方が、早いから?
・投資マインドがないから?

理由がわかれば、対策が打てます。

・スマホに手書きするオペレーションで完結!(パソコンが苦手でもOK )
・現場で作業すれば、事務所に戻ってからの作業が激減する(鉛筆舐め舐めは、非効率だった)
・リース換算だと1日500円!これで事務作業から解放される!(バイト代の方が高かった…)

と、理由がわかれば、対策となるコミュニケーション戦略から逆算した「商品企画」を行えます。

現場をよく理解した上での商品企画は、確実に成功確率を引き上げます。
従って、面倒でも市場を把握する必要性があるのです。

・システム普及率はどの程度か?
・システムを利用している顧客層の具体的な不満は何か
・彼らが気に気づいていない不合理はないか
・システム未導入社は、なぜ導入をしていないのか
・導入しないことによる具体的な不合理はなにか

このような問いに対して、一つずつ丁寧に答えていくことで、その新商品開発が、どの程度の需要があり、我々に収益をもたらしてくれるのか…商売の成否を鮮明に見せてくれるのです。

商品企画は、成功する商談イメージの解像度が上がれば、売れる確度は劇的に向上します。
さらに、マーケット構造の解像度が上がれば、新商品販売による収益が、財務上に与える影響度の「見える化」ができてきます。

御社は、商品企画に、営業・顧客目線を織り込むプロセスを重視していますでしょうか?