とことん「本質追求」コラム第603話 商品開発の前に「売れる」ことを確認していますか?

「新刊(部門横断チームで稼ぐ組織を育成する」を読み終えました。顧客起点から商品のあり方を企画して、販売戦略との一貫性を保つことの重要性は、本当におっしゃる通り!ウチもお陰さまで、顧客起点経営がようやく定着してきたように感じます」

以前、プロジェクトをご一緒した社長さんから、嬉しい読了感想メールを頂きました。

同社は、5年前から3つの新規事業を立ち上げ、それぞれ事業を軌道に乗せており、成長企業の一つの指標となる「過去3年以内に発売した新商品の売上高比率が20%を達成している企業」です。

顧客起点の経営を実践している技術力も確かな会社です。
社長と社員が同じ顧客目線を感じられるよう定期的にすり合わせもされているそう。

当時は、部門横断チームと言った呼び方はしていませんでしたが…

実質的には、部門横断チームが機能し、商品戦略と営業戦略の一貫性が保たれています。

その結果、新規事業の成功確率を高め、手戻りコストを最小化することができています。

この手戻りコストを最小化することは、とても重要な概念にもかかわらず、意外にも軽視されているのが実情です。

これまで、様々なプロジェクトに関与してきましたが、商品企画段階から、失敗を未然防止できれば、手戻りコストはゼロにできたのに…
と悔やまれるケースを何度も経験してきました。

商品が完成し、ホームページも出来上がり、プレスリリースも成功させ、広告もガンガンかけて、営業部門も汗水垂らして、頑張る。

それでも、思うように売れない。試行錯誤しても、それでも売れない。

気づけば、ホームページ制作費、広告費、営業活動費が、雪だるまのように膨れ上がってしまっている。

取り戻さないと…

頑張れば、頑張るほど、追加経費が膨れ上がり、後戻りできない状態になってしまった…。
このような悲劇は、当たり前のように転がっています。

10年前に発売した『営業を設計する技術』にも事例を掲載しましたが、川下(営業)で苦労をすればするほど、手戻りコストが膨れ上がっていくもの。

営業コンサルタントを雇って、マネジメントを強化しても、新たな広告手法を取り入れても、企画段階でのミスは、絶対に取り戻せません。

顧客が購入利益やメリットを感じない商品企画や、熾烈な競争環境に晒された商品は、営業部門の努力だけでは、どうにもならないのです。

第一ボタンをかけ間違えれば、一旦全てのボタンを外し、ゼロからやり直さなければなりません。
無理やり販売すれば、顧客からは不評を買い、優秀な営業マンからも愛想を尽かされます。

商品企画のミステイクに気づいたら、すぐに営業を切り上げ、商品企画から出直さないとならないのです。

しかしながら、なぜ商品企画のミステイクが起きるのでしょうか?

答えは非常にシンプルです。
これは売れる!
と言った、思い込みだけで商品を企画しているのが、全ての元凶なのです。

私たちも、この真実を知ってからは、同じ轍を踏んでいません。

結果、1000に3つしか当たらない…と言われている新商品開発で、ほぼ負け知らずの成果をあげています。

手戻りコストを抑制できれば、社員の皆さんの士気も高まります。
ムダな努力をせず、しかも失敗の責任を押し付けられなくて済むからです。

利益も残り、社員のモチベーションも高まる!
新商品開発の成功確率をあげることは、極めて重要な経営視点だと私たちは考えています。

早く売りたい!と、企画を軽視して、
「販売価格は、⚫︎円位でいこう!」
「ネーミング?まぁ、テキトーで良いですよ」
「お客様のメリット?使って貰えれば、分かりますよ!」
と、売り手の勝手なイメージだけで、企画を進めるケースが後を経ちませんが、今一度、立ち返って考える必要があります。

つい先日新商品の企画段階で、価格は1万円くらいじゃないと、面白くない!と言った社長がいました。

ん?1万円。

業界のことは、熟知していませんが、直観的に1万円は高過ぎるだろう…と感じ、顧客の実情を観察させてもらう機会を作り、現場に入り込んでみました。

案の定、とても1万円で説得できる商品ではありませんでした。
価格は、顧客が得られるメリットや利益と相関関係にあります。

メリットや利益が得られる確信を持てれば、それに見合った対価を払ってくれます。
しかし、受け取れる価値に対して、対価が割高に感じたら、購入を躊躇います。

買い手の立場からすれば、しごく当然のことなのに、売り手の立場になると、この相関関係を軽視してしまう…。

これが、失敗の元凶です。

対策は、極めてシンプルです。

商品を企画して、製品を開発する前に概念レベルで、お客様に売り込んでみるのです。

企画と営業が密に連携し合う必要性をお感じいただけたでしょうか?

ここで、確証が得られれば、あとは、同じようなターゲット層のマーケット規模と自社の売上予算や営業予算などのリソースとの関係性を吟味すれば、取り組むべき事業か否かが、経営判断できるはずです。

一般的には、PoC(概念実証)と言われている業務です。

PoCを実施することで、新しいアイデアや技術が実現可能かどうかを事前に確認できます。
もしも、企画の想定がズレていれば、性能や機能を見直して、開発を進めることができます。
また、マーケティング戦略のズレに気づけば、価格やパッケージも事前に修正することが可能になります。

企画段階での微差は、営業段階での大差を生み出します。
煮詰め方が甘ければ、手戻りコストは増大するばかりです。

そう考えるとPoCは、新商品開発や新規事業では、欠かすことの出来ないフェーズとなるのです。
むろん、既存商品の改良計画でも同じです。

買い手の目線を、事業プロセスに組み込むことは、本来避けては通れない道であるはず。

御社は、PoC(概念実証)を事業プロセスに組み込んでいますか?

[著 藤冨雅則]